2025-09-01
327.米国トランプOBBB法案:ギャンブル課税へのインパクト
トランプが議会に提出し、すったもんだの挙句7月4日に可決されたOne Big Beautiful Bill (OBBB「一つの大きな美しい法案」)だが、あまりにも大きな一本の法案で連邦議会議員は本当に全ての法文を読んでいるのか等が話題になった。
単純な予算法案ではなく、重要法案とともに様々な法改正等が含まれているからだ。
大きな項目は話題になるが、詳細になると話題にする議員すらでてこない。
この中に、下院で可決された法案には全くなかったのに上院金融委員会により紛れ込まされた一部法案が賭博損失控除減額規定(Gambling Loss Reduction Limit)だ。
法案は上院で修正されたため、下院での再決議が必要になったのだが、この段階の下院で些末の規定の修正等議論できるはずがなく、とにかく法案を成立させることが優先されたというのが現実だ。
この賭博損失控除減額規定だが、今までの制度としては賭博行為で損を被った金額(支出)は賭博行為で勝った金額(収入)の範囲内で税務申告により100%控除できた(2017年Tax Cut & Jobs Act)。
ところが今回の法改正により2026年1月1日以降、これが何と90%に減額されることになってしまった(Sec70114 Extension and Modification of limitation on wagering losses)。
例えば賭け事で総計11万㌦の勝ち分があったが、10万㌦の損失もあった場合、この10万㌦は勝ち分から全額控除できるとすれば課税申告所得は1万㌦で済む。
ところがこれが2026年以降、控除できるのは90%即ち9万㌦のみになってしまう故、申告所得として2万㌦が課税対象になってしまう。
要は体のいい増税だ。
この場合、もし損失と収益が同額ならば、架空の収益に対し課税されるということになりかねない(これをPhantom Taxという)。
議会合同課税委員会はこれにより10年間で連邦税が11億㌦の増収になると公言している。
とらぬ狸の皮算用に近いのではと思うが、控除を受けるためには賭博行為の損得を記録する必要があり、収入と支出は別々に記録し、申告する。
損失の記録はIRS Form 1040 Schedule A Line 16にて申告し、勝ち分の記録はIRS Form 1040 Line 08bに記載、申告する。
因みに損失控除は非居住者外国人でも可能でForm1040-NRを用いて申告する(もっともこれはジャックポット等大当たりになった場合での適用だ)。
この法律は全体の中の一部の法律としてあまり議論もされずに上院の委員会で追加されたものだ。
通さざるを得ない重要法案の場合、些細な追加規定等は無視され、中身等はあまり審議等していないのだ。
大きな減税を伴うOBBB法案である以上、少しでも増やせる財源は増やそうという考えが政府と上院にあったということになる。
この結果、案の定、法案可決後様々な反対、法律修正の動きが議会並びに民間側にでてくることになった。
民主党Dina Titus下院議員(民主党ネバダ州)と Ro Khanna下院議員(民主党、カリフォルニア州)は法案成立後直ちに Fair Accounting for Income Realized from Betting Earnings Taxation (FAIR BET) Act (HB4304)を上程、これは賭博損失の100%控除を認めOBBB法関連を破棄する内容の僅か数行の法案だ。
この法案は下院歳入委員会で審議されることが決まっている。
一方上院議員の Catherine Cortez Masto(民主党ネバダ)は Full House Act (“Facilitating Unbiased Loss Limitations to Help Our Unique Service Economy”)を提出したが、これもギャンブラーによる損失100%の税控除を認める内容になる。
このほかBarr下院議員も7月3日同趣旨の法案を提出する有様だ。
賛同する声や圧力もあるが今後どう展開するかは微妙である。
一体この法律で誰が損を被るのだろうか。
通常の賭博行為を単純にリクリエーションとして楽しむ顧客は損得を記録し、申告するような手間をしない。
一方、ある程度の施設訪問頻度が高く、総消費金額が大きくなる顧客は、申告しないと損を被ることになりかねない。
被害を受ける最大の主体はプロのギャンブラーや大口取引をするカジノにとっての優良顧客だ。
彼らにとってみれば確実に増税ということになる。
この損失税額控除は賭け事に関してのみ適用されることになるため、Sport Event Contractの様に賭博ではないスワップ取引ということになれば、別の法律に基づき損失の控除ができることを示唆する。
こうなるとSportsbookは賭博故、SportsbookではないSport Event Contractの方が税法上のメリットが出てきてしまうという公平感の欠けるおかしな話になってしまう。
もっとも上記とは別にOBBA法案がギャンブル業界にメリットをもたらすという条項もこの法案の中に入っている。
IRS Code Section 6041の改正だ。
カジノ場のスロットにおけるジャックポット大勝ちは今まで$1200以上の勝ちが税務申告の対象で、書式W-2Gが顧客にカジノ施設から提示され、これに基づきIRSへ申告・納税が必要であった。
この規定は何と40年前の1977年制定のものでその後何度かにわたり、この下限制約を改定し、あげる制度的試みがなされていたのだが、実現していなかったのが実態だ。
実際の法の施行は内国歳入庁(IRS)が実施規則を定めることにより初めて適用が可能になるため、現状いつから施行されるかは未定である。
業界はこの規定は歓迎している。
この規定に伴い規則上の事業者(カジノ施設)顧客並びにIRSにとっての事務負担が軽減すること、顧客にとっての価値が向上すること等のメリットがあるからである。
一方マスコミで話題になったもうひとつのOBBB法案の規定は、レストランやカジノ等のサービス産業におけるチップ非課税だ。
但し、あまり報道されていないのだが、制約が多い。
チップは$25000以内、残業代は$12500以内という上限規定がある。
かつすぐ使える資金が増えるわけではなく、2026年初頭に確定申告をして初めて控除対象にでき、メリットを取得できる。
年収15万㌦以上の場合には15万㌦上限をこえる$1000毎に$100控除できるのみだ。
この意味では2025年中は雇用主によるチップ収入に対する源泉課税は継続される。
かつこれは時限立法で2028年迄だ。
また連邦税は確かに減るが州の所得税は減らない。
どうにもややこしいがトランプ流の選挙戦術としての政治的な減税施策はこうなると見掛け倒しにすぎない気もする。
もっとも我が国の選挙に向けてのバラマキ政策にも類似的な側面もある。
(美原 融)