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2022-12-19

188.スポーツブッキング ㉒スポーツデータと権利(1)

スポーツにとり対戦試合に関わる自分や相手チームのデータや統計値(これらを業界人はStatsスタッツと呼称する)は、選手やチーム、顧客あるいはこれらデータを利用する様々な企業にとり必須の情報になりつつある。
選手やチームにとっては自分のチームや相手チームを分析し、勝つための戦術や戦略を立てる重要なツールになる。
スポーツブッキングの事業者にとっても、詳細な過去のデータや統計値はオッズを設定するための不可欠の要素でもある。
スポーツブッキングを楽しむ顧客にとってはデータや統計値があれば、どちらのチームが勝つ可能性があるかを自ら検討でき、データの分析により、試合結果を予想する楽しみが増える。
この様にスポーツデータの需要は様々な分野でかなり高いのだ。

情報技術やAIによるビックデータの処理、コンピューターによる学習効果等はスポーツデータ・統計値自体の利用やその分析、加工等を通じ、スポーツデータに関わるサービスを巨大な産業へと発展させつつある。
スポーツブッキングを楽しむ一般顧客もスポーツブッキングを提供する事業者(胴元)もスポーツデータ・統計値に関する多様なニーズがあり、これら双方に様々な付加価値を付けたデータを提供するビジネスが市場で成立している。
スポーツデータといっても様々なものがあり、試合に係るイベントデータはある程度は公知のもので、実際の試合を見ていればだれでも基本データを収集できる。
米国のMBL等はホームページでファン向けに様々なチームのスポーツデータを無料で公開しており、ここからもかなりの情報を得ることができる。
勿論民間ベースではこれら一次データを分析、加工し、付加価値を付け、顧客に有償で提供する事業者もいれば、より詳細な画像データから選手個人に係るデータを収集、分析し、データとして提供する事業者もいる。
Performance Dataとは選手にWearable端末をつけさせ、選手のPerformanceを測定し、これを集積するデータベースだ。
勿論こうなると、これらは画像と同様に、選手の個人情報でもあり、肖像権を構成する。
この場合、データの所有権者(選手、チーム)の了解を得て、一定の費用を支払い、これらデータを分析、加工することで、付加価値のある情報として販売できると考える主体が現れるのは当然かもしれない。

これらデータや情報の保有者は関連するスポーツ団体・組織・選手個人等になる。
勿論、スポーツ試合から生じるデータ等の一部は公開情報でもあり、公知の事実である場合、権利を主張できなくなる。
これらスポーツ団体・組織は、この事実を認識しつつも、より詳細なデータや個別選手のPerformance Data等をも保持しており、これら全体を知的所有権と類似的なデータ権(Data Rights)として把握し、その権利を主張している。
これを価値のある公式データとして商品化し、利用したい需要家に直接・間接的に販売できると考えたわけだ。
市場には様々な一次、二次のデータが氾濫し、どれが正確なデータなのかを知ることは難しい。
必要なデータや情報は正確であるべきで、これが正確でないとすれば、様々な問題を引き起こしかねない。
正確なスポーツデータを共有することが規制者、賭け行為に参加する一般顧客、スポーツブッキング事業者、スポーツ団体・組織にとり極めて重要になるわけだ。
かかる理由から、米国の主要プロスポーツ団体・組織は、州政府による制度構築に際し、スポーツブッキング事業者がスポーツ団体・組織が提供する公式スポーツデータを購入することを州法で義務づけるようにする強力な政治ロビー活動を展開した。
正当かつ公式なデータを利用することが不正を防止し、スポーツブッキングを正当化すると主張したわけである。
これは単なるスポーツ団体・組織による資産のMonetizeにすぎないのではという意見もあるが、アリゾナ、イリノイ、テネシー、ミシガン、バージニア、ニューハンプシャー、ニューヨーク州等は州法の中で、In-Playの賭け事(Tier 2)の場合には、関連するスポーツ団体・組織から公式データを購入することを義務づける法規定を成立させている(これをLeague Data Mandateという)。
もっともこの考えは必ずしも一般的とはいえず、制度の問題ではなく、当事者の判断に委ねるべきとし、かかる考えを制度化しない州も多い。
州の立法者・為政者にとり、スポーツ団体・組織の権利を制度として認知することにためらいがあったということになる。
もっともこうなると米国のスポーツ団体・組織は直ちに戦略・方針を転換し、政府ではなく、実際にスポーツデータを利用するスポーツブッキング事業者や関係者に交渉対象を変え、あの手この手による交渉により、スポーツデータという固有の商品価値とその利用対価を認めさせるという戦略を採用した。
これは見事に市場により認知され、米国では直接的、間接的にスポーツデータ供給者、スポーツブッキング事業者ないしはこれらの代理人等がスポーツ団体・組織と交渉により、Tier2に関するスポーツリーグの公式データや統計等を購入するという慣行が根付いてしまった。
この場合、これは制度的に認知された権利というよりも、民民間における交渉の結果として確定する債権としての契約的権利ということになるのだろう。
因みに英国のサッカー界には全英プレミアリーグの全てのチームの公式試合データを知的所有権として独占し、販売、ライセンスするリーグの子会社となるFootball Data Companyが存在し、米国のようにバラバラではなく、権利の構造は極めて解りやすくなっている。

スポーツデータが巨大なビジネスになり、スポーツベッテイング業界にとっても大きな市場となるにつれ、この分野で先行する英国ではスポーツデータに関しても様々な法廷訴訟争が生じている。
データの使用、再利用、独占供給の競争法上の問題等だが、様々な判例も生まれつつあり、スポーツデータに関わる法的権利が固まりつつあるという印象を受ける。

(美原 融)

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