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2025-06-02

314.金融デリバテイブと賭博③:Sport Event Futures Contract

米国の制度の解り難さは、連邦政府と州政府とが、連邦法、州法に基づき様々な法体系を構築しており、必ずしも全てに整合性があるわけではないことにある。
おまけに慣習法の国でもあり、判例や法解釈の積み重ねも複雑で、かつ法令解釈も常に一定であるとは限らない。
賭博行為の管轄及び規制は2018年の最高裁判例(Murphy v. National Collegiate Athletic Association, No. 16-476, 584 U.S. 453 )に基づき、連邦政府は関与すべきではなく、州政府の管轄になるという法解釈が定着している。
この判例に基づき、スポーツブック(賭博)は州政府の管轄権限としてこれを制度化し、許諾・規制するという枠組みにより、現在に至る迄38の州とワシントン DCでその施行がなされている。
一方斬新的な金融派生商品としてのイベント予測は、連邦米国商品取引法(Commodity Exchange Act CEA, 1933年証券法+1934年取引所法)の規定に基づき認可された指定契約市場(DCM)としてその取引が認められている。
その商品は認定事業者が適法と判断する場合、自己認証により、規制機関である連邦証券先物取引委員会(CFTC)に報告することのみで、売り買いの対象にすることができる(慎重を期し、事前認可を求める手続きも選択肢としてはある)。
勿論例外はあり、Dott & Frank法の一部として制定された規則40.11は規制機関であるCFTCが公益に反するイベントを対象とする取引を特定、検証し、その取引を禁止できる裁量権を与えている(裁量権であり、義務ではない)。
6つある項目には違法行為、テロ、殺人、連邦法・州法違反事項等と共に項目(v)としてGamingが列挙されている。
もっともこの用語の定義はなく、何がGamingなのかの判例もない。
またGamingは明らかに許可されない限り州法では違法なのだ。
問題は連邦法にて認可され、連邦の規制機関が規制者となるスポーツイベント取引を州の賭博規制機関がこれは賭博行為で州法に基づき違法と指摘したところで、それを判断する権限は州政府にはないということに尽きる。
この場合、そもそも規則40.11に記載されたGamingとは一体何なのか、また、連邦法の規定の適用は州法に優先されるのか否か等という問題が生じる。

1984年の米国最高裁の判例には、連邦法の規定が曖昧である場合、その内容が合理的である限りにおいて、国の機関による法解釈が尊重されるべきとある(Chevron Inc v Natural Resource Council Inc。
これはChevron Doctrineと呼称する有名な判例だ)。
もっとも2024年最高裁判例において、上記Chevron Doctrineの基本を踏襲しつつも、裁判所の判断が国の機関の法解釈を凌駕する可能性もありうるとし、40年継続した慣行は将来覆される可能性があるという保守派主流の最高裁の判断となった(Loper Bright Enterprise v Raimondo)。
トランプの指名による共和党保守派が連邦最高裁の多数派を占めるためこうなる。
ということは、具体の案件に重ねてみると、Chevron Doctrineを踏襲すれば裁判所の判断ではなく、連邦政府の機関であるCFTCの判断が優先される。
逆に2024年最高裁判例を踏襲するとCFTCではなく、裁判で争う場における(最高)裁判所の判断が優先されることになり、CFTCの見解が覆される可能性もあることを意味する。
要はどっちに傾くか現時点では予想がつかないのだ。
尚、連邦法と州法との優越性を判断するには三つの考え方があるとされている。
一つ目は「明示的な優越性(Express Preemption)」即ち連邦議会が制定した法文の中に連邦法が州法等その他の規定より優越することが明確に記載されている場合, 二つ目は「矛盾がある場合の優越性(Conflict Preemption)」州や地方の法律が、連邦法の規定に対して矛盾した場合に連邦法が優先されるという原則、三つ目は「分野が異なることによる優越性(Field Preemption)」で法文では連邦法の優越性は明確ではないが、連邦法の適用に州法規制の余地はなく、連邦議会も連邦法は州法を凌駕する明確な意図があった場合、というものだ。
Kalshiの主張は明らかにField PreemptionとConflict Preemptionの両方で、本来連邦CEA法制定段階からCEAの法規定は州法に優越する国の独占的な制度として創設され、当初から立法府にその意図があったということになる(7USC2(a)(1)(A))。

州の規制機関とKalshiはどちらも法廷闘争を諦めるわけが無く、結局連邦最高裁の判断を求める迄いくのだろう。
連邦最高裁が州政府規制機関の立場を認め、連邦規制より州政府の優位性を認めれば、Kalshi並びに同業者は予測商品の重要部の市場からの退出を迫られることになりかねない。
KalshiはCFTCが判断すればその意思には従うことを公言している。
逆に、連邦最高裁が州政府より連邦規制の優位性を認め、Kalshiの立場を認めると、全米で合法となる実質的なスポーツブックが別の連邦法の体系で提供されることになってしまう。
こうなると州政府の規則や制度の環境や枠組みは瓦解すると共に、州民による制度への信頼性は喪失しかねない。
かつCFTCの法律上の機能は、当該対象契約が公益にかなうか否かを検証し、必要な場合これを認可しないとすることができるとするのみで、当該商品の提供を監視モニターしたり、違法行為を摘発したりする等の権限はない。
日本でいえば単なる許認可官庁にすぎず、賭博規制の経験・知見は無く、賭博行為の実務的な規制者たりえない。
また未成年保護や責任ある賭博、依存症やマネーロンダリングへの対応等もCFTCの所掌・権能では対応不可能だ。
かかる実務的な側面に対応できない以上CFTCは賭博規制機関を代替することはできないことは誰の目にも明白かもしれない。
かつスポーツブッキングの世界では、顧客の行動をモニターし、いかさま、八百長等の違法行為をAIを用いてチェック・精査する仕組みが導入されている。
このために賭博施行事業者やスポーツ団体、州規制機関の間の密接な協調が必須となるのだが、賭博ではないイベント契約には同等の対応を期待する術もない。
CFTCはこれら矛盾をどう解決するのだろうか。

(美原 融)

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