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2025-05-12

311.米国オンライン賭博事情:州境を跨るオンライン賭博

米国ではインターネットを使用する賭博行為を認めるか否か、認める場合どう規制するかは州毎の判断によるという司法解釈が定着し、州毎にiGamingやSport Bettingの制度がバラバラに存在する。
内容的には類似的な制度なのだが、全てが同じではない。
例えば事業者に対する粗収益特権課税の税率は州毎に異なる。
よって事業者は州毎に規制当局の免許を取得し、その州境の中で当該州民に対してのみサービスを提供できる。
アプリの中のGeolocation機能を用いて、サイトレベルで他州の顧客はアクセスできないようにするわけだ。
この地域毎に独自の制度を設け、当該地域のみを市場とする考えは実はネット社会には逆行する。
サイバー世界では地域等の地理的限界もなく、できうる限り顧客ベースを広くとり、多数の顧客を同時的に抱え込むことがインターネットの最大のメリットなのだが、これが大きく削がれるからだ。

この様に米国ではネット賭博市場は分断されている。
一方、地理的に異なる複数の州政府が合意のもとでお互いの市場を共有する可能性が否定されているわけではない。
全く逆説的だが、インターネットの特性を利用し、(たとえ地理的に離れていようが)一つの州政府が他の州政府と拘束力のある契約を締結し、お互いの市場を契約により共有することは可能になる。
かかる可能性を認める規定を州による制度の中に設けることが慣例として定着している(例えばデラウエア州だと28 Del C4826 , Regulation 13.22.2。
ネバダ州だとRevised Statute 463.747)。
この考えを州際間インターネットゲーミング協定(Multi-State Internet Gaming Agreement、MISGA)という。
もっとも米国ではネットで提供されるiGamingは未だこれを認める州は限定的で、ネット賭博の中心はインターネットポーカーとなるため、このMISGAをInternet Poker Compact(インターネットポーカー協定)等と呼称することもある様だ。
具体的にはこれは協定に参加する複数の州民が州境を越えてお互いに同じオンライン賭博のサイトに参加し、競い合うことを可能にし、顧客のプール(顧客数、顧客賭け金、参加費)を拡大させるという考えになる。
例えばインターネットポーカー等は基本的には顧客同士の賭け事であり、胴元となる事業者はネット上に場を提供しているだけにすぎない。
この顧客参加費から賞金相当額や事業者のコミッションを取るのだが、顧客プールが大きく、できる限り参加顧客の数を増やすことが顧客の賞金を高くし、魅力ある選択肢を増やすことに繋がる。
同時にこれは事業者の収益や関連税収をも増やすことになる。
逆に顧客プールが相対的に小さかったり、限定的であったりする場合、収益の成長余力は限られてしまう。
州政府にしても、事業者にとっても、顧客のプールを大きくすることは税収や事業収益を増大するメリットが生まれることになる。
特に住民規模が小さい州では、州民だけのインターネットポーカーでは事業として魅力も無く、顧客にとっても面白くないものになりかねないという事情もある。
最初の州際間インターネットゲーミング協定は2015年に制度創出に先行したネバダ州とデラウエア州との間で締結された。
もっともネバダ州で認められているのはオンラインスポーツブックとオンラインポーカーのみで所謂iGaming(カジノ)は認められていない。
一方のデラウエア州ではiGamingも認められているのだが、協定の対象はスポーツブックとポーカーのみということになる。
その後この協定にはニュージャージー州(2017年)、ミシガン州(2022年)、西バージニア州(2023年)が参加し、2025年4月23日にはペンシルベニア州知事が著名し、参加することになった。
協定参加州が意外に少ないのは、州法で特別な立法措置を必要とし、手順が複雑になる事情や州政府の意向として、市場の拡大・共有を必要としないスタンスを取る州もあるからだ(iGamingを法制化し、MISGAに参加していないのはコネチカット州、ロードアイランド州のみになる)。
この基本的仕組みは単純で、州際間の壁を取り除き、協定参加州のどこかで免許を取得している事業者が協定参加の他州の顧客から賭けを募ることができるというものだ。
事業の収益はトーナメントの場合、徴収される参加費は物理的に参加した顧客が居住する州毎に比例配分され、事業収益がコミッション等の場合には顧客から徴収する参加費を加重し、関連州でプロラタ割りで配分することになる。
パイを広げても自州の州民の賭け金からの収益は自州に還元するということだろう。
尚この協定の実施のために、参加各州の行政官からなる監督モニタリング機関としての州際間インターネットゲーミング協会(Multi-State Internet Gaming Association、デラウエア州に本社をおく株式会社)が創設され、モデル運営協定案の策定、施行の監督・コンプライアンスモニタリング等を担うことになっている。
各州の制度、規則がしっかりしていれば、大きな問題が生じるリスクは限りなく少ないともいえる。
米国のように地域(州)毎にバラバラの制度である場合、確かに協定により顧客プールを大きくすることは、地理的に州同士が離れていても(勿論若干の時差は生じるが)顧客は州境を越えて他州で主宰されているネットポーカートーナメントに参加できる。
陸上賭博施設の間では絶対ありえない可能性なのだが、サイバー世界だからこそ、これが可能になる。
この意味ではこの協定の考えは合理的、効果的に州境という制約を乗り越える一つのツールであることは間違いない。
本来国全体の統一的な制度やルールがあれば、こんなことは必要ないのだが、これが期待できない場合、当面の間、かかる試みが市場拡大への唯一の手法なのかもしれない。
一方、全米各州の賭博規制機関の団体である全米ゲーミング州立法者協議会(NCLGS National Council of Legislators for Gaming States)は2024年12月に、インターネットゲーミング法制のモデル法案を公表し、各州の法制化努力が収斂することを推奨しているが、MISGAに基づく各州間の協力・連携を前提にしている。
モデル法自体はカジノ規制と同様に特定規制機関の設置、厳格な参入規制(事業者数の限定、関連主体の廉潔性検証と免許付与)の枠組みとなるが、ハードやソフト提供者も免許の対象、GGR税15~25%の推奨、免許期間は5年、預託金上限規制(2万㌦/24h)、顧客勘定設定時本人確認義務等ネット社会特有の事情も考慮されている。
これが今後インターネット法制のベストプラクテイスとなりうるかは今後の課題でもあろう。

(美原 融)

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