2026-06-08
366.イベント予測市場⑬:Capitol Hillの動揺
5月20日に米国連邦上院の商業・科学・運輸委員会(委員長民主党Ted Cruse議員)の消費者保護・技術・データプライバシー小委員会が開催した公聴会はタイトルが「米国におけるスポーツ廉潔性を守る」(No sure bets: Protecting Sport Integrity in America)であったのが、実際に開催してみると確かにスポーツ試合における廉潔性も議論の俎上にのったのだが、これに代わってスポーツイベント予測市場の現状や様々な課題が中心的な話題となってしまった。
議論に参加した党派を超えた共和党・民主党議員全員が、これは賭博行為であるスポーツブックと極めて酷似していると予測市場に対し、懐疑的なスタンスをとるという光景である。
事業者による未成年をも顧客としてしまう極めて挑戦的なマーケッテイング手法やインサイダー疑惑に対する懸念、スポーツに係る廉潔性の保持等も議員間の共通的な話題と認識でもあった。
もっとも招請を受けた証人は一人を除き、すべてが予測市場に対し懐疑的な立場をとるという人選であったため、こういう議論になったのかもしれない。
予測市場を擁護したのは業界団体となるCoalition for Prediction Marketsの上級顧問のみだが、彼は元連邦下院議員で質問する議員とも懇意の中だ。
結論としては、予測市場取引に関しては、何らかの連邦としての基準が必要ではないのか、あるいは連邦としての何等かの法的措置が必要ではないのかという議論になりつつある。
尚、この公聴会直前の5月15日には商業的賭博の業界団体である米国ゲーミング協会(AGA)と部族ゲーミングの業界団体である米国部族ゲーミング協会(IGA)が連名で、連邦全上院議員・下院議員に対し、彼らの主張を強調する公開書簡を送付している。
制度的背景の異なる団体が統一行動をとる事は異例なのだが、利害が一致するため最大の圧力を連邦議員にかけようという趣旨に違いない。
もっとも内容は従前からの主張と同じで新鮮味はない。
一方この動きに呼応したかのように、連邦下院、政府監視・改革委員会のComer委員長(共和党)はKalshi/Polymarket USの国内外顧客が内部秘匿情報をもとにインサイダー取引に関与した疑惑に関し、調査を始めたことを公表、両社に質問状を出したことをも認めた。
顧客が米国規制を逃れるために違法なオフショアのサイトにアクセスできないように、これら事業者が適切な防御措置をとっているか否か、悪者を特定化でき、プラットフォームが法的義務を果たしているかを検証できる唯一の手法である内部記録の管理はどう行っているのか、国内外顧客の本人確認や地理的制限をどう実施しているのか、異常な取引の監視・摘発体制や発見手法はどうなっているのか等につき説明・情報提供を要請したものだ。
ここでも状況次第では立法措置が必要になるかもしれないという判断がある。
尚、同委員会の民主党古参Raskin議員は11月の中間選挙で民主党が勝った場合、当然自分が委員会の長を務めることになることを前提に、選挙勝利後直ちに大統領およびその家族に係る不正疑惑を調査し、追及する準備を始めたことを公表した!エプスタイン問題、トランプ一族の汚職・腐敗疑惑、DHS/ICEの違法移民対策につき各々チームを設け、これら腐敗を追求し、公表して、やめさせるべくあらゆる手段を駆使するとしている。
こうなるとトランプ政権と同様に、仕返しとしての政治のWeaponizationが進みかねない側面がある。
賄賂や癒着等の違法行為を追求することは適切なのだが、今の大統領や政権は、犯罪を犯罪として認識せず、司法の判断をも無視するという傾向にあるのが実態だ。
理性をもって対処しない限り、確実に政治は混乱する。
但し、11月の中間選挙による米国民の判断が全ての局面を変えてしまう可能性があるという指摘もあながち無視できえない様に思える。
この動きを見透かした様にCFTCと政権・トランプ一族との癒着を指摘する記事がやはり時を同じくしてNew York Timesに出た。
CFTC(米商品先物取引委員会)がトランプ政権下で大幅に弱体化し、暗号資産企業や予測市場企業に有利な方向へ組織がねじ曲げられたという調査報道だ。
特に、トランプ一家とビジネス的に結びついた企業が恩恵を受け、CFTC内部で反対に回ったキャリア職員は全員排除・停職に追い込まれ、調査の対象とされたとしている。
一方、CFTC旧委員や幹部は全て暗号資産業界や予測市場業界に天下りだ。
過去彼らを相手に訴訟していたというのに。
職員の1/4は削減、本来超党派で構成されるべき独立機関たるCFTCは委員長一人のみの実質独裁でインサイダー取引に甘い規制機関の態度は、トランプ家族やホワイトハウス職員の怪しげな関与すら匂わせている。
いやはやこれではまた大統領の顰蹙をかい、メデイアバッシングに繋がるかもしれない。
もっともアンチトランプとなる他の報道(Bloomberg, CSN等)も似たような報道記事のオンパレードだ。
ところがトランプ大統領は5月27日、自身のソーシャルメディアTruth Socialへの投稿で、米商品先物取引委員会(CFTC)が予測市場に対する独占的規制権限を維持することが不可欠だと述べ、また、米国をビットコインをはじめとする仮想通貨の世界の首都と位置づけた上で、「他国がその地位を奪おうと懸命に動いているが、そうはさせない」と強調し、仮想通貨を主要産業と位置づけ、連邦政府として保護を続ける方針を示した。
予測市場については、CFTCのセリグ委員長は「誰もが認める仕事をしている」と評価し、ニューヨーク州を含む複数州並びに一部の州知事・政治家等が独自に予測市場を規制しようとする動きをとっていることに対して強く批判した。
おいおい、これでは先月の発言とは180度異なる見解になり、予測市場を強力に擁護する立場をとったことになる。
やっぱし、これがトランプの本音であって、TACOトランプだねということなのだろう。
こうなると法的な係争事由等を無視し、力づくで、米国最高裁の判断を、自分の都合のよい方向にもっていきそうな気もする。
またこれでは連邦議会でもまともな予測市場禁止・規制法案は通りそうもない。
例え可決したところで大統領が拒否権を発動すればそれまでの話になってしまうから、誰も真面目にやらないということだ。
要はここには理屈も法理もへったくれもないのだ。
(美原 融)