2026-02-09
NEW350.イベント予測は内部情報をMonetizeする手段?
イベント予測とは世の中の様々な将来の事象の帰結(起こるか否か)をYes or Noの形で予測するのだが、これにオッズが設定され、その市場価格がImplied Probability(含意された事象が起こる蓋然性)となり、売買の対象となる契約として市場に提供されるというものだ。
予測に対し現実のリスクマネーが張られるためにリアルタイムでのより確実な予測を反映するとみられている(公開情報や非公開情報、内部情報、統計値、専門家意見等の様々な情報が判断に集約・反映され、蓋然性が高まると考えるわけだ)。
もっとももし事象が確実に起こるという内部情報を持っていれば、大金を使い、オッズを購入すれば、ぼろ儲けに繋がる。
公開情報も噂もないのに突然価格が急上昇するという事象が生じた場合には、内部情報等の非公開情報が市場に入ったことを意味する。
実際にかかる事象は生じている。
2025年のノーベル平和賞はベネズエラのMachado女史に付与されたのだが、ノーベル賞委員会による正式公表の数時間前に欧州を主市場とするPolymarketが提供する当該候補者に関するイベント予測契約のオッズが何と4%から70%に急上昇した。
常識的にはかかる変化は起こりえない。
実態は僅かな匿名勘定による買いの動きで3万㌦から8.5万㌦の儲けになったという。
これは明らかに内部情報の遺漏であって、直ちにノーベル賞委員会が調査に入った。
ところが、Polymarketは分散化されたオフショアの市場で、匿名の電子勘定、仮想通貨の使用、Polymarket自体に内部情報に関する禁止規定もないということで、実質的にはうやむやに終わっている(スエーデンで違法とされたのは情報遺漏のみだ)。
更に深刻な事案が生じたのは、米国政府によるベネズエラ大統領の拉致事案だ。
やはりPolymarketに1月の一定期日迄に大統領が失権するか否かという予測が対象となったのだが、何とトランプ大統領が拉致したと正式声明を発表する6時間前に3万㌦をかけ43万㌦の利益を上げ、1時間半前には取引総量(Trading Volume)は130万㌦に達するという始末だ。
こうなると誰も知らないはずの国家の安全保障上の機密事項が内部(即ち米国政府職員)から遺漏したことを意味し、米国内で大問題となった。
Polymarketは昔米国で販売拠点を持っていたが一端撤退し、現状米国商品先物取引委員会(CFTC)の認可を得て再度本格的に米国市場に再参入を企図している企業だ。
このイベント予測契約(Event Prediction Contract)は証券ではないため、SEC関連規則は適用されない。
またSECの内部情報遺漏禁止規定の範疇外になる(SEC規定では内部情報遺漏の要件とは①証券であること、②善管注意義務違反、③重要な非公開情報の使用。
因みに米国商品先元取引法ないしはCFTC規則上、内部情報の遺漏に関する消費者保護規定は存在しない)。
米国人でもそのプラットフォームにアクセスできるがそもそもオフショアから提供されており、米国規制の対象外になる。
さすがにこれでは安全保障上の国家機密情報の遺漏やイベント予測市場の在り方自体が問題ではないのかと、連邦議会でも問題視され、1月11日連邦上院議員12名がCFTCの新任委員長に公開質問状を発し、2月9日迄に回答を求めるという事態になった。
上院議員の質問はCFTCとして類似的契約の上場を認めたか否か、米国内にて疑わしい取引事例はあるか、Polymarketは、近々米国市場に参入するが、規則遵守のための何等かの措置が取られているのか、スポーツ関連イベント契約における八百長・いかさまの法執行はなされているか、イベント契約の疑わしい事例をどうモニターしているのか、CFTCはモニター・法執行の部門を保持しているのか等手厳しい質問になる。
CFTCが真面な回答をするとも到底思えないが、連邦議会でも内部情報を活用し、イベント契約市場でこれを悪用することが問題視されるようになってきたのは間違いない。
イベント契約市場はありとあらゆる事象に対象が拡大しつつあり、明らかに行き過ぎと思われる事案もでてきている。
トランプ大統領の広報官レビット女史の会見が65分未満となるか否かという予測で、98%の確率で65分を超えるとみられていたが、残り30秒前で突然会見を中止したため、意図的な時間操作・内部情報遺漏ではないかとして話題になった。
もっとひどいのはNBCの著名政治コメンテーターChris Hayzeのトークショーに関するスキャンダルだ。
表はライブといいながら、実態は事前録画になるのがこの業界では常識の様だ。
このショーでChrisがいつくかの言葉や事象を発言するか否かが予測市場での対象になった。
何とこれは400人もの聴衆がいた公開イベントで、表はライブといいながら、実態はこれら聴衆を含めた関係者が事実を知った上で予測市場が展開されたことになる。
この事実を司会のChris Hayzeが後刻第三者から聞き及び、初めて知ったとして暴露し、これも大きな問題となった。
これでは予測市場とは内部情報をMonetizeできる手法ではないかということに尽きる。
イベント予測市場もマクロ・ミクロ経済指標の予測や自然現象等のイベントである場合には正常に機能すると思われるが、個人が関与し、その行動の帰結がイベントの対象になる場合やイベントの帰結が一定組織内の機密情報である場合等は、その帰結が意図的な作為で変更されたり、内部情報が遺漏したりする等により、市場取引でぼろ儲けができる。
これではイベント予測市場そのものの信頼性や信ぴょう性を損ねてしまう。
かかる事態を放置したままでよいのかとしたのが米国連邦議会でも問題になり、既に公務員や議会職員を対象に重要な非公開情報を知った上で予測市場に参加することを禁止する法案が提出された(2026年金融予測市場における公共廉潔性法案)。
勿論、これがどういう展開を示すかは現状定かではない。
尚、興味深いことにEUではイベント契約は賭博であって、証券ではない。
この場合には、情報遺漏は証券関連法違反にはならないが、賭博関連法では不適切な行為として違法になる。
金融と賭博の中間領域ではかかることも起こる。
(美原 融)