2025-05-05
310.違法オンライン賭博:SNS媒体によるギャンブルコンテンツ自主規制
現代社会ではSNS媒体やインターネットサービスプロバイダーは社会的に控除良俗に反する有害なコンテンツや未成年に悪影響を与えかねないコンテンツ等が自らの媒体に入り込まないような企業ないしは自主規制の方針を保持していることが通例である。
それだけ社会的な影響力が強い媒体であると共に、何らかの自主規制を期待する社会的要請があるからだろう。
また事業者にとってみても、政府が何らかの規制を設けて規範を律するよりも、自らが主体的に、自らの裁量により、自分を律することの方が好ましいという考えもある。
勿論、国によってはSNS媒体やインターネットサービスプロバイダー(ISP)に対し、制度的な規制を設ける国もある。
制度としての規制が無い場合には、事業者や業界による裁量判断により、自主規制や業界統一ガイドライン等を設けている国も多い。
但し、国の制度事情や文化の相違、制度の差異等の事情もあり、その態様は国によっても異なる。
同じSNS媒体やプラットフォームでもこの事情は国毎に異なる。
米国では州単位の規制の枠組みの中でSNS媒体によるギャンブルコンテンツを規制している州は殆どいない。
但し、2018年以降のPASPA法棄却以降、ネットを通じたスポーツブックが38州+ワシントンDCで合法化され、極めて短期間のうちにインターネットやモバイルデバイスを用いた賭博行為が広く一般に流布することになった。
これに伴い社会的な関心事由として、未成年等にとり好ましくないコンテンツや偽善的なコンテンツ、あるいは積極的に賭博行為を推奨する戦略コンテンツ等を排除し、顧客を保護する施策を取るべきではないかとする意見が強くなってきたという事実もある。
有害コンテンツを自主的に排除するという企業指針は従前より、個別事業者内にも存在したのだが、2025年以降、既存の指針をより強化する施策を取ることを表明するSNS媒体がでてきたことが今日的な状況かもしれない。
例えば米国You Tubeは規制対象となっていない賭博プラットフォームへのエキスポージャーの制限に関し、従前と比較して、より厳格なスタンスを取り、方針を変更することを3月4日に公表している。
本年3月19日以降①その地域における法的要件を満たさない賭博関連ウエッブサイトへと利用者を誘導することは禁止。
サイトの参照、ロゴの利用、リンクを張ること、勧誘のイメージを与えることも同様で、コンテンツはYou Tubeもしくはその親会社Googleが検証する②18歳以下の利用者がオンライン賭博サイトのコンテンツやこれを推奨するサイトを見ないようにする配慮の実施、③違法、合法を問わず賭博のサイトで勝ちを保証するような文言仕様の禁止等になる。
You Tubeの親会社Google,米国Facebook、Xも生成コンテンツの管理や監視をきめ細かく実践するという類似的な方針変更を表明している。
即ち、直接的、間接的に利用者を(違法、合法を問わず)賭博サイトへ誘導するコンテンツの禁止(利用者にとり潜在的に危険なサイトへ誘導するエキスポージャーを減らすという意味では旧方針の変更)、より積極的にコンテンツの内容を制限するという戦略・方針の変更になる。
もちろんこれはSNS媒体による自主規制に過ぎず、各媒体により微妙にアプローチ手法や制限手法も異なり一致した方針が採用されているわけではない。
かつこの方針の実践をどう担っていくのかという課題はどうしても残る。
我が国でもGoogle, Facebook, X、You Tube等は独自のコンテンツ自主規制ポリシーを公表しているが必ずしも米国と同じではなく、現状違法オンライン賭博関連に関する明示的な記述は見当たらない。
制度的規制ではなく、事業者の団体や事業者自身がガイドラインを設けて自主規制を試みるという手法は我が国でも様々なドメインで類似的な試みがなされている。
法規制ではなく、自主規制という考えは我が国の官民には強く根付いている。
我が国では2022年の改正プロバイダー責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律)で権利侵害情報や違法情報に関し、プロバイダーの損害賠償責任の免責要件や発信者の情報開示を請求できる権利等を規定する制度整備が行われている。
一方、違法ではないが公序良俗に反する情報や青少年に有害な情報に関しては、事業者団体による自主的取り組みがなされることが制度の建付けになっている。
一方、個別の違法・有害情報への対応に関しては、事業者団体や個別のプロバイダーによる自主的な取組を推奨し、これが実践されており、総務省はそれらの取組の支援を行うという手法を採用している。
各種の自主的な業界ガイドラインが制定、公表されており、業界団体としての違法・有害情報相談センターが設置され、総務省の委託事業としてンターネット上の違法・有害情報に対し適切な対応を促進する目的で、関係者等からの相談を受け付け、対応に関するアドバイスや関連の情報提供等を行なう相談窓口となっている。
オンラインカジノ問題に対する制度的対応が国会でも議論になりそうだが、(制度や規制措置ではなく)上記枠組みの中で業界ガイドライン、SNS媒体やISPによる自主規制を強化させることが第一歩になるのかもしれない。
但し、ゲームと賭博の線引きは難しく、コンテンツの違法性判断基準をどう設定できるのかは、単純ではない。
自主規制は一定の効果があるだろうが、果たしてこれだけでうまくいくかは解らない。
自主規制は罰則も無く、どうしても甘くなり、効果が薄くなるという傾向があるからだ。
諸外国のように何らかの制度的枠組みを設け、公的機関による監視、罰則規定等の法的縛りを設ける可能性も存在するが、この場合であっても法の効果的な執行を誰が、どう確保できるのかに関しては課題も多い。
(美原 融)