2025-12-29
344.金融デリバテイブと賭博:法的議論の整理
米国では2025 年前半より大手事業者Kalshiが攻撃的な訴訟戦略を展開し、毎週のように大騒ぎが生じている。
Kalshiは州政府が発出した事業停止退出命令(C&D)の期限前に次々と州政府を提訴、相手はネバダ州、ニュージャージー州、メリーランド州、オハイオ州、ニューヨーク州、コネチカット州の5州に及ぶ。
内、ネバダ州とニュージャージー州では何とKalshiが一審で勝訴、もっとも4ケ月後にはネバダ州では別判決の影響で当初の判決が覆り、州の勝訴。
メリーランド州では州政府が勝訴した。
マサチュセッツ州は逆に州政府がKalshiを先手を打ち提訴したが、連邦地裁ではなく州ソフォー郡高等裁判所に訴えた。
Kalshiが連邦地裁に対し連邦裁判所への移管の訴えを起こしたが州裁判所に差し戻しされ、その後州政府による法の執行一次差し止め訴訟が連邦地裁に提訴され、これはKalshiが当面勝ち取り、2月のHearing迄は法の執行は停止されている。
全ての訴訟は継続中だが、ニュージャージー州メリーランド州の両案件はいずれも即刻連邦巡回控訴裁判所に控訴となり控訴審として継続中だ。
この他カリフォルニア州、ウイスカンスン州の原住民部族がKalshiを訴えたが、カリフォルニア州の事案は一審はKalshiが勝っている。
但し、控訴審となる模様だ。
この他Kalshiは8つの州で民事集団訴訟を抱えている。
いやはやKalshiはNYの巨大法律事務所を起用し、巨額の訴訟費用を湯水のごとく使い、あらゆる攻撃的な手法で係争行為を激化させている。
これら様々な訴訟案件を通じて、ようやく係争当事者の争点があきらかになりつつある。
係争の本質的な論点はこうだ。
Kalshi側の主張は連邦商品取引法(CEA)はイベント契約に関する独占的優先権を与えており、連邦規定は州法に基づく賭博法制より優越する。
連邦の機関(CFTC)が連邦法上認めたプラットフォームを州政府が規制することはできない。
問題があると考えるならばCFTCを訴えるべきという点に尽きる。
一方、州政府側の主張はKalshiが提供するスポーツイベント契約は賭博にすぎず、賭博法規制は歴史的にも州政府の管轄であり、連邦CEA法の規定は州政府賭博法制に優越することはないというものだ(適用される法律は連邦法か州法かという問題になる)。
部族の主張は部族との協定締結無しに部族の領土内にて(インターネットにより)Class IIIの賭博行為を提供することは連邦IGRA法(原住民ゲーミング規制法)違反という点にある(これは連邦法間での整合性の問題になる)。
一方マサチュセッツ州州郡高等裁判所では、連邦法の独占的優越権は時代の変遷とともに変わりつつあるのではないか(Dynamic Preemptionという)という新たな論点も提示されている。
上記の他に二次的な係争の論点もある。
連邦商品取引法(CEA)には賭博ないしはゲーミングに関する定義はない。
一方、州政府はドットフランク法制定時に定められた連邦法 Sec5C (C ) (5)( C)並びにCTFC規則40.11には公益に反する行為,即ち違法行為、テロ・殺人、連邦法及び州法違反、ゲーミング等はイベント契約の禁止項目として列挙されていることを指摘する。
Kalshi側の意見はCTFCが許可した以上、特別規則40.11は上書きされ、効果はないとうものだ。
これは連邦商品取引法上のCFTCの権限をどう解釈するかという問題になる。
またKalshiはスポーツイベント契約は連邦商品取引法Sec1a(43)(A)(ii)に基づき認めているSwap取引であり、Swapである以上、連邦法は分野的に州法に優越するという主張(所謂Field Preemption)をしている。
勿論州政府は問題外というポジションだ。
Swap取引と判断されなければ、CEA法上の優先権は適用できなくなるからである。
補足的に出てきた問題もある。
これは顧客の賭け行為(Event contract購入行為)は顧客が物理的に存在している地点で行われているとみるか(この前提をとると連邦IGRA法違反になる)、あるいは提供している事業者のサーバーが置かれている物理的地点で行われているかという意見の相違だ。
部族は前者の立場でIGRA法違反の根拠としたのだが、Kalshiはフロリダ州におけるセミノール部族の勝訴判例を根拠とし、あくまでもサーバーが設置されている地点からの供給というハブ&スポークス理論に依拠し、IGRA法は不適用という主張をしている。
Kalshiはもし部族の主張が認められると部族の地点での顧客をGeofencingで排除せざるを得ないが、巨額の費用と時間がかかり非現実的、また公正、公平にサービスを提供するというCFTCの規則にも違反するという。
一方Geofencingはモバイル等を使用する顧客の位置情報をIPアドレス、Wi-Fi、GPS等を利用し、合法的な地域からアクセスしているか否かをリアルタイムで検証する仕組みだが、左程資金がかかるものではないとする業界の意見もある。
様々な訴訟行為における主張は、上記を組み合わせながら、力点の置き方や訴訟の持っていき方が各々微妙に異なる。
複数の連邦控訴審が一致して州政府かKalshiのどちらかに軍配を上げる場合、負けた方は必ず連邦最高裁の裁定を求める手順をとる。
複数の巡回控訴審の間で異なる判決が出る場合の状況をCircuit Split(連邦巡回控訴裁判所で意見が割れることをいう)というのだが、連邦法と州法との適用に関する法解釈の相違が控訴審で決定してしまうと司法関係者にとり悪夢になってしまう。
現状の進捗状況によると連邦地裁、連邦控訴審、州裁判所等は2026年早い時期に、一定の方向性を出さざるを得ないのではないかと想定されている。
勿論巡回控訴審の判決次第では、その他の係争より先んじて最高裁の判断を求める状況になる可能性も高い。
連邦法を尊重するか、州法を尊重するかは、この問題に関する限り単純ではない。
法的判断としては正しくとも、政治的判断が加味される場合、その判断次第では、市場は大きく乱れ、法秩序そのものが棄損しかねないからである。
(美原 融)