2026-01-26
348.マシュー・ボワイヤー事件
日本のマスコミは、海外情報は全てネットや通信社情報で、自分で情報ソースをチェックせずにストーリを組み立ててしまうのが得意のようだ。
最近の大手新聞等の記事やネット情報記事を見るとまたかという記事も満載だ。
マッシュ―ボワイヤーとはかの大谷選手の水原通訳に違法賭博を勧め、巨額な賭け金損失を大谷選手の口座から盗むように仕掛けた違法な個人胴元だ(700人以上の顧客がいたとされ、水原通訳はその一人になる)。
11月20日にネバダ州ゲーミング委員会がマシュー・ボワイヤー関連で大手カジノ事業者のシーザーズに780万㌦の制裁金を課し、シーザーズがこれを認めたことが日本の新聞では、大谷、水原違法賭博と絡んでシーザーズに制裁金と何の説明もなく、これが大谷・水原と関連しているという思わせぶりの記事となった。
何の根拠もないままに、それやっぱり水原の違法賭博と絡んでいるのだという憶測記事になる。
困った記事だが、米国の情報ソースを調べてみれば、全く勘違いの情報であることがわかる。
昔の事件でホットなニュースではないのだが日本の新聞を読むとあたかも今起こった情報のように思える。
米国では刑事事件に係る情報でかかるタイムギャップがあることは日常茶飯事だ。
この事案は2025年ラスベガスの大手カジノ事業者4社(MGM. Resort World, Wynn, Caesar‘s)に係る一大スキャンダル事件の一角でしかない。
全てが同じではないのだが、同じ時期に大手4社がそろいもそろって連邦銀行秘密法(Bank Secrecy Act)違反、州マネーロンダリング規制法違反、違法資金移動への関与、報告義務無視、遵法精神欠如、企業風土の課題等を指摘され、前代未聞の巨額の罰金刑を食らったという事案の一角だ。
よって「違法賭博」に関与し、これら4社が問題となった事案ではない。
いずれの場合も、本来疑わしい人物として当局への報告義務がある主体を意図的に報告しなかったり、本来入場を拒否すべき主体を自由に来させたり、疑わしい資金の巨額の預託や違法送金に関わったこと、AMLプログラムの無視などが、事業者としてあるまじき行為と断罪されたわけだ。
本来ならばいくら現金を積まれようが、疑わしい人物はマネーロンダリング法制上まず規制当局に対する顧客情報報告の対象であり、状況次第では入場拒否や規制当局調査の対象にもなる。
ところが営業ラインがいいかもだと確認すると内部統制等効かなくなってしまう。
売り上げや利益を増やすことが企業や職員にとっての強力なインセンテイブでもあるからだ。
マーケッテイング上どうしても社内手続きやコンプライアンス等無視して、堂々とかかる顧客にVIPステータスを与え、カジノで遊ばせるという悪習が現場では横行した模様だ。
要は本来しっかりとしたAML(反マネロン)プログラムが実践されるべき所、企業の利益を上げることを企図し、違法な行為を助長したということになる。
件のボワイヤーとこれら事業者とのかかわりだが、彼は違法ブックメーカーとしてはかなり前から知られており、過去の経歴も違法賭博に関連した噂もあったなど、この業界ではある程度疑わしい主体として認知されていた。
そもそも連邦政府が被告マシュー・ボワイヤーを違法賭博で捜査対象にしたのは2021年にさかのぼり、かなり前の話だ。
既にこの頃からやばい顧客ということは皆が知っていたことになる。
結果、大手事業者があろうことか、この事実に目をつぶり、組織内に遵法意識も浸透していなかったことが問題となった。
ネバダ州ゲーミング委員会は事業者をバラバラに時間差をおいて罰金刑に処したため、わかりにくかったのだが、当初罰金刑をくらったのはResort World Las Vegas(3月27日、$10.5 Mの罰金)その後Wynn(5月23日$5.5Mの罰金)MGM(7月25日、$8.5Mの罰金)、最後がCaesar’s(11月27日、$7.8Mの罰金)だ。
WynnやMGMはボワイヤーとは関係ないが、長年にわたる個人エージェントに関する類似的なマネロン関連未報告が問題となったので事情は全く類似的ともいえる。
Resort Worldの件はトップ(もともとMGM社長でそのころからの継続事案)の刑事告訴、有罪判決、幹部総交替、格付け下落というスキャンダルに発展したことは記憶に新しい。
前代未聞の大手事業者に関するマネロンスキャンダルになったのだが、これら四社に対する制裁金の差異がなぜ違うのかはよくわからない。
いずれも規制当局との交渉で決められている。
Resort Worldは組織としての体質が問題とされたため、理解できる。
Caesar‘sに関してはボワイヤーは2017年から2024年迄頻繁にCaesar’s施設を訪問しており、同社は、他のカジノ施設からは入場禁止措置をうけている高いリスクの人物として既に5年前からこの事実を知っていたにもかかわらず、連邦政府が彼の自宅の家宅捜索をした時点で初めて入場禁止措置をとったというお粗末かつ悪質な展開だ。
Caesar’sの勝ち分は $2.6 millionといわれ罰金はその3倍になる。
何と7年間も関係は続いていており、組織としての内部統制やガバナンスは全く機能していなかった。
もっとも誰か個人の意図的な行為ではなくシステム的な怠慢(Negligence)が原因とCaesar’sは説明している。
物は言いようだが、企業としては意図的に悪意をもってかかる未報告をしたわけではないとし、悪者は組織にはおらず、AMLプロトコールの無視、報告怠慢、疑わしい人物の囲い込み等はシステム的な怠慢(Negligence)から生じたものという言い訳になる。
但し、規制当局からすればこれは制度や規制の致命的な欠陥があったという査証でしかない。
この事案がネバダ州規制当局に深刻な課題をもたらしたのは、カジノ事業者による法遵守、ガバナンス、組織管理がしっかりしていなければ連邦法・州法に基づくマネロン対策や犯罪対策等何らの効果もなくなってしまうことだ。
当然のことながら、前例のない巨額な罰金刑とともに、より厳格な規則への見直し、企業による組織的なガバナンスの見直しとその厳格な履行とモニタリング、職員教育の徹底や、四半期毎の定期的な規制当局への報告義務等が各事業者に課されることになった。
実はこの問題はラスベガスだけの問題ではない。
過去数年の間オーストラリアの主要カジノ施設でも類似的な理由・背景に基づき、マネロン違反、報告無視等の不祥事が起こり大きな問題ともなった。
制度の枠組みに甘い点はなかったのか、これまでの慣行は適切であったのかという課題は世界のカジノ業全体にとっての課題にもなったのだ。
(美原 融)