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2025-04-21

308.違法オンライン賭博撲滅作戦:米国

米国でオンラインのスポーツブックやオンラインカジノが州政府の認可により、州毎に可能となったのは2019年以降のことだ。
個別の州毎に立法措置が図られ、結構な数の州でオンランによるスポーツブック(38州+ワシントンDC)やオンラインカジノ(7州)、オンラインポーカー(8州)等が制度化されている。
もっとも米国民はこれ以前にも(海外から違法に提供されている)オンラインカジノやオンラインスポーツブックに慣れ親しんできたわけで、海外からの違法な賭博行為の提供は従前から存在し、現在でも無くなったわけではない。
今でもオンライン賭博を楽しむ米国人の51%は合法的な州の免許を取得した事業者・サイトではなく、違法な海外サイトにアクセスしているという(米国ゲーミング協会)。
特に人口2,000万人以上の大きな州でオンラインによるスポーツブックやカジノが認められていないカリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州等では違法オンライン事業者が跋扈しているという状態だ。
彼らは当然米国で納税しておらず、その分より魅力的なオッズや気前のいいプロモーション等を提供できるため、消費者からの根強い人気がある。
オンラインにより無免許の賭博行為を提供する事業者は州法により刑罰の対象になるが、これに顧客として参加する州民は罪に問われないという州も多い状況が、かかる事態を招いているという側面もある。
勿論、州の賭博規制当局や合法的な免許を取得し、運営している事業者、事業者の業界団体等はかかる海外からのオンライン違法賭博に対しては厳格な規制で禁じるべきと猛烈な反対運動やロビー活動を展開しているのだが、連邦政府が動く気配はない。
連邦法ではUIGEA(連邦違法インータネットゲーミング規制法)を用いれば、厳格な法の執行もできるのではないかという意見もあるのだが、機能していない。
賭博関連規制の基本は州政府管轄であること、賭博行為を提供する主体が海外事業者となる場合は連邦政府の権限は及ばないこと等の事情が法の執行に消極的な理由なのだろう。
UIGEA法に基づく法の執行は2016年7月/9月に海外オンライン賭博事業者の経営者が偶々米国に立ち寄った際、空港で取り押さえられた事案があるのみで、その後は華々しい法の執行は一切無い。
相手が海外事業者で米国におらず、サイーバー世界から提供されれば、当該国との二国間の捜査協力協定がなければ捜査すら容易にはできないからだ。

一方、州政府規制当局や州司法省にとっても海外のオンライン賭博事業者が州民に州外から賭博サービスを提供することは当然違法行為であり、問題外で、摘発の対象なのだが、州法に基づく法の執行は容易ではないことは連邦と同じ状況にある。
かかる制約がある中で複数の州政府司法省、州政府規制機関等がとった行動は海外に拠点のある事業者に対し直接Cease and Desist Letter(業務停止・退去勧告)ないしは同Order(業務停止命令)を出すことだ。
これは州民がアクセスできる賭博行為をオンラインで提供することは州法に基づき重罪、一定期間、例えば2週間以内に州民に対する事業を中止し、撤退することという一種の警告、ないしは行政命令(Order)になる。
そもそも外国にいる事業者にかかる通告をしたところで意味があるのか、何かできるのかという懸念は残る。
警告ないしは命令に従わない場合、規制機関ないしは司法省により更なる法的措置が取られることになる。
但し、州法では外国にいる事業者に対し、法の執行を求めることはできない。
この命令に従い当該州から撤退した事業者もいるのだが、全てではない。
命令に従わない場合、あるいは挑戦的な行動をとった場合、如何なる選択肢があるのかについては必ずしも定かではない。
もっとも州の司法長官は民事上、差止命令、返還要求、利益・資産押収、事業解散、民事罰賦課等様々な権限をもっており、理屈がそろえば民事上かなりのことができるという意見もある。
その他、確実に州規制機関や州政府司法省が動くと想定されているのは、これら違法海外事業者のサイト運営を支援する立場にある米国内関連サービス提供事業者(例えば決済金融機関、決済代行事業者、クレジットカード会社、広告会社、勧誘するアフィリエート、更にはサーチエンジンやGoogle等のプラットフォーマー等)に焦点を絞り、オンラインによる幇助行為を遮断する要請をすることだ。
あるいは単なる要請ではなく、何らかの法的手段を取る可能性もゼロではない。
これをより確実にできるようにするために、かかる幇助対象者に対する規制を明文の法制として定めようとする一部州議会の動きもある。
例えば、ネバダ州議会は本年2月27日に違法オンライン賭博事業者をより厳格に規制するための規制機関の法的な執行力を強化する法案を議会に提出した(法案SB256)。
その骨格は①違法事業者の違法行為による収益の没収、②より厳格な罰則規定の制定(微罪から重罪へ)、③州域外に存在する事業者に対しても追訴できる権限を規制機関に与えることにある。
一方ニューヨーク州議会で審議中の法案(上院S5935法案、関連法案下院A6754法案)は、違法インターネットサイトをより厳格に規制する内容で、法の執行力を強化し、強力な抑制効果をもたらそうと期するものだ。
内容的には①関連する賭博関連免許を保持していれば剥奪、②違反行為1件につき罰金10万㌦、③金融機関、支払代行業者、Geolocation提供者、ゲームコンテンツ供給者、プラットフォーム提供者、メデイアAffiliateに対し、かかる事業者を支援することの禁止措置、④州政府規制機関(NYSGC),州警察、州司法長官事務所に対し法執行権限を与える等になる。
いずれも単純なCease and Desist Order以上の執行力を規制機関に付与する内容でもあり、かかるアプローチが今後共他の州で実現する可能性は高い。

海外にいる違法オンライン事業者への対応は本来、連邦政府が何らかの国としての統一的な措置を図るべきなのだが、今のところ連邦政府が動く気配はない。
もっとも今や何をするか先が見えないトランプ政権だ。
かつ大統領自身が元カジノ事業者でもあり、この分野における違法・脱法的行為を忌み嫌い、米国firstを主張する御仁だ。
ひょっとするとロビーイング活動次第では、過激な対外政策をとる可能性もゼロではなく、これも理屈がそろえばかなりのことはできそうだと考えるのは邪推であろうか。

(美原 融)

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