2025-03-10
303.違法オンライン賭博撲滅作戦:シンガポール
シンガポールでは2022年ギャンブル管理法(Gambling Control Act 2022)により、従来バラバラの法律に基づき、複数の省庁が管理していた賭博関連法を一元化し、一つの法律に纏めている。
これは技術の進展により賭博とゲームとの境界が曖昧になってきており、何らかの判断基準が求められていたこと、バラバラの制度を整合性のあるものに改訂し、一体的な効率化を図るこという政策目的がある。
その前提として賭博の要件を詳細に法的に定義し、この行為を担う者には大臣が免許を与え、これを認知し、免許を取得していない場合には違法という形式をとっている。
同国では二つの陸上設置型カジノ賭博と共に、独占公益企業体であるSingapore Poolが競馬、4D、Toto、フットボール等のスポーツベッテイングに関し、オンラインを通じて賭け券を売ることが認められている。
一方、その他の主体によるオンライン賭博は原則禁止になる(第18条、第20条(1))。
認められている賭博種の種類は多いため何ら問題ないようにも思えるが、サイバー世界には無数の違法なオンライン賭博を提供する主体が存在し、インターネットを通じ、シンガポール在住の自国民や外国人を顧客としてとってしまうことが同国でも社会問題となっていた。
顧客が違法ネットサイトに流れる要因とは、使いかっての良さ、多様な賭博種や賭け方等対顧客サービスの良さ等にあるという。
税負担が無いサイバー世界からの提供である限り、当たり前の話になる。
2020年の政府調査ではオンライン賭博を経験した人は対象者の0.3%にすぎなかったのだが、2023年にこれは1%へと増えている。
この内、Singapore Poolを利用した人は92%というのだから、違法インターネットサイトへの傾斜は他国と比較すれば限られる。
但し、シンガポールにとり問題となったのは、若年層に対するSNSを用いた勧誘や宣伝、過剰なプロモーションや顧客の精神衛生を無視したネット上の行動等が野放図になされていたことにある。
制度的には2014年に制定された遠隔ギャンブル法(Remote Gambling Act)によりオンライン賭博はSingapore Poolを例外として、全て禁止という措置が取られている。
2022年ギャンブル管理法はこれを踏襲したが、遠隔賭博そのものを詳細に定義し、禁止の対象にするという形式を取りやめ、認められる賭博行為と必要な免許を詳細に定義し、記載のないものは全て禁止、違法という手法を採用した。
ネットを通じ、国内外からシンガポール在住の個人に賭博行為を提供したり、広告宣伝をネットやSMSで流したり、勧誘・誘引したりする行為、金融機関がオンライン賭博決済に関与する行為等も全て違法、顧客としてこれに参加することも全て違法となる。
違法遠隔賭博の法の執行に関しては特別の章(Division 4 Special Provision for Remote Gambling)が設けられ、摘発の判断基準・罰則の詳細を規定する興味深い内容となっている。
法の執行の担い手を、認可を得た公的職員(Authorized Public Officer)ないしは警察職員(Police Officer)とし、複数の行政機関により様々な対応ができる仕組みを前提としている。
当初は規制当局であるギャンブル規制機構(GRA, Gambling Regulatory Authority) が監視・摘発・法の執行を一元的に担っていたのだが、2025年1 月1日よりこの役割・権限をシンガポール警察機構(SPF, Singapore Police Force)に移譲することになった。
GRAも逮捕権限があるのだが、より迅速な法の執行を期すための一元化という趣旨だろう。
尚2022年のギャンブル管理法の制定により、規制機関たるGRAの監視権限は強化されており、この前提の下で警察当局との緊密かつ効果的な連携・役割分担を志向したものと思われる。
興味深いのは監視・摘発・法の執行の在り方で、市民からの通報(i-Witnessという通報サイトがある)の他に、公的主体自らが監視、違法サイトを特定し、同じプラットフォームで異なるURLのミラーサイトが無いことを確認、ブロックが必要と判断した場合、情報通信メデイア開発庁(IMDA)をして、ISP(インターネットサービスプロバイダー)に対しアクセスブロック命令を出すことを要請し、強制的にブロックできることだ。
同時に、関連支払いサービスを特定し、シンガポール金融庁(MAS, Monetary Authority of Singapore )をして、関連金融機関(金融機関、クレジットカード会社、決済代行会社等)に対し、支払いブロック命令を出し、支払いを差し止めることができる(全て強制で、従わない場合、ISPへの罰金はSG$2万㌦/日、上限SG$50万㌦、金融機関の場合は取引毎にSG$2万㌦、上限SG$50万㌦になるというから、まあぶったまげる制度だ)。
勿論これら関連主体が不服の場合には、一定期間内に所轄大臣に対し再検証を要請できる。
これら一連の手続きを一つの国の規制機関が担うことは効率性、効果性の観点からも合理的ではある。
因みにその他の罰則規定だが、顧客として参加した場合、6ケ月の収監もしくはSG$5千㌦の罰金あるいはその両方、胴元として提供した場合、5年間の収監及びSG$20万㌦以下の罰金、再犯の場合には10年収監、SG$70万㌦とかなりの重罪になる。
広告等の違反行為、勧誘誘引等の違反行為にはSG$2万㌦の罰金という具合だ。
ちなみに2015年以降、2024年末迄に規制機関であるGRAは3,800のサイトをブロックし、145,000件のオンライン賭博関連支払い(SG$3,700万、US$換算2,710万㌦)をブロックしたという。
中には他国でも活躍する大手企業たるBet365, Ladbroke, 888.com等もブロック対象とし、これら企業をシンガポール市場から追い出している。
シンガポールは先進国であるが、小さな都市国家にすぎず、制度的には強権警察国家ともいえる体制だ。
だからこそ、先進国ではバラバラに行動している違法サイトの強制ブロック、幇助主体のブロック、オンライン賭博決済のブロック等を一元的にかつ強制的に行える仕組みを構築できたのであろう。
不良サイトにアクセスさせない、アクセスできる手段を全て遮断する、違法賭博関連支払いを差し止めるという三拍子がそろえば、確かに効果的な防御は可能になる。
但し、かかる制度を実現できる国は少ない。
(美原 融)