2025-07-28
322.オンラインギャンブル規制⑤:支払いブロッキングの法制
ハードルが高く未だに日本では議論の対象となっていない防御手段は支払いブロッキングだろう。
支払いブロッキングとは資金の流れに着目し、これを規制しようとする考えになる。
具体的には①顧客が勘定を設け、ここに何らかの手法により自分の銀行口座等から資金を移動・送金する行為(この勘定の資金を引き落として賭博行為をする)、②胴元が顧客勝ち金を払い戻すために何らかの手法を用いて顧客の銀行口座やクレジットカード、電子財布等に送金したり、クレジットしたりする行為、③支払い行為に関与する金融機関や金融仲介者(Payment Processor)に対し、決済や決済指示をストップさせる行為、④これら違法送金行為を代行したり仲介・支援したりする事業者のサイトをブロックして、サイト自体をネットワークから遮断する行為等をいう。
いずれも資金の流れの一要素となるが、やりやすいのは③、④で、これはどこの国でも金融機関や金融仲介者は別の法体系で規制の対象でもあり、捕捉・管理しやすい事情があること、やはり別法体系でのオンラインサイトアクセスブロックに絡んでその幇助者を捕捉したりしやすいことなどの事情があるからだ。
一方、①、②は個人の決済関連情報を捕捉せざるを得ないため、単純にはできず、どうしても難度が増してしまう。
資金の流れを断てることができれば最も効果的な抑止手段になることは間違いない。
お金が流れなければ、賭博行為は成立せず、こうなると誰も違法オンライン賭博等に興味等示すわけがない。
ところがことはそう単純ではなく、実践のためのハードルはアクセスブロッキングより高いかもしれない。
EU/EEA諸国の内52%の国の法令では違法なオンライン賭博の決済を規制機関が関連する決済機関ないしはその代行者に対し、その送金・支払をブロックできる命令を出せる権限規定を設けている。
ところが実際に支払いブロックを実践している国は30%のみで、実践していない国も多い。
これは実際には実務手法等を規定するSecondary Legislation(政省令等)が必要となるがこれが未整備であったり、実際に支払う行為を担う金融機関や送金代行業者に対し支払行為をブロックさせたりするためには様々な法的制約要因が国内制度にあったり、法的にはできるがそこまでやる必要がないとする規制機関の判断(例えばフランス)があったりする等の理由・背景がある。
例えば誰がどのように誰を対象に違法取引や支払い口座を特定し、かつ支払サイト、支払い主体を特定し、ブロックするのか?ブロックする判断基準や法的根拠は明確か?等の法的実務的課題がある。
悪質な賭博行為のみの収納代行をするような業者が外国には存在するが、通常の金融機関や支払い代行業者は善意の第三者という立場であろうし、顧客や業者による違法な支払行為を事前に把握することは難しい。
事後であっても最初から支払い目的を賭博とは関係のない名目に偽装してしまえば、これも特定は困難だ。
あるいは顧客が自分の銀行口座から海外にあるE-Walletに資金を送金し、ここに資金を滞留させたのちに後刻賭博関連決済にこの資金を使えば、この資金の流れをトレースできなくなる。
海外オンライン賭博事業者も支払い目的を偽装しうると共に、顧客をかかる行動に誘導するなどの作為も散見できる。
また誘引仮想通貨決済やブロックチェーン技術を用いたサイトとなると、これまた一部はトレースできなくなる公算が高くなる。
今や新しい技術・手法が支払い行為に用いられるようになると、法令や規制では追いついていけない状況になってしまうのが現実なのだ。
尚、英国では2014年に法令ではなく、規制機関(UKGC)と金融関連事業者との間で任意契約(Voluntary Agreement)を締結、英国民を対象とした免許を取得していないオンラインサイトへの支払いをブロックすることを取り決めている。
これも一つの在り方であろう。
本年5月に我が国の警察庁と金融庁は連名で金融業界団体、日本資金決済協会、日本暗号資産等取引協会等に対し、オンライン賭博は犯罪であることの利用者への注意喚起や利用約款等の中で違法な決済行為の禁止を明記することや、オンラインカジノの決済であることを把握した場合、当該決済を停止すること等を要請している。
あくまでも行政当局による「お願い」ベースであって命令でもなければ、遵守しなくとも罰則規定があるわけでもない。
極めて日本的なやり方なのだが、こうなると決済に関与する主体は顧客企業があからさまにオンラインカジノ事業者と繋がっていることを把握したり、顧客自身が賭博決済であることを認めたりした場合には支払い行為自体はブロックされることになる。
但し、金融機関等はかかる資金移動・送金行為の詳細を常に監視しているわけではなく、違法行為が事前に露見することは稀でしかないように思える。
もっともこの通達により、顧客も海外の違法事業者や代行収納事業者等も複数のルートやチャンネルを使う回避行動をとると共に、送金や支払いの名目を賭博遊興とする主体もいなくなるに違いない。
この試みは一定の抑止効果を期待できるだろうが、うまくいくかどうかは今後の市場実態を見てみないと解らない。
これら様々な施策はいずれも違法賭博行為を抑止し、依存症の危害を縮小化する政策的な試みに繋がることは事実だ。
但し、既存のバラバラな法制度の枠組みの中で、少しずつパッチワーク的な努力をしているだけにしか思えない。
諸外国でも違法オンライン賭博を防止する様々な仕組みが実践されているが、完璧な防止策は存在しない。
日本では公営競技や富くじはその過半の売得金はオンライン決済でもあり、オンラインを利用する合法的な賭博行為は既に日常的に存在する。
合法的なオンライン賭博と違法なオンライン賭博が混在し、共存しているのが現実でもあり、国民の視点からすると極めて解り難い。
国民に違法、違法と周知を徹底することは重要なのだが、周知徹底だけでは問題の解決には程遠いという現実を認識する必要があるだろう。
既存の法制度をパッチワーク的に改正しても、完璧な抑止はできない。
本来違法なオンライン賭博という特定行為に焦点を絞った新たな法規制の体制を構築することが好ましいのだが、このハードルは高い。
(美原 融)