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2025-08-04

323.オンラインギャンブル規制⑥:支払いブロッキングの法制 米国事情

米国には従前からオンラインギャンブルの支払いブロック法制があるではないかという指摘がある。
確かにそうだが、事はそう単純ではない。
実態を見てみよう。
2006年9月30日に成立した連邦違法インターネット賭博執行法(UIGEA Unlawful internet gaming enforcement act)は連邦法・州法で違法となるインターネットを用いた賭博関連支払いであることを知った上で顧客の支払要請を(金融関連当事者が)認める事を禁止する法律になる。
対象となる支払い手段(Designated Payment System)は①ACH(預金機関間電子決済ネットワーク)、②小切手回収システム、③(クレジット)カードシステム、④資金移動業、⑤資金送金システムだ。
もっとも対象となる金融事業参加者は顧客と直接的な関係があるものとされ、その他は原則免除になる。
何のことはない確実に対象になるのはカードシステムのみでその他は直接的な関係がある事業者・分野のみになる。
法はこれら支払い手段システム毎に業務の参加主体が対象を識別・特定化する政策と手順を関連事業者が整備することを要求する。
全く理解に苦しむ内容でしかないが、要は規制の直接の対象は金融機関であって、違法なインターネット事業者でもなければ、顧客たる国民でもない。
この法はオンライン賭博を禁止する法律ではなく、かつオンライン賭博に参加する国民にオンライン賭博をすることを禁止させる法律でもない。
あくまでも金融機関や金融仲介者を規制の対象とし、違法オンライン賭博の支払いをブロックできれば、関連違法行為の息の根を止められるという発想だったのであろう。

但しこの法律はそもそも連邦議会会期末の最終日に確実に通すべき法律の一部として添付され、ろくな審議もなく成立した法律だ。
よって中身は成立後様々な議論を呼び起こすことになってしまった。
法は施行後270日以内に財務大臣と連邦準備制度理事会が共同で施行規則を定めることを規定している。
問題となったのは、そもそも金融機関は何を判断基準としてどう支払いや送金をブロックするのか、そんなことは実務的にできるのか、できない場合金融機関は如何なる義務を担うのか、こんな曖昧な法的義務をどう遵守できるのか等が明確になっていなかったからだ。
このため業界との意見集約に時間がかかり、施行規則はすったもんだの挙句、2008年11月(31USC5304,Reg GG73FR69405)になりようやく制定されたといういわくつきのものになる。

ややこしいのはUIGEA法以降の米国における制度や慣行の変遷とオンライン賭博の立ち位置が大きく変化したことにある。
米国司法省は2011年に連邦有線法、連邦UIGEA法の解釈を再考し、州政府が法的に合法と認める限り、オンライン賭博(カジノ、ポーカー)自体は連邦法上禁止や規制の対象にはならないと規定した。
オンラインをベースとするスポーツブックは連邦プロアマスポーツ保護法(PASPA)により禁止されていたのだが、2018年5月に連邦最高裁により違憲として破棄され、これも州政府の判断により許諾されることになった。
UIGEA法の規定により、州法で認められる場合はUIGEA法の適用対象外だ。
よって違法ではない賭博行為のオンライン決済は問題にもされない。
またUIGEA法自体、当初から競馬のオンライン決済やファンタジースポーツ、証券取引法・商品取引法等は対象外としており、国民からすればかなりわかり難い制度であったことは間違いない。
またUIGEA法上のブロッキングとは違法なオンライン事業者の決済取引(送金・入金・出金)等が制限取引(restricted transaction)であることを関連する金融機関、クレジット・デビットカード会社等が認知した場合、別途自らが定める方針と手順に基づき取引そのものを拒否することをいう。
要は、金融機関は個別企業顧客との取引開始時点で違法なオンライン賭博に関わっていないことを確認したり、明らかに違法行為であると自らが認識したりした場合にはブロックする義務はあるが、個別の取引を恒常的にモニターし、違法行為か否かをチェックし、違法行為を特定し、これをブロックすることを要請されているわけではない(ま、そもそも金融機関等はこんな監視や摘発はできないし、かつ本来やるわけがない)。
この意味では金融機関等決済仲介者は過剰な義務を課せられてはいない。

ではUIGEA法成立後の状況はどう展開したのであろうか。
UIGEA法制定時はオンラインによる賭博行為が全米で(制度も免許もないままに)飛躍的に増大していた時期でもあった。
法制定とともに、欧州等先進国からオンラインで米国に市場参入した上場賭博企業の2/3は米国市場から撤退したが、何が起こるか解らないという不安によるものだ。
1/3は米国市場をあきらめず、ブラックマーケットとして残ったといわれている。
UIGEA法に基づく法の執行としての著名な事例としては2016年4月15日に複数の海外大手オンライン賭博事業者の経営者が米国に入国した時点で逮捕された事件だ(この業界ではBlack Fridayという)。
この事件により一挙に海外からの違法オンライン賭博は減少するに至った。
ところがその後、州政府によるオンラインカジノ、オンラインポーカー、オンラインスポーツブックが合法化されるようになると、これら州ではUIGEA法の禁止規定は適用されず、オンライン決済自体が日常的に賭博行為に採用されるようになってくる。
更に事情が複雑になったのはUIGEA法には記載のない(金融機関が介在しない)仮想通貨等の新たな支払い手法が市場に現れ、これが決済の主流になりつつある兆候がでてきたことだ。
現状では連邦政府は動けず、UIGEA法も制度上は存在するとはいえ、実質的なループホールができている。
かつ海外を拠点とした違法オンライン賭博サイトには米国法による法の執行はできず、この分野の違法賭博は野放図に拡大してしまった。
この結果、実態面では連邦UIGEA法は既に機能せず、海外の違法オンラインカジノサイトが跋扈する状況を招いている。
州政府は独自の試みにより違法サイトを特定し、これをブロックしたり、関連支払いを遮断したりする手法を実践しようとしているが、効果の程はまだ見えてこない。

(美原 融)

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