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2026-07-13

371.オンライン賭博規制:通信の自由と公共の利益

オンラインによる違法カジノを遮断するためにサイトのブロッキングを総務省の委員会が議論していたが、この前に立ちはだかるのが憲法上の「通信の秘密」だ。
日本国憲法21条2項後段に「通信の秘密は、これを侵してはならない」とある。
これは表現の自由と並ぶ、プライバシー保護のための権利の一つで、自由なコミュニケーションを保障するための基盤でもある。
これにより、例えば国家や第三者が個人間の通信内容・通信事実を勝手にあるいは本人の承諾なしに一方的に知ったり、利用したり、漏らしたりすることは禁止される。
対象は電話・メール・SNS・郵便など、あらゆる通信手段になる。
また、公権力(国家)が行政上の理由で勝手に通信を調べる(積極的知得行為という)ことも禁止となり、通信業務従事者(郵便局員・通信事業者・プラットフォーマー等)が、職務上知りえた通信内容を漏らすことも禁止である。
文書に基づく通信しか存在しなかった時代には分かりやすい制度でもあったのだが、ことデジタル時代になると音声のみならずデジタル化されたインターネットを介したメッセージ・画像・動画等ネットで提供されるすべての情報が通信の秘密の対象になってしまう。

インターネットを通じたポルノやオンライン賭博等の違法なオンラインコンテンツは、個人がかってにサイトを探し、アクセスしてしまう限り、現状の制度ではこれを抑止したり、制限・規制したりできる法的・制度的枠組みは存在しない(例外は児童ポルノ禁止法で、児童ポルノを閲覧したら罪という独立した規定はないのだが、閲覧行為はデータ保存を伴うため 児童ポルノ禁止法の所持・保管規定で犯罪として処罰される)。
では閲覧自体をできなくする接続遮断をすればよいではないかとなるが、このためにはプロバイダーが全てのネット利用者の閲覧先を確認する必要があり、こうなると通信の秘密や国民の知る自由を侵害することになりかねない。
インターネット上の特定のサイトへのアクセスをブロックする手法には複数の技術が存在する。
如何なる手法を用いるかによっても効果は異なる。
通常のユーザーに対しては一般的には抑止効果はあろう。
但し、技術的なループホールは存在し、必ずしも完璧な遮断ができるわけではない。
ちょっとネットに詳しいデジタルキッズならば、誰もがどうすればループホールができるかを知っている。
如何なるブロッキングをどこまで、どういう形でできるかが総務省の委員会でも議論されてはいたが、当該サイトのブロッキング等の議論をするときに、当然でてくるのがこの憲法上の通信の秘密だ。
憲法上の国民の権利の侵害という主張がなされる場合、頭の中が真っ白になり、そこであらゆる議論も中断するという事象が起こる。

このように我が国では制度的にネット上の特定サイトをブロックする新たな法規制を設けることは余程の事情がない限り、実現しにくい。
誰がどの技術手法を用い、如何に有害サイトを特定し、どこまで何をやるのか、実効性のある仕組みといえるのか、他の有効な手法がある場合、そちらを優先すべきではないか等複雑な問題が生じ、単純には解決できにくい。
こういう場合、我が国では法規制ではなく、民間主体が業界による自主規制に基づき、自らの判断でアクセスを遮断するということに落ち着くのが通例である。

尚、通信の秘密・自由という概念は他の先進国でも同様に存在する。
但し、不可侵の絶対的な権利という位置づけではなく、公益が優先する場合、通信の自由は一定の規制を受けるという考え方がより一般的な考えになる。
この場合の公益とは、違法オンライン賭博が自国の未成年にもたらしうる危害から未成年を守ること、規制の対象となっていないオンライン賭博がもたらす弊害(例えば若年層による賭博依存症増大等)から国民を守ること等にある。
インターネットは自由な世界なのだが、明確な公益がある以上、公益が私的な権利を凌駕するということでもある。
これはまともな考え方で、かかる理由により、ネット上の海外からの違法サイトへの国民によるアクセスを規制するという考えが成立する。
我が国でも、何が公益か、私権を公益が上回る要件とは何か、これは正当化できるのか等の議論が本来必要なのだろう。
但し諸外国でも完璧な国民を守る手法等は存在しない。
アクセスをブロックさせれば事足りる等誰も考えていない。
ループホールはたくさんあるのだ。
一つの手法のみで問題は解決できない。
そこで実務的には多面的・複層的な対応策を併用することが実践されている。
効果的なのは国民を監視し、国民による違法オンラインサイトへのアクセスを遮断することではなく、単一の国の省庁・機関の下で総合的な法規制を設け、オンライン賭博の仕組みに介在する様々な幇助主体を厳格な規制と罰則により取り締まることだ。
特に決済に関係する決済代行事業者、クレジットカード会社、金融機関、特定サイトへと誘導するアフィリエータ、プラットフォーム運営者、広告業者、SNS事業者等対象を限定して、罰則により抑止力を高め、単一省庁の下でモニタリング、自己申告、定期検査、密告を含む違法行為摘発等を実施すれば、確実に違法オンライン賭博消費は減少する。
これらは全て日本に在住する幇助者であって、海外にいる違法オンライン事業者ではないため、確実に捕捉することができるからだ。
問題は日本では所管省庁が複数に亘り、省庁の思惑と利権により、統合的な施策が実現できにくいという環境にある。
内閣府でこれを調整するといっても現状と同じの形だけの組織であれば全く意味がない。
明確な権限を与え、省庁の行動を規制できなければ意味がないからだ。
あるいは省庁の賭博関連権限をガラポンにし、新たな単一規制当局を構成した方が一番良いのだが、官僚による利権の囲い込みに繋がりかねない側面があると共に、一部官僚組織が確実に反対すると思われ、もっとも実現できにくい施策になる。

(美原 融)

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