2025-06-09
315.金融デリバテイブと賭博④:Sport Event Future Contract
スポーツイベント契約の影に隠れてしまったが、実は2021年以降、州政府の賭博事業者免許を取得し、州政府の規制・監督下で(規模はまだ小さいが)類似的なBetting Exchange(賭け事の交換市場)を提供している事業者は複数存在する。
Peer to peer(P2P) sport betting platformと呼称しているが、株式市場で株を売買するのと同様にスポーツ試合の結果予想に関し、オッズを顧客が設定でき、顧客間でこれらを売買/譲渡したり、リアルタイムで賭けのPerformanceをトレースできたりするというものだ。
事業者は勝者から一定のコミッションを取得するというビジネスになる。
このビジネスモデルは2022年にニュージャージー州でProfet ExchangeとSporttradeというベンチャー2社が州賭博規制当局の免許を得て、賭博行為として提供し始めたのが嚆矢となる。
その機能はその後出てきたスポーツイベント契約と殆ど類似的なのだが、州政府の免許に基づき個別の州内でのみ賭博関連事業者として運営していること、より厳格な州政府規制の下にあること等が異なる。
現状かかるBetting Exchangeを認めている州はまだ限られる。
一方スポーツイベント契約は連邦商品取引法(CEA)の規定に基づき、連邦の機関CFTCが規制する金融派生商品でもあり、全米50州で売買可能な契約商品になる。
これは2024年12月22日からCrypto.comが商品として提供し初め、翌年1月以降Kalshi等の参入により急速に成長してきた市場だ。
賭博行為ではない為、規制自体は甘く、法準拠のための費用も安く、かつ税負担も小さい。
顧客から見るとより有利なオッズが提供される可能性もある。
賭博ではないとしながらも、殆ど同じものが顧客に提供され、競合している状態になる。
一つは州内だけで厳格に規制されているが、もう一つは全ての州で売買可能な規制の緩い競合商品であるとすれば、これでは同じレベルでの競争環境ではなくなる。
この州政府の許諾を得ているBet exchange事業者が声を上げ始めたことにより、事態は更に混迷を深めることになってしまった。
Sporttrade Incはアイオワ州、アリゾナ州、バージニア州、コロラド州、ニュージャージー州の5州で州政府賭博規制機関の許可を得てBet Exchangeを運営しているスタートアップ企業だ。
同社は本年4月25日付で連邦政府の規制機関であるCFTCに対し、公開書簡により、州規制を受けている自分達も全米50州においてBet Exchangeの提供を認めることを要請するという行動をとった。
連邦政府の認可・規制によるKalshiやCrypto.com等スポーツイベント契約も自分達のBet Exchangeと同じであって、彼らは同じような商品を有利な環境で全米50州に販売しており、このままでは修復不能な危害を受けかねないとして、平等、公正な判断・対応を求めたわけである。
(CFTCが表明しているコアな原則に準拠することでスポーツイベント契約市場に参入することに対し、反対しないことを要請するNo Action Reliefを求める形式になる。
CFTCは過去この手法で試行的に認めた前例がある)。
公正な市場環境にするためには、二つの選択肢があり、一つはスポーツイベント契約を禁止することだが、二つ目は市場をよりオープンにし、競争を活性化させ、Bet Exchange事業者をも参加できるようすることで、市場のイノベーテイブな活動を壊さないこの手法が適切という理屈になる。
州政府規制には過去準拠してきたため、彼らから反対がでるとも思えず、顧客に対しても様々な顧客保護の規制に妥協せず、より競争的かつ透明な選択肢を与えられるという主張だ。
何とBet Exchange(賭博行為)をPrediction Market(予測市場)の中に組み込むという逆の発想なのだが、CFTCにとっても予測市場を巡る州政府との係争が連邦訴訟で争われている以上、対応に困る要請になる。
賭博商品を金融商品と同等と見做して認めるというハードルは矛盾を放置することになるからだ。
混乱は増すばかりなのだが、連邦訴訟では、訴状、原告・被告による申し立て、ヒアリングや第三者による支援陳述、控訴状等全ての書類が公開されており、双方の主張や論点がようやくはっきりしつつあるのが現状だ。
一方、本来4月30日に開催されるはずであったラウンドテーブルへ向けての利害関係者の公開意見書は数十も提出され、全てCFTCのサイトで公開され、各々の立場や主張が展開されている。
既存カジノ事業者、全米ゲーミング協会(AGA)各州賭博規制機関、州政府、警察当局、有識者等が意見を提出したが、一部を除きその殆どがスポーツイベント契約とは規制をバイパスする規制逃れのスポーツベッテイングに過ぎないとする強力な反対意見になる。
一方連邦裁判の動向をにらみながら、慎重な態度でCFTCへ抑制の効いた再考を促した規制機関もある。
プロスポーツ団体(MLB/NBA)はスポーツイベント契約の存在そのものを否定してはいないが、スポーツの廉潔性保持や八百長、不正、いかさま防止等の措置や対応策が金融商品では致命的に欠如している点を憂慮している。
興味深いのは最大手のスポーツブック事業者の動きかもしれない。
DraftKingは本年初頭にNational Future Associationに会員申請し、一端DraftKing Predictという商品を登録したがタイミングが悪いと見たのか4月にこれを取り下げている。
Bet MGM, Rush Street Gaming, Fan Duelもリスクでもあるが好機とみている節もあり、単純に反対という立場をとっていない。
Fan Duelの親会社Flutterは欧州で世界最大規模のBet Exchange子会社を保持しており、この分野への参入はいとも簡単にできる。
彼ら州政府の認可を得ている賭博事業者が、CFTCの認可を得てスポーツイベント契約市場へ参入してくるという可能性もゼロではない。
但し、これは上記のBet Exchange事業者と同じで、賭博事業者が堂々と金融商品として賭博行為を全米で売り出すことに等しい。
これでは州政府規制機関を無視することになり、制度の方向性と枠組がしっかりと固まらない限り、おそらく機能しない。
こうなると、事はCFTCの意向だけでは決められない状況になってきつつある。
消費者の立場にたったバランスのとれた規制の枠組みが必要なのだが、連邦法でこれをやるのかあるいは州法なのか、誰が何をどう規制するのか悩ましい論点が多々あることになる。
(美原 融)