2026-05-22
364.イベント予測市場⑫:諸外国の事情
イベント予測契約を賭博とみなすのか、あるいは金融商品(デリバテイブ)とみなすのかは、国によりその判断と対応が異なるのが現実だ。
米国の様に、複数の係争事由が生じ、混乱する国もあれば、規制当局の明示的な判断がないため、灰色の状態が続き、市場の自由な展開に委ねている国も多い。
2025年以降、様々な国が明示的にイベント・スポーツイベント予測市場商品は賭博、これは禁止の対象と明言し始めた。
これはサイバー世界を通じ、国境を越えて予測市場商品が提供され、これにアクセスする国民が増え始めたことによる。
事実、オフショアからのプラットフォームに誰もが自由にアクセスもでき、勘定も開設でき、売買も可能、勝ち金も取得できるという事象が生じている。
これではグレーな状況のまま、市場が拡大し、制度も規制もなく、管理できなくなってしまう。
よって主権国家(規制当局や法執行当局)が明示的にこれは賭博、違法行為と指摘し、当該事業者による市場へのアクセスを規制したり、市場からの退場を迫ったりする事象が生じてきたということだ。
さもなければ確実に国内市場に浸透しかねないからでもある。
オーストラリアの規制当局であるACMA(Australian Communication & Media Authority)は2025年7月にイベント予測契約は賭博行為と判断し、正式な警告を発出、8月にはインターネットプロバイダー(ISP)に対し、関連サイトをブロックするように要請し、違法ギャンブルサイトリストに追加した。
ニュージーランドでは無規制のまま海外からのオンラインサイトによるカジノ賭博提供が常態化していたが、市場を管理し、消費者を保護するために、従来独占企業体であるTABに認められていたオンライン・ベッテイングに加え、オンライン・カジノを認めるためのオンライン・カジノ賭博法案が議会で審議中である。
これは15のオンライン・カジノ免許を対象にオークションにかける予定で、法律ができる前から規制当局である内務省(Department of Internal affairs)は事前に候補者の登録を始めている。
この過程で同内務省はKalshiやPolymarketに代表されるイベント予測並びにスポーツイベント予測契約はニュージーランドでは賭博行為に該当し、違法と2026年2月に表明している。
類似的な制度的環境にあるオーストラリアに倣った行動をとったのだろう。
EUでは賭博と金融商品との中間領域にあるともいえるこのグレーな予測市場契約に関する定義も統一規則も存在しない。
もっともEUでは明示的に許可されていないものは原則禁止の対象になり、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン等の主要国では現行法規には規定のない無許可の賭博行為として、違法オンライン賭博の対象となっている。
オランダでは規制当局KSA(Netherland Gambling Authority)が仮想通貨をベースとする予測契約事業者Polymarketに対し、オランダ国内においてスポーツベッテイングの免許取得無しにオランダにてスポーツイベント予測契約を提供しないように正式に要請した。
正式な判断は2026年1月20日になされていたのだが、その後の実際の調査を踏まえ再度2026年2月17日に通告されたものだ。
4週間以内にオランダ市場から撤退すること、さもなければ罰金€42万/週(最高€84万)を徴収するとある。
現実にスポーツイベント契約がサイバー空間からオランダ市場に提供されており、これは免許無しの賭博行為とみなされ、市場撤退要請がなされたものだ。
デンマークでも予測市場を禁止対象とすることを考慮中とある。
英国は少し変わった制度で類型によっては賭博行為として認められるものもあれば、認められないものもある。
Betting Exchange(賭け取引市場)とは、一定の将来の結果予測をYes or Noの二者択一として需給に基づき価格形成をさせ、市場における顧客同士の売買により取引を成立させる仕組みだ。
対象となるのは政治(選挙・政策)、スポーツ、エンタメ、天候等になり、賭博行為として英国賭博委員会(UKGC)より免許を得ることでこれを提供できる。
政治等のイベントに係る賭け(Political Event Gambling)は英国では歴史的に賭博行為として認められており、市中のブックメーカー(Betfair、Ladbrokes、Paddy Power等の大手事業者)が提供しており、昔から人気がある。
機能的には予測市場(Prediction Market)契約とほぼ類似的になるのだが、英国では予測市場は金融デリバテイブとみなされ、金融商品としてFCA(金融行為監督機構)の管轄になってしまう。
賭博商品と金融商品を明確に区別するのが英国の制度だからだ。
この場合、予測市場契約は金融派生商品である二者択一方式であるバイナリーオプションと同一のリスク構造とみなされる。
英国では 2019 年以降、バイナリーオプションはリスクの高い商品として小口投資家向けには全面禁止となっているため、KalshiやPolymarketが提供する予測市場契約は認可の対象になりえない。
Polymarketが提供する暗号資産ベースの予測市場契約もFSMA(金融サービス市場法)や AML(マネロン規制)により、暗号資産サービスも厳しく制限されており、これも英国では別の法体系から禁止の対象になってしまう。
では日本市場は?と考えてしまうのだが、どう考えてもイベント予測契約は金融派生商品と主張したところで、我が国の金融法制では、これは賭博行為とみなされ、禁止の対象になる可能性が高い。
ところが本年4月21日の参議院財政金融委員会で国民民主党・原田議員によるオフショア分散型取引に関する質問でイベント予測契約の実現可能性につき質問がなされた。
金融庁は金融関連諸法との関連性、賭博罪との関連性もあり、慎重に検討する必要があるという曖昧な返事に終始した。
全くの官僚答弁でYesともNoとも言っていない、いいかげんなものだが否定的であるニュアンスは読み取れる。
積極的に禁止するという議論が、我が国において起こりにくいのは、かかるグレー領域の対象は社会的に大きな問題とならない限り、誰も問題視せず、かつ潜在的危機を無視し、だんまりを決め込むのが我が国行政の常道でもあるからだ。
もっともその後Polymarketは日本市場参入の準備を開始というニュースを流したのだが、いやはやこれも困ったもので、明確に違法と断言しない限り、グレー領域として市場参入してしまう企業もでてくるということだろう。
(美原 融)