2026-06-29
369.米国・スポーツブック関連税増税の動き
米国の州政府は均衡財政主義を旨とし、その主たる財源は州税(所得税・売上税)と連邦補助金になる。
州法により知事は均衡した予算案を提出することを義務と規定する州が多く、赤字予算を組みにくい状況にある。
世の中がうまく成長軌道にあれば問題ないのだが、州としても時として予算上財源不足に陥ることがままある(例えば昨年のトランプ大統領がごり押ししたOBBB法案で、対州政府補助金カットを伴った為に、多くの州で財源不足となった)。
州政府がかかる状況に陥ると州知事としては新たな財源を確保せざるを得ない。
但し、増税は政治的にも問題となるし、誰もが嫌がるものだ。
一番簡単なのは、一般庶民の懐を傷めない賭博関連税に目をつけることだ。
庶民の反対が少ないからである。
2025年以降、米国の様々な州で州知事の音頭や州議会によりスポーツブック関連の州税を増税するという動きが広まった。
スポーツブックは全米で成長が著しい賭博種でもあり、売り上げも上昇基調、州の管轄・権限になる賭博法制・関連税制でもあり、十分な担税力がある主体から増税するという施策になる。
こういう状況では、議会の同意を得ることができれば法律を改正し、確実に増税することが可能になる。
予算調整上で歳入欠陥となることが予想される場合には、これを補うため知事がスポーツブック関連税を増税すると主張し始めるわけだ。
これでは特定事業者を狙い撃ちにする増税施策になりかねない。
この動きが顕著に表れたのは全米第二の都市シカゴがあるイリノイ州だ。
同州におけるスポーツブック関連税は事業者のGGRに対し、フラットな15%税率であったのだが、2024年にこれを事業者のスポーツブック収益に応じ、20%から40%の逓増税率へと変動する税率へと制度を変更した。
これだけでも事業者から見ればかなりの増税なのだが、今度は2025年になり、これら税に追加して事業者にper bet excise tax(顧客による賭け事毎に賭け金に賦課する課税)を賦課することを取り決めた(これは従来には存在しなかった新しい課税手法になる)。
最初の$20M迄の賭け金(Bet)に対し、Bet毎に25セント、その後はBet毎に50セントを徴収することになる。
これは大規模事業者であればある程、より多く税金を支払うということを意味する。
事業者はこの一部を顧客に転嫁し、Per wager feeとしてコミッションを徴収したり、最低賭け金額等を設定したりしたが、顧客にとってみればそれだけ魅力が無くなるわけでとんでもない話になる。
これらに加え、シカゴ市のあるCook 郡では従来GGRの2%の税を州とは別に市税として徴収していたのだが、2026年1月1日より10.25%を徴収するということになった。
事業者にとっても顧客にとってもふんだり、けったりだが、市場が堅調である場合、為政者はかかる行動をとる。
問題はイリノイ州だけではなく、まわりの州の動きを見て、これならば自分の州でもできると他州の為政者が考えたことだ。
メリーランド州知事は2025年にスポーツブックGGR課税を現行の15%から30%に増税することを議会に提案、議会は20%で妥協し、法案改定は成立した。
ニュージャージー州知事も2024年にスポーツブックGGR課税率を従来の13%から25%に増税する案を議会に提示、かつiGaming課税も従来の13%から同様に25%にという提案だ。
結局2025年に議会はスポーツブックもiGamingも一律19.75%の税率で妥協し、法改正は実現した。
ルイジアナ州でも議会がスポーツブック課税をGGR 15%から21.5%に増税するという議案が議会で可決。
オハイオ州では2023年にスポーツブックGGR課税は10%から20%に上げられたのだが、その後2025年に知事はこの税率を一挙に倍増し、40%に増税する案を議会に提示したのだが、議論は2026年の継続審議となった。
ワシントンDCでもスポーツブックを含めた殆どのオンライン賭博関連税率を20%から30%に引き上げた。
ノースカロライナ州でも税率を18%から36%に増税することを検討中だ。
マサチュセッツ州では議会が20%税率を51%にする議案を出したが実現せず、2026年2月に再上程した。
西バージニア州では税率を10%から25%にする法案が提出され、ペンシルベニア州でも税率を上げることを検討する有様だ。
アリゾナ州知事は2026年度予算案の中にスポーツブック課税を45%に上げる提案を含ませた。
ミシガン州知事もイリノイ州と同様にPer Wage Tax導入を主張し始めている。
これはプラットフォームの最初の$20Mの賭け金のベットには25㌣、それ以降はベット毎に50㌣というものだ。
これで$39Mの税収が期待できるという。
尚販売促進費の税前控除も事業者には甘い税制だが、これを減額したり、段階的に減額したりする動きもでてきた。
2024年にはルイジアナ州、コロラド州、メリーランド州、バージニア州が、2025年にはコネチカット州が減額に走ったが、これも事業者にとっては増税となる措置だ。
いやはやこの一連の動きは一体何なのだということになるが、こういう動きは一端どこかで始まると瞬く間に他の州にも波及してしまう。
スポーツブック市場の急激な成長に伴い超過利潤が事業者側には生まれているはずで、彼らの許容レベル迄課税率を上げても何ら問題はないはずという政策的意思なのだろう。
もっとも市場の規模は州毎に異なり、事情もかなり異なる故、税率も一概には同じ議論で語ることはできない。
スポーツブック関連GGR税率は一番高い州はニューヨーク、ニューハンプシャー、オレゴン、ロードアイランドで51%だ。
一方一番低い州となるとネバダ州、アイオワ州で6.75%になる。
オンラインでスポーツブックを提供している州は現状30州とワシントンDCになるが市場としては毎年拡大しつつある。
どのレベルで事業者の許容度と担税力が均衡するのかわかりにくいが、ことオンラインスポーツブックに関しては最高税率GGRの51%に収斂する動きが起こりつつあるのかもしれない。
因みに賭博税収は殆どの州では補完的な財源にすぎないが、一部の州ではかなり重要な財源的地位を占める様になってきている(ネバダ州、ペンシルベニア州、ニューヨーク州等だ)。
賭博税収は環境次第では変動するため、果たしてこれは健全な財政運営といえるのか疑問視する意見もあるが、これが現実のようだ。
(美原 融)