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2026-06-15

367.イベント予測市場⑭:Google職員もインサイダー取引?

5月27日FBIは米国ニューヨーク南地区連邦地裁に対し、Google社のソフトエンジニアをインサイダー取引関連法違反として告訴、同日ニューヨークで被疑者の身柄を拘束した。
また規制機関である連邦商品先物取引委員会(CFTC)も同日同じ被疑者を同連邦地裁に告訴する手続きをとっている。
一体これはなに?というのが最初の印象だが、FBI捜査官による告訴状等が公開され、これを見てみるとおぼろげながら事件の概要が解かってくる。
被疑者はM.Spagnuolo、イタリア人国籍でスイス在住だ。
12年間に亘り、Googleのソフトウエアエンジニアとして、もっぱらセキュリテイーやマーケッテイング関連のソフト開発等に従事してきた御仁らしい。
Googleの収入はユーザーのengagementをベースにした広告収入なのだが、その検索データ(どんな条件、トピック、人、イベントの趨勢等)は同社にとり商業的に価値のある知的情報になる。
Googleは毎年末にYear in Searchというキャンペーンを実行し、その年に一番多く検索の対象になった人物や事象、検索対象となった趨勢を公表している。
単なる企業の宣伝活動にすぎないのだが、Googleにとってはこれも重要なマーケッテイングイベントなのだ。
一方、Polymarketはこのイベントに着目し、対象となる24人の内、誰が一番多い検索の対象になるかという予測結果を賭けの対象にしたのだ。
こうなると、Googleの内部管理者であるならば、内部情報としてどういう結果になるのかを確実に事前に把握することができる。
検索数が多いのにユーザーは気が付かず、Polymarketでは可能性もゼロに近いというイベントや対象もある。
これを悪用し、Polymarketで金を儲けるということだが、一定のLiquidityがなければ、取引は成立できにくく、かつ目立ちやすくなってしまうという難点もある。

起訴状(complaint)によると罪状はCommodity Fraud(連邦規則17編180.1条商品・証券取引における詐欺手段の使用)、Wire Fraud(18USC134電子手段を用いた詐欺行為、18USC3238 国外犯罪の管轄)、Money Laundering(18USC1956資金洗浄行為)の三つだ。
何ともはや、昔からある既存の法律を駆使して、罪状を構成しているようにも思える。
2025 年10月3日から12月にかけて、被疑者はGoogle社の非公開情報を用いて、これを私利を図る目的でスワップ(予測市場)取引に利用したということだ。
10月3日から11月29日にかけて16回に亘り、仮想通貨を勘定に入れ、複数の取引を繰り返し、都合約120万㌦の利益を取得したという。
もっとも利用したプラットフォームはPolymarket USAではなくオフショアから提供しているPolymarket Internationalであることは明らかで、偽名を用いた仮想通貨勘定からの入出金だ。
ブロックチェーンを利用する仮想通貨はたとえ偽名であっても、足跡は確実に残るため、捜査当局が技術的手法を駆使すれば相手を特定することは可能になる。
確かに行為自体はインサイダー取引なのだが、サイバー世界で外国からの参加、外国居住者、仮想通貨での入出金という前提で、どうして米国の犯罪として構築できるのだろうかという疑問がわく。
これは国外並びに複数州で行われた犯罪、あるいは特定州に属さない場所で行われた犯罪でも、被告人が最初に逮捕された地区や最初に連行された地区などで起訴、裁判の対象にできるという米国独自の規則(18USC3238「国外犯罪の管轄」)が適用されるからだ。
かつスイス在住のイタリア人を何とニューヨークで身柄拘束をしているというのはFBIがNY検事総局、Google、CFTCと協力し、同人の動きをトレースし、米国に入国した時点で拘束、逮捕したということなのだろう(米国では外国人が一端米国で起訴されると、100%間違いなく、再入国時点で空港にて拘束される)。

もっと傑作な事件が司法省FBI捜査当局により調査の対象になっているというニュースが6月初旬に流れた。
これはスキャンダルで起訴された元NY州連邦下院議員George Santos(共和党)の事案になる(同氏は学歴・職歴詐称で大スキャンダルを起こし、下院議員を除名,起訴され6年の有罪が確定。
収監されたが何とトランプ恩赦(!)で減刑され、既に出所している。
ま、MAGAよりの変質者ですからね)。
この事案はトランプによる一般教書演説(SOTU)に際し、自分が議会のその場に参加するか否かというKalshiのイベント予測に(自分で!)賭けたり、意図的にXに自分名で偽情報を流し、市場を混乱・誘導させ、その狭間で金儲けをしたりしたのではないかという疑惑だ。
どう詐欺を行ったのかという詳細な情報はまだ開示されていない。
当事者がかかわるイベントに当事者本人が予測市場の取引に参加するなど、全くのお笑い草になってしまう。

これら事案が示唆しているのは、イベント予測市場はその対象の在り方次第では、限りなく関与している当事者にインサイダー取引を促す強力なインセンテイブが働いてしまうということだろう。
これをできる限り抑止しようとする行動としては、例えば州内の公務員が非公開情報を利用し、予測市場に参加することを禁止したり,内規により一部連邦政府職員の参加を禁止するなどの動きがあると共に、法令により軍隊内部関係者による予測市場への参加を禁止したり、連邦議会議員・職員等による政府内部情報を利用した予測市場への参加を規制する法案を考慮するなどの動きもでてきている。
もっともこれだけでインサイダー取引の全てを規制できるはずがなく、提供する予測市場商品の在り方を変えなければ、インサイダー取引は止められないかもしれない。
イベントの帰結に影響力を与えうる人物やイベントに関する何等かの内部情報を取得できうる人物は全面的に排除すべきであると共に、イベントの帰結に関し外部からの影響を受けやすい対象、対象が限定され、そのPerformanceが予測の対象となるケース等はそもそもイベント予測契約の対象にすべきではないのだ。

(美原 融)

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