National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 187.スポーツブッキング ㉑オッズメーキングのリスク管理(2)

2022-12-12

187.スポーツブッキング ㉑オッズメーキングのリスク管理(2)

米国では1961年の連邦有線法に基づき、州境を超える形でスポーツブッキング事業者が顧客を募ることも、他州の顧客が免許を取得した州のスポーツブッキングに参加することも禁止されている。
これに基づき各州の制度も事業者に対し州外に位置する顧客にオッズを提供し、顧客の賭けをアクセプトすることを禁止している。
この意味では米国のスポーツブッキングは市場が分断されているわけで、人口の多い州ではビジネスとしてペイするが、人口の少ない州ではビジネスの規模は大きくならない。
勿論制度上は異なる州政府が双務契約を締結することにより、お互いの州の住民が二つの市場の事業者のスポーツブッキングに自由に参加することはできるのだが、殆ど事例がない。
税収の分担でどうしても不公平感が生まれるからだ。
米国事業者も米国に進出した欧州事業者いずれもが、大手、中小関係なく、州毎に子会社を設け、州毎にバラバラの営業を実施している。
スポーツブッキングでオンライン・モバイル手法によるビジネスモデルは如何に賭け方の種類を増やし、より大きな市場をターゲットとすることが事業・売り上げの拡大に繋がるのだが、米国の現在の状況は極めて非効率な制度の仕組みであるといえる。
勿論米国の州でも、州によっては国際的なスポーツ試合(オリンピックやサッカー、ラグビー等の世界大会や国際大会、欧州サッカーのプレミアリーグ等)を賭け事の対象にしている州も多い。

この場合のオッズ設定のリスクとは、通常のケースとは異なる。
オッズの設定自体が主要市場(国、地域)の対象顧客の賭け金行動や慣行、制度や規制の在り方等によっても変わりうるし、地域や国ごとにこれが異なるからである。
こうなると市場の実態や動向等の情報を正確に把握していないと、オッズの設定やその変化に対処できなくなる。
米国企業では察知できない事情や慣行が外国、例えば欧州でのオッズに反映されているというリスクがあるからだ。
マネーラインは当初オッズを設定したあとで、①その後の自らが抱えるリスクとエキスポ―ジャーの実態、②結果予想に影響を与える事情等の変化、③オッズに影響を与えうる追加的情報をもとに必要に応じ調整し、オッズを変えることになるが、主要市場の顧客の固有の賭け金行動に左右される側面もあるとともに、外国の試合や限られた情報しかない試合は正確にフォローしてリスクを極小化することはどうしても難しくなる。

これを極力避けるため、米国の州をベースとした事業者の場合、海外の市場と顧客を熟知し、オッズを管理できる情報や経験を持った専門データ分析会社やオッズメーカーと協力して米国市民に海外試合のオッズを提供し、かつかかる国際試合のオッズの管理もかかる海外事業者に委ねることが多い。
外部協力者と連携し、リスクを軽減するわけだ。
更に、米国企業を含む世界のほぼ全てのブックメーカーは契約サブスクリプションにより、その試合に詳しい外国の他のブックメーカーのラインの情報をとったりすることで、競争相手を含めた複数の会社のオッズとラインを常に見ておくこともリスク管理の重要な側面となっている。
顧客も様々な情報をとり、賭け金行動に参加している以上、外国で行われている試合であっても、顧客の行動を予測し、ラインやオッズを設定しつつ、大きな市場の変動を注視・分析し、必要な場合対応策をとることになる。

もっとも事情を複雑にしているのは、スポーツ観戦のグローバル化やサッカー、ラグビー、野球等の国際的人気は世界中のスポーツファンをスポーツブックに惹きつけているとともに、欧州諸国や米国では、国境を越えてグローバルに事業を展開する、データ分析企業やスポーツブッキング事業者等が生まれていることだ。
この場合のスポーツブックのリスク管理単位は国や地域になるが、一企業として市場ごとに生まれるエキスポージャーの偏りを様々な手法で全体として管理するというグローバルリスク管理(Global risk management)が志向されることになる。
地域・国単位でのスポーツブック情報を相互に頻繁に交換し、オッズの設定や変更、カットオフタイムの設定・変更、賭けをアクセプトするか否かの判断、リスクをプーリングするか、あるいは子会社間で国をまたがえてLay Offするか否か等の判断をグローバルに管理できることになる。
米国では連邦有線法の規定により、州際間あるいは外国企業との間でLay Offしてリスク軽減することはできず、Lay Offは州内の事業者間でしかみとめられていない。
但し、リスク管理に関わるあらゆる情報の交換・伝達・管理やコンサルテイング・指導等は認められている。
ネバダ州規制当局のスポーツプール規制にはかかるGlobal Risk Managementに関わる規定も存在し、リスクマネージメントに関わる外国のリスクマネージャーとの契約を検証し、認証することで規制の対象にしている。
複数の国でオペレーションを実施している企業の場合には、当然グローバルリスクマネージメントはやりやすくなる。
例えば米国子会社で一定のオッズにエキスポージャーが偏って生じている場合、欧州子会社間でプール化したり、複数国間にまたがるLay Offを分散したりすることで企業全体としての対応措置を実践したり、リスクをヘッジしたりする等ということが可能になってくる。
世界中でベットを募るサッカー世界大会等の場合には、全世界のファンの賭け金行動をにらみながらリスク管理をすることが必要だ。
これは誰にでもできる芸当ではなくなってしまう。
スポーツブッキングの市場自体がグローバル化し、その対象が米国や欧州を含む複数国におけるスポーツ試合やオリンピック等の国際試合を対象とする場合、リスク管理もグローバルな対応やリスクヘッジが前提になるとともに、かかる分野における専門企業との連携・協力も必須の要件になる時代がきているのかもしれない。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top