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2025-03-03

302.違法オンライン賭博撲滅作戦:インドネシア

インドネシアは人口2.21億人の内85%がイスラム教という世界最大のイスラム国である。
勿論イスラム国である以上、飲酒や賭博、ベッテイング等の行為は宗教上も、刑法上も禁止され、厳格な罰則規定がある。
もっともこれだけの人口大国だ。
大都市には昔から旅行者等がいける闇賭博施設が若干ながら存在し、警察公安当局との摘発の鼬ごっこが続いているところは何やら我が国に似ている。
但し、宗教的な慣習からも一般庶民にとり賭博等は遠い存在でもあった。
ところがインターネットの登場はこの状況を根本的に変えてしまう。
インドネシア・インターネットサービスプロバイダー協会(APJII)によると今やネットユーザーは2.21億人になり、人口全体の79.5%になる。
要は子供も含めて誰もがスマフォやタブレットを用い安価な費用でネットにアクセスできる環境が成立している。
これが一般庶民によるゲームや賭博、賭博類似行為への安易なアクセスを可能にしてしまった。
賭博行為自体がゲーム化し、単なるゲームなのか、賭博への導入なのかが解り難い手法を用い、SNSやX、Facebook等様々な手段によりゲームや賭博、賭博類似行為の宣伝広告、インフルエンサーによる誘導等により、知らないままにゲームから賭博へと賭博行為にはまってしまう人口が爆発的に増えてしまうという事情が生じた。
ネット上のプラットフォームを通じて、オンライン上で賭博行為を楽しむ人たちがあたかもパンデミックにかかったみたいに瞬く間に巨大な市場を構成してしまったことになる。
問題は政府がいくら違法といったところで、ネット上海外のサーバーから提供されているサービスに国民がかってにアクセスしても効果的な法の執行は単純にはできないことだ。
過半の国民からすれば安価な庶民の娯楽、何が問題なのか、自分の金だということになる。
この結果、違法であるオンライン賭博が未成年を含めて国中に蔓延してしまった。
マネロンを規制する国の機関である金融取引報告・分析センター(PPATK)によると、2023年時点で国民の330万人が賭博行為に参加し、その消費額は年327兆Rps(307億米㌦)相当額というのだから、とてつもない事態になる。

問題はその内実だ。
賭博参加者の80%は何と低所得者層になる。
支出額も10Rpsから10万Rpsと左程大きな金額ではない。
年齢層は30歳から40歳が40%で164万人、50歳代が34%となり、44万人が11歳から20歳になる。
この他10歳以下が何と8万人以上もいるというのだからたまげる。
オンラインで賭博支出の為に担保無しの貸付を可能にする仕組み(インドネシア語でPinjamanという)が市場で成立、誰もが元手無しでゲーム感覚で深みにはまったのだろう。
この結果、個人的財務破綻や借金苦による自殺者まで出てくると共に、若年層をも含む賭博依存症が大きな社会問題となってしまった。
依存症患者は8万人程度いると想定され、何とこの内2%がどうやら10歳未満の子供であることが明らかにされつつある。
勿論これは少額での賭け事の累積なのであろうが、なぜかかる事象が未成年に生じるのかという課題が政治的、社会的に大問題となってしまった。
かかる事態への対処として、政府は積極果敢なオンライン違法賭博撲滅作戦を2023年以降取らざるを得ない状態に陥ってしまっている。

オンライン賭博は2008年法律11号(UU ITE)で禁止、罰則が規定され、その後、2016年、2024年に罰則が強化されている。
2023年にはインドネシア電子取引法が成立し、この枠組みの中でもオンライン賭博は明示的に禁止の対象とされ、違法サイト運営者に対し違反行為は10年収監並びに100億ルピア($64.5万㌦)という厳罰が規定された。
所轄大臣となるコミュニケーション情報大臣は様々なネット媒体(Meta, X等)に対し不適切コンテンツとなるサイトやプラットフォーム削除の最終勧告を行い、 この結果Metaは165万のコンテンツならびに45万の広告を削除している。
2024年6月には大統領令21号に基づき政府内部に「オンライン賭博根絶タスクフォース」が組成された(担当大臣は政治法務国家安全担当調整大臣)。
このタスクフォースは金融庁(OJK)並びに中央銀行 (BI) に対し、オンラインギャンブル決済に関わる銀行口座並びに電子財布を凍結し、資産は国が没収することを命令し、2024年6月時点で金融庁(OJK)は6,056の銀行口座を凍結したという。
既に4,000~5,000の口座を特定し、データは警察に渡され摘発が進んでいる。
それにしてもかなり過激な施策をとったものだ。
ネット上の広告・宣伝、違法オンラインサイト、誘導サイト等は全て禁止とし、メデイア媒体にこれらを排除しなければネット上のプラットフォーム全体の停止措置をとると警告、強制的な排除を図ったわけだ。
かつ250人の専従職が24時間モニターし、毎日1,000から2,000のサイトをブロックしているという。
とてつもないサイバー世界であることが解る。
同時にオンライン賭博決済の勘定(電子財布等)も一定猶予期間の間に残額を顧客に引き出させ、これを過ぎた場合には全て国が没収という措置もとった。
警察、金融庁、中央銀行、マネーロンダリング対応の国の機関がタスクフォースの下で動いており、強権的な法の執行を徹底すれば、確かにインドネシアでのオンライン賭博は縮減する。
この結果国民による違法賭博サイトへのアクセスは半減したという報道もなされている。
もっともVPN(Virtual Private Network)を国民が悪用すれば単なるサイトブロックでは抜け穴ができてしまうという議論もある。

貧困層や若年層はFinancial Literacy(お金の意味や価値・責任と義務に対する理解)が欠如していること、単なるゲームと賭博の境目が解らなくなりつつあること、10歳以下の未成年すらアクセスでき、賭博に参加できてしまう現実があること等はかなり衝撃的な事実になる。
これは他国でも起こるかもしれないし、インドネシアだけの問題ではないのかもしれない。
先進国ではハードルが高く実現が難しい厳格な法の執行を実践できたのがインドネシアだ。
強権国家だからこそ可能なのだという議論もあるが、これが如何なる効果・結果をもたらすことになるかは注視すべきであろう。

(美原 融)

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