2025-09-15
329.オフショア・オンライン・カジノ②:マルタ・改正ゲーミング法第56条A係争
賭博行為は法的にはサービスの提供になるのだが、EUでは域内での自由なサービス提供原則の例外として各国レベルでの個別規制が認められている。
よって賭博行為を認めるか否か、認める場合如何なる規制を設けるかは各国次第ということで、規制の在り方も税制もこの分野での経済的統一はEUには存在しない。
マルタという国は地中海の人口47万人にも満たない小国でEU加盟国だが、こと賭博に関してはかなり特異な制度を設けていることで有名だ。
マルタ等小国の国内でカジノ免許等賭博免許を付与しても売り上げ等はわずかなものでしかない。
マルタの賭博免許とはサイバー世界、インターネットを利用し、マルタではなく,国外の顧客を対象に賭博サービスを提供できるオフショア市場を対象とする賭博免許になる。
相手となる国がどこであろうが全く関係なく、世界中で多言語、24時間の賭博サービスを提供する免許を与えているわけだ。
これら事業者に課す免許料やオフショアで儲けさせ、一定の収益課税を課すことにより、安価なコストで企業を誘致するという産業施策でもある。
軽課税国ではなく、正式なEU加盟国であるマルタが提供するオフショアカジノライセンスとなると、たとえペーパーパンパニ―であろうと箔もつき、しっかりした?企業とみなされうるからだ。
自国内において賭博行為を規制したり、禁止したりしているその他のEU諸国にとってはとんでもない話であって、禁止や規制は関係なく、サイバー世界から自国民に賭博サービスを提供する「違法」事業者が堂々とEU域内から違法サービスを提供しているという構図になる。
マルタ法は事業者の廉潔性を担保する様々な規制があり、事業者は同国企業で責任者の常駐、サーバーの国内設置と定期監査等の規定があるのだが、顧客保護等は表面的なものでしかない。
どこの国かわからない顧客を保護し、過剰な賭博を抑止するなどの施策は一切取っていないのだが、ま、これは当たり前かもしれない。
この意味では同国の賭博規制は本質的に緩い。
一方EU域内の諸国の対応は、たとえマルタがEU圏の国であろうが、自国の免許を得ていないマルタからのネット事業者は違法として関連サイトアクセスのブロックや預託金等支払い関連ブロックの対象としている。
もっとも一国の制度で排除は可能なのだが、完璧でない側面もあったり、事業者に対する警告にも拘らず、市場から退出しようとしない事業者も存在したりする。
EU法上は、賭博規制は各国の裁量判断となるのだが、サイバー世界を通じ他国の事業者が賭博サービスを提供することを禁止する法制度はEUにはない。
提供することはEU法上禁止されないが、一国内でかかるオンライン賭博の提供を禁止する制度を設ける国が殆どである。
マルタでは正当な事業者かもしれないが、同じEU圏内では(各国のオンライン免許を取得しない限り)違法になり、排除の対象になるという矛盾した状況になる。
この結果、様々な民事訴訟がEUの複数国で生ずることになってしまった。
EUの過半の国では免許を取得していない違法賭博事業者(のサイトやプラットフォーム)で賭け事をし、負けた場合、その違法事業者から損失額の損害賠償を求めることができるという規定があることが多い。
マルタのオンライン事業者からすればとんでもない話ということになるのだが、かかる訴訟がドイツやオーストリーで起こり、マルタ事業者が敗訴する事案が生じてきたことが問題を複雑化させることになった。
問題となったのは2023年に改定されたマルタ・ゲーミング法第56A条の改正規定だ。
同条はマルタにおいて事業免許を取得している(オンライン)事業者を保護する規定になり、他のEU諸国から法的訴訟を起こされた場合、その訴訟の判決がマルタの公共政策に反する場合、訴訟判決の執行を拒否できるとする内容だ。
要はEU域内の訴訟で原告が勝訴しても、企業の本拠地であるマルタで法の執行ができないならば、損害賠償は成立できず、訴訟判決自体価値がなくなってしまうことになる。
問題が生じたのはこの国内法の規定を根拠にオーストリーにおける違法な賭博での損失補填を求めた損害賠償請求判決の法の執行をマルタ政府が公益に反するとして拒否したことにある。
係争事由となった場合、EU法で禁止されていない以上、他国の法令は認知せず、自国の法令が他国の法令より優越するとしたわけだ。
ところがEU委員会はこのマルタ・ゲーミング法第56A条はそもそも域内におけるサービス提供の自由を担保するTEFU条約(Treaty on Functioning of European Union)違反の疑義ありとして2025年6月にマルタ政府に対し、正式な警告を書面で発出した。
。
マルタ政府は自国の制度はPoint of Supply免許モデルであり、免許を得た事業者はマルタ法、EU各国法を順守する義務があること、56A条は海外における事業者の活動を保護する盾ではなく、EU法を凌駕するものではないこと、かつこの規定は極めて狭い範囲での公共政策上の例外事項でしかないと反論した。
EU委員会が欧州裁判所(ECJ)に欧州条約違反事由として正式に提訴する手続きをとるか否かはまだわからない。
もし係争事由になると賭博行為はEU法の範囲外とされてきた条約解釈を広げることに繋がり、EU法の解釈に関する係争になってしまう。
通常の陸上設置型賭博施設である場合、施設は一国内に存在するため、既存の枠組みや慣行でも問題は一切起こらない。
一方インターネットやモバイルを駆使してサービスを提供するオンラインカジノ(賭博)の場合には、堂々と国境を股がるサービスの提供となるため、従来の制度との一貫性と整合性は崩れてしまう。
オンラインによるサービス提供に関してはEU内でも様々な規制が実践されつつあるが、ことオンライン賭博に関してはいまだ何等かの統一的、共通的な規制の考えがあるわけではない。
一国の公安秩序に係る公共政策は、EU条約の範疇外だからだ。
ところで日本政府は6月にマルタ政府に対し、わが国民に対し、違法なオンライン賭博の提供をやめること、事業者に対しGeo-blockingを要求するなどの対策を正式に要求したとの報道があった。
これでは犬の遠吠えのようで、一国が政策的に進めている施策に文句をつけたところで無視されるだけだ。
効果等あるわけがない。
国内対策としてわが国民に「やってる感」を示しているだけのように思える。
(美原 融)