2026-01-19
347.米国スポーツ賭博不正行為とNCAA方針混迷
全米学生体育協会(NCAA)は学生スポーツの統括団体で、2023に選手、コーチ、スタッフ等学生スポーツ関係者によるスポーツ・ベッティング参加を禁止する方針を打ち出した。
学生スポーツ関係者がスポーツ賭博に関与することは深刻な脅威になると共にスポーツの廉潔性を損ねかねないとされたためである。
一方スポーツ・ベッティングは2019年以降州毎に立法化が進み、今では全米の80%の人口を占める様々な州で実践されている。
当初考えられていた以上にその普及が進展し、学生スポーツ関係者も様々な賭博行為への参加不祥事が報じられてきたことが実態だ。
禁止をしたところで、ちょっとした遊びとしてスマフォ経由スポーツ賭博に参加してしまう選手や学生スポーツ関係者がでてくるのは仕方が無い事象かもしれない。
かかる些細な不祥事が多発し、禁止するよりも認めた方が問題は少なくなるのではという意見が多数派を占めるようになってきた。
世の中が合法で、学生スポーツ関係者のみ禁止というのは割に合わないし、余程のことが無い限り、自分はばれないと思って遊んでしまう学生や関係者は実は多いのだ。
この実情に鑑み、NCAAはこれまで厳格に禁止の対象としていた学生選手、コーチ、スタッフによるプロスポーツの賭け事を認める方針に転換する議論を重ねてきた。
ルールを議論するDivision Iの役員会が4月28日ビデオ会議で開催され21対1で認める方向性を決めた。
この後評議会で認可され、6月には方針変更が決定する予定となり、フットボール、バスケット、ホッケー、野球、ゴルフ、テニス等のプロスポーツベッテイングに学生スポーツ関係者も参加できる方向性だ。
尚、問題を抱える依存症等の症状を呈した者には例外救済規定ないしは罰金減額等の制度を設け、何らかの対応措置がとられることが予定された。
勿論学生が担う大学スポーツに関する賭け事は当然のことながら禁止のままだ。
自分達学生が主役のスポーツに関してはさすがに賭博の対象とすることは絶対不可ということになる。
Division II, Division IIIも同様に評議会決議に同意し、ようやくこれで解禁になると思われたていた。
ところが、ふってわいたのがプロスポーツNBA(全米バスケットボール協会)所属元コーチ・選手によるスポーツ賭博関連八百長事案だ。
Tanking(チームが意図的に試合に負けることで、翌年のドラフトで優先権を得て 有望な若手選手を獲得しやすくする)、内部情報遺漏(選手のけが等の秘匿情報を第三者に漏らす)、Peak Shaving(意図的に点を取らず、総得点を一定範囲に収め、賭けの手助けをする)のみならず、ニューヨークのマフィア組織に違法ポーカーへの顧客誘致等てんこ盛りの犯罪で11州にまたがり34人も逮捕されるという前代未聞の犯罪事案となった。
類似疑惑はMLB(全米メジャーリーグ野球機構)やNFL(全米フットボール協会)にも飛び火することになる。
昔のいかさまはチームの試合の勝ち負けに係るもので複数メンバーのチームでの対戦になると、勝敗の帰趨を決めるためには、必ず複数名が悪事に関与するというのが通例でもあった。
こうなると八百長はかなり難しいし、かつ複数人が絡むと露呈しやすいという特性もある。
ところが上記スキャンダルで問題となったのは、マイクロ・プロップスと呼ばれるスポーツ・ベッティングの賭け方だ。
チームの勝敗には関係なく、選手個人のミクロのパーフォーマンスを賭けの対象にする。
例えば次のイニングの大谷選手の投球速度はxマイル以上か以下か等選手の個別の細かい直近のパーフォーマンスが賭けの対象だ。
試合の勝敗には関係なく、個別の選手の行動が賭けの勝敗に繋がり、当該選手がいかさまをしたところで、外部には絶対解からず、まずばれにくい。
制度的に認められたポーツベッテイングの仕組みの中でこれをやるとまずばれる。
これは全ての賭け金行動は第三者機関によるモニタリングの対象になり、巨額の金額がおかしな賭け金行動に繋がる場合、確実にばれるような仕組みが存在するからだ。
事実直ちに問題が把握され、スポーツ団体、規制機関、捜査当局による調査が入ることになった。
この結果、州規制機関、州政府、州議会並びに各種スポーツ団体は一斉にいかさまの対象になりやすいマイクロ・プロップスを禁止する措置の方向へ動きつつある。
プロップス・ベットは大きな人気はあるが、やり方次第ではスポーツ選手による不正を招きやすい仕組みであることは間違いない。
ところがプロスポーツ団体どころか今度はNCAAの関係者(3つの大学、New Orleans, Mississippi Valley, Arizona State の6人の前大学バスケットボール選手)が知り合いの賭博者に対し内部情報を提供(ピッチャーの投球スピード等のマイクロ・プロップスを賭けの対象に)していたという疑惑が報道されてしまった。
これが7月以降NCAAによる査察、規制当局・捜査当局への通告という事態に進展する。
かつあと30人も調査中という情報が流れ、さすがにこれはNCAA内部で大きな問題に発展する。
NCAAによるプロスポーツブックルール解禁の話は一端中断され、11月末を期限にDiv I, II, III各々がルール変更をどう扱うか再度議論し、投票し、判断することになった。
結果はなんとDiv Iは2/3がルール変更を破棄、Div II,IIIも同様の結果になり、NCAAによるプロスポーツブック解禁はとん挫した。
行き過ぎたスポーツブック賭博行為は(関与する関係者が多いため)どうしても不正やいかさまを招きやすい。
結局こんな不正は昔から継続して存在しており、今回はたまたま表にでただけで、またぞろ起こりうるという意見もある。
不正やいかさまが起こりやすいリスクのある賭け方はやはり一切認めないことがスポーツブックの世界では必要なのだろう。
尚、日本の報道では賭け事の仕組みも知らずに、米国ではやはりスポーツ関連の不正・八百長が起こっている、スポーツ関連不正を防ぎ、選手やコーチを不正から守るべき、その旨の立法化が必要という筋が異なる主張がなされている。
日本の今プロスポーツの世界ではちょっと起こりえないいかさま・不正リスクだと思うのだがどうだろうか。
そもそも日本では認められていないスポーツ関連賭博の内容・手法だからだ。
(美原 融)