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2025-06-23

317.金融デリバテイブと賭博⑥:Sport Event Future Contract

英国での賭博の定義には「何らかの事象が起こるか、起こらないかの予測」、「あらゆる事象が正しいか否かの予測」もその範疇に入り、規制機関たる英国賭博委員会(UKGC)が規制し、その提供には免許が必要となる(Part 1 Sect 9, Gambling Act 2005)。
要はあらゆるイベントや神羅万象の事象が将来起こるか否かを賭けの対象にすることができるわけで、これには結構な人気がある。
英国のブックメーカー(胴元)は世界中のあらゆる事象を賭け事の対象にしているが、通常事象が起こることに顧客が賭け(Backという)、胴元が起こらないことに賭ける(Layという)。
オッズは需給により胴元が設定する。
この他Bet Exchangeという分野もある。
特定の事象が起こるか否かを賭けることは同じだが、これは顧客同士がLayかBackを選んで賭けるもので、オッズは顧客が設定し、他の顧客がこれにマッチする。
またこのポジションを顧客が売り買いできる市場(オンラインベッテイングプラットフォーム)を胴元が提供し、顧客は損失や利益を事象が起こる前に確定できる。
胴元はWinning Bet(勝った顧客の配当)から若干のコミッションを得るという仕組みになる。
こういう側面を見ると、オンラインベッテイングプラットフォームとは限りなく金融取引所の機能に近い。
将来起こりうるか否か予測のつかない金融リスクのヘッジ手段でもある金融派生商品(デリバテイブ)も将来のイベント予測と類似的だ。
いずれも投機的な側面があり、偶然性、その結果に金銭を賭すること、うまくいけば勝てることへの期待という賭博の基本的性格を満たすからだ。
もっとも英国では制度的な混乱を避けるため、金融サービス法第63条(Sec 63 Financial Service Act 1986)に基づき、金融派生商品は投機ではなく、Gaming Act of 1984の対象外になると規定されている。
即ち法的に賭博行為とは見なさない整理がされている(これは2000年のFinancial Service and Market Act でも踏襲された)。
賭博行為と金融派生商品の明確な線引きがなされているといえる。
よって英国では米国で問題となったFuture Event ContractやBet Exchangeはあくまでも賭博であって、賭博行為以外の何物でもない。
尚、英国ではスポーツ試合の将来の予測結果を予測し、賭ける行為はSport Bettingの範疇でこれも賭博の一類型になり、別途賭博法体系の中で定義されている。

一方米国ではこの将来イベントの予測(Future Event Contract)は金融デリバテイブの一部として商品化されたことがその嚆矢となる。
賭博の様に単純固定的な賭け予測ではなく、オッズも人気次第で変化し、一端購入したポジションを売り買いできるプラットフォームがあることは上記英国のBetting Exchangeに極めて類似的な商品になる。
これが正当な金融デリバテイブ商品といえるのかという議論はあるのだが、必ずしも煮詰まった議論がなされたわけではない。
ややこしいことに、Future Event Contractが認められるならば、将来のスポーツ試合の結果予測も同じではないかとして、Event Contractと同じようなプラットフォームを様々なスポーツ種、著名なスポーツ試合を対象として金融商品として商品化する事業者が本年一月以降出てきたため、大混乱を招くことになったわけだ。
米国ではスポーツ関連 賭博は州政府毎の制度・管轄・規制となるが金融派生商品は連邦法に基づき連邦政府の機関による管轄・規制になってしまう。
州法ではなく連邦法による規制となると、州域とは関係なく、全米で販売可能な商品となるため、類似的なものとして異なる制度の下に異なる行政主体の管轄下で提供され始めてきたために混乱が生じることになったともいえる。
因みに米国の州ではBetting Exchangeを法的に認めた州は今の所限られる。

尚、日本にはまだ将来のイベント予測市場というものは認められておらず、存在しない。
これは我が国の法理では明らかに賭博という分類になってしまうからだろう。
尚、米国で行われている議論に似たような議論は我が国にも存在する。
金融派生商品(デリバテイブ取引、先物・スワップ・オプション・FXなどの取引の総称)は、取引所の法的根拠や取引の目的、金融商品取引法の規制範囲などによって賭博罪が成立する可能性があることが従前より指摘されてきたという経緯がある。
将来の市場における商品の価格変動という偶然によって、金銭授受の額が決まるため、形式的には賭博罪に該当するおそれがあると考えられるからだ。
偶然の事情により財物の得喪を争う行為は、我が国では刑法上の(単純)賭博罪,常習賭博罪,賭博場等開帳図利罪に該当する(刑法185条、186条)。
但し、別途法令で(金融商品取引法及び商品先物取引法)で認められている場合には、正当行為として違法性が阻却される(刑法第35条)ことになるという事情にある(平成11年11月29日 金融法委員会 「金融デリバテイブ取引と賭博罪に関する論点整理」)。
金融上の投機取引は一定のルールに従ってこれが公正に行なれるように法律が限定的にこれを正当行為として認めているわけだ。
したがって,この枠外にあるものは民法90条の「公序良俗」に反するとされ、違法行為と判断される可能性がある。

英国の様に賭博行為に寛大な国は、規制の下にあらゆる賭博行為を認めるという前提に立つために、境界・線引きが必要なものは単純に賭博行為の中に分類し、規制すればよいという考え方にたつのだろう。
一方我が国では賭博行為は原則禁止、好ましくないという倫理観が優先されるため、新しい賭博の類型や商品がうまれにくいという土壌にある。
米国では賭博規制は州政府の管轄になるため、国としての統一的な規範はない。
一方金融市場は連邦規制の下で極めて発展しており、金融派生商品の枠組みを利用し、賭博類似的商品を市場に投入したため、混乱が生じたことになる。
何が正解なのか、どの国のアプローチが適切といえるのかについては様々な議論がある。
スポーツ関連賭博法をもう少し再考し、その可能性を広げることができうれば、我が国でもこの分野の議論の活性化を図れると思うのだがどうだろうか。

(美原 融)

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