2025-09-22
330.オンラインカジノ規制:フィリッピン事情
フィリッピンはもともと賭博行為には寛容な国民性があり、今やアジアの中では賭博大国とでもいえる程、様々な賭博種が認められ、かつ国中に大小さまざまな賭博施設が存在する。
昔は闇違法施設や犯罪組織の関与、違法オンライン賭博等が跋扈する国でもあり、政治家がこれを利権化したり、犯罪や賄賂等も横行したりした時代もあった。
近年は制度的には相応の規制が機能しつつあるようにも思える。
オンラインカジノに関しては何と1995年以降、フィリッピン国民ではなく海外の顧客のみを対象とするオフショアオンライン賭博(POGO)が制度化され、かなりの隆盛を誇ったが、外国政府との軋轢や違法行為の横行等により社会問題化し、2024年に制度として廃止されている。
一方、フィリッピンでは公式にはネットでのオンライン賭博を国民には認めていなかったのだが、2022年に政府は市場全体を活性化する目的でフィリッピン国内において国民を対象にオンライン賭博を提供する行為を民間事業者への免許(PIGO)という形で認めている。
アジア圏で自国民が参加できるオンライン賭博を制度的に認めたのはフィリッピンが初めてである。
この免許は既存の陸上カジノ施設免許を取得している事業者も取得可能であったため、彼らもこのオンライン市場に参画し、オンライン賭博市場は大きな発展を見せることになった。
2020年の国内オンライン賭博のGGRは129.1億ペソであったが2024年にはこれが1540億ペソと4年間の間に10倍以上の急速な成長だ。
今や国の賭博税収の40%以上はオンラインがベースとなっている。
これには国民のだれもがスマフォを持ち、これを日常的に使い、電子決済も一般的になってきたという背景がある。
誰もが安価な単価で何時でも、何度でもサイトにアクセスし、賭け事を楽しめる環境ができたわけだ。
規制機関であるPAGCORにとり、オンライン賭博は業務の拡大、税収増をもたらす唯一の市場でもあり、これを保護する政策をとってきた。
ところが実態は様々な社会的問題を引き起こすことになる。
特に未成年や貧困層によるアクセス頻度の増大やこれに伴う社会的危害、依存症等の社会的危害が顕著になり始めたのだ。
国会では、オンライン賭博の全面禁止を訴える議案や規制をより厳格にする様々な法案(10の法案が全面禁止、30の法案が規制強化)を議員が上程する事態に陥った。
全く混沌とした有様になる。
より厳格な規制導入案としては、支払い代行業者による支払い上限規制、一日当たりのサイト閲覧時間上限規制、ヘビーユーザークーリングオフ時間規制、電子財布経由の支払いや著名人を起用する宣伝・誘因施策の規制等その内容は多岐にわたる。
全面的に禁止すべきではないかという議員も多いのだが、業界は猛反対、PAGCORも全面禁止ではなく、規制の強化でことたりるという立場だ。
一方大統領はポジションを明確にせず、様々な利害が絡む故、慎重に検討すべきとして、この動きに賛同するか否定するかはまだわからない。
因みにヂュテルテ副大統領は明確な反対、全面禁止を表明している。
一方中央銀行も2025年7月に独自の規制案を提案したが、これは支払いシステム運営者(OPS)と支払いサービス代行業者(PSP)を全て中銀の認可制にして、監視、検査の下におき、システム運営者に対しては最低資本金規制、AML/CFTリスク管理体制具備、6時間、24時間毎報告規制を、支払いサービス代行事業者に対してはオフサイト監視、オンサイト検査を実施し、顧客勘定開設・利用規制、顧客勘定監視・不審な動きの毎月報告、顔認証本人確認等金融機関としてできる範囲での厳格な規制を提案している。
確かにこれが本当に」実践できうればかなりの効果はありそうな印象を受ける。
この騒ぎの渦中で8月に至り、内務・地方政府省(DILG)は地方政府職員並びに地方公務員に対し、オンライン賭博参加を禁止する措置をとった。
またフィリッピン中央銀行は、上記とは別に賭博ゲームのアプリと現地における電子財布(E-Wallet)とをDelinkさせる行政命令を発出した。
アプリの中で一端設定すると、アプリから自動的に電子財布に繋がり、賭け金の支払いを実行できる仕組みが横行し、確かにこれでは過剰な消費につながりかねない事情がある。
代表的な同国のE-Wallet事業者である G-Cashの利用者は何と9400万人で国民の81%がこれを使用しているといわれ、E-Wallet利用の監視・規制を強くすれば、確かに賭博サイトへのアクセス抑止に繋がる。
もっともDelinkさせても賭博アプリから支払い方法として探せば電子財布にアクセスすることもできるわけで、手順を複雑にさせたに過ぎない。
こんな措置に効果はあるのかという懸念もあるのだが、この措置が実施された日より事業者の一日あたりの売り上げ・GGRは半減したというから驚きだ。
手順を複雑にしただけでも、日常的に賭博を楽しんでいた普通の顧客にとっては、やりづらい、面倒くさいからやらないという行動をとらせたに違いない。
勿論これは一時的な現象でしかないのだが。
事業者は8月にPlay Safe Allianceという業界団体を組成し、より積極的な政治ロビーイングを開始し始めた。
国会では様々な議論が展開され、オンライン賭博を禁止するのか、あるいは厳格に規制する方向性になるのかは不明だ。
もっともたとえ実現しても、法の執行を誰が、どのように実施するのかという問題が残る。
規制機関であるPAGCORは規制のみの機関で、法執行の権限があるわけではない。
但し、規制という意味では様々なツールをもっており、これを抑止の手段として用いることは当然できるのだが、彼らにかかる行動をとるインセンテイブはない。
法の執行となるとNDI(国家調査局National Bureau of Investigation)ないしはPNP(国家警察Philippine National Police)しかないのだが、こうなるとフィリッピンの事情は混沌としてくるし、誰が、どこまで、何ができるのかはわからなくなってしまう。
これでは法や規制を設けてもその執行は機能しないかもしれない。
但し、例え現状が混沌としていても、フィリッピンは今後段階的に良い方向に向かうかもれないという期待はある。
(美原 融)