2025-06-30
318.オンラインギャンブル規制①:ギャンブル等依存症対策基本法の改正
昨年来芸能界やスポーツ界における著名人による違法なオンラインギャンブルへの参加はマスコミにとっては格好の話題となった。
企業や組織が調査を始めると芋ずる的に「私もやりました」と言い出すものがでてくるのだが、何かがおかしい。
全ての被疑者が倫理的に反省、後悔し、調査に自ら名乗り出ること等考えられないからだ。
スマホを使い違法オンライン賭博で遊んだ所で、誰も見てないし、ちょっとくらいならばれること等ありえないと信じているならば自ら告白することなど絶対無い。
おそらく何らかの端緒情報を捜査当局が把握し、証拠に基づき事情聴取等を行ったため、逃げられなくなったように思える。
端緒情報とは例えば密告、たれこみ等も含むが、これでは証拠たりえない。
我が国における送金・収納代行業者、違法サイトへの誘導役等が賭博幇助やマネーロンダリング等の容疑で捜査・摘発された際に、支払い代行者や関連金融機関への捜査令状に基づき、一定期間における資金の流れを把握し、ここから資金移動が大きい顧客を特定し、任意の事情聴取を実行し、自主的に申告するように仕向けたのだろう。
この中に著名人が含まれていれば、警告としての宣伝効果も十分あり、立件価値も高くなる。
マスコミは違法オンライン賭博で捕まった顧客は2024年には279人前年比2.5倍になったと危機感を煽っている。
もっとも2023年1月に公表された警察庁によるオンラインカジノ実態調査によると現在の利用者は196万7000人、過去の経験者になると336万8000人に上ると推計している。
逮捕された顧客数は砂漠の中の水の一滴でしかない。
警察当局は国民によるネットでの活動を監視しているわけではなく、積極的に賭博に参加する顧客を摘発する暇等ないのだ。
警察庁が国会の答弁でも捜査の手法や実態を一切公表しないのは、この実態を国民が知らない方が抑止効果も高まると考えるからだろう。
要は捕まったヒトは運が悪かったということになるが、オンライン賭博は違法、違法と政府が注意喚起するだけで賭博参加者が減らないのは、自分は捕まるまいと思ってしまう国民が多いからに違いない。
オンライン賭博はIRカジノの制度設計の段階では問題外の違法行為として、検討の対象にすらなっていない。
ところが技術の発展に伴い、オンライン・モバイルでのエンターテイメントや賭博へのアクセスの簡便性は 若年層による参加蔓延を引き起こし、これに伴う賭博依存症の実態や課題を新たにもたらすことになった。
IRカジノは限られた閉鎖的な空間における賭博行為でもあり対象者が限定され、その行為も可視化されるため、この前提で様々な依存症抑止のための措置が制度化されている。
一方、サイバー世界から提供される外国からの違法オンライン賭博に関してはこれらを律する何らの規制も制度も無く、全くの野放しの状態になっている。
マスコミ・SNSや社会の関心も高くなり、やはりこれは問題として、一部超党派の国会議員の間で何らかの法的措置を今次通常国会にて講じるべきという意見が強くなる。
この結果、本年度通常国会でギャンブル等依存症対策基本法を改正し、この中に違法オンラインギャンブルを禁止する規定を設けるという方針になった。
(3月13日自民党テロサイバー犯罪対策調査会、4月1日自民党ギャンブル依存症等対策基本法改正原案取り纏め)。
法案は5月3日衆議院財務金融委員会で、6月3日衆議院で可決、6月18日に参議院でも可決・成立した。
この法律自体は賭博依存症対策の理念と共に、このために国や地方公共団体、事業者等が担う責務を規定したもので、本来特定の賭博行為を禁止する法規定をこの中に入れ込むことは筋違いではないかとも思える。
確かにオンラインギャンブルを禁止することで依存症の拡大も抑止できるという意味では関連性が無くもない。
関連閣僚会議で採決された改正ギャンブル依存症等対策基本計画にもオンライン賭博規制強化の考えが記載され、一応の整合性はあるのだろう。
但し、新たな立法措置を考慮するよりも、てっとり早く、既存の関連しうる基本法の中に議員立法で無理やり追加的な概念を入れたのではないかという印象を受ける。
具体的には同法第9条のギャンブル等依存症対策に関連する業務に従事する者の責務の一つとして、違法オンラインギャンブルのウエッブサイトを提示する行為等の禁止、リーチサイトやSNSで誘導を発信する行為や違法オンラインギャンブル等を行う場を提供する行為等の禁止規定と共に、第14条の広報活動等の項目に違法オンラインギャンブル等を行うことが禁止されている旨の周知徹底を図るための措置を含むという表現が追加された。
但し、この禁止規定には罰則規定もなく、監視も監督規定もなく、誰がこの禁止規定の法の執行を担うのかという点も明らかではない。
確かにこの法改正は、国民や国内の関係者にオンラインギャンブルは違法という明確なメッセージとはなることは間違いない。
直接のオンラインギャンブル提供には関わらなくとも、その幇助に参加しうる主体に対しても抑止効果はありそうだ。
但し、これだけでは海外オンライン賭博事業者はかかる規定を無視してサイバー世界で提供を継続するだけになってしまう。
効果は薄く、悪意をもってすれば実効性は疑問となる。
もっとも国会審議では外務省は警察庁と協力し、特定化された海外違法オンライン事業者と当該国政府等に対し、日本国民を対象とすることに警告等を発出したとして「やってる感」を演出しているが、相手は真面な国とも思えない小国の軽課税国だ。
これも無視されるだけだろう。
国内法が適用されない世界から賭博行為を提供する主体に対する抑止は国民や弱者を違法行為やその弊害から守るという目的から、複数の手段を併用して国民を守るという包括的な施策が諸外国では実践されている。
単純な禁止規定や周知徹底ではなく、国民を守る複数の抑止手段を明確に法的に位置づけ、罰則規定や、この法の執行体制迄を包括的にかつ厳格に規定しない限り、完璧な抑止には近づけないのが現実ともいえる。
(美原 融)