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2022-06-13

161.ネット(オンライン)カジノ賭博再考

阿武町の誤給付金問題は、ひょんな所から飛び火し、インターネットカジノに脚光を浴びさせることになった。
制度上違法ではあるが、現実には存在し、一定規模の市場を構成しており、特段お上からお咎めを受けるわけでもなく、誰もが自由に何処でも使えるインターネットから用意にアクセスできるサイトがあるのだ。
外国では合法だが、わが国では違法になる。
但し、サイバー空間では国境の概念等ないのだから、合法か違法か良く解らない、極めてグレーな領域ということになる。
残念ながら国境の無いサイバー空間における違法賭博を効果的に取り締まれる制度も規範もないのが世の中の現実になり、我が国もこの実態は同様である。
先進国での対応には、これらを違法とし、法の執行を厳格にし、徹底的に取り締まる政策をとるか、逆に新たな制度構築によりこれを認め、サイバー空間に国が規制・管理する認可事業者の空間と違法事業者の空間とを峻別させ、安全・健全な前者を選択するように国民を誘導する政策の二つがある。
過半の先進国は後者を採用している。
禁止した所で、サイバー空間で効果的に法を執行できる仕組みは現在の技術では不可能に近いからだ。
それならば認知して、これを直接規制・監督の下に置いた方が国民を守れると考えることに一理はある。

このインターネットによる賭博行為の提供だが、その仕組みは、賭博ソフトプログラム提供者がゲームソフトをネット賭博事業者に提供し、後者がサイバー世界に賭博サイトを開設する。
顧客はネットプロバイダー経由サーチエンジンでサイトを探し、一定のハードツール(コンピューター、スマホ等)を用い、このサイトにアクセスして、一定の資金を振り込み、アカウントを作り、このアカウントから金銭を都度引き出す形で遊ぶことになる。
負ければ金は消えるが、勝てば勝ち金がアカウントにクレジットされる。
お金のやりとりには、金融機関、クレジット・カード会社や電子決済サービス事業者等が関与することになる。
この様にネットカジノの世界とは、複数の主体が輻輳的にサイバー世界の中で一連のチェーンに参加し、初めて成立する。
かつゲームの提供はサイバー世界なのだが、資金のやり取り(決済)はリアル・ワールドでもあり、現金が動くところは現実世界になる。
インターネットを利用した商取引が現れたのは1990年代後半で、暗号化された通信プロトコールの開発による決済の安全化が認知されたことが大きな発展の要因にもなった。
当初の決済手法はクレジット・カードのみであった。
ところがその後ネットバンキングの進展やスマホによる電子マネーや仮想通貨による簡便な決済手法が市場に登場し、ネットカジノの決済にもクレジット・カードではなく、電子マネーや仮想通貨を用いることが一般化しつつある。
限りなく全てが電子化しているのだが、この場合でもリアル・ワールドの銀行口座から必要資金を振り込む、あるいは引き落とし、現金を電子マネーや仮想通貨に転換するという意味では、どこかで現金とのインターフェースが残るわけで現実の世界との係わりはまだ残っている。

インターネット賭博を規制したり、その利用を抑止させたりする考えは、上記インターネットが複数主体による一連の行為から成り立っている仕組みに着目し、この内どれかの主体ないしは行為を規制の対象とし、この要素が機能しなくなれば、一連のチェーンの動きが止まることに着目する。
要所を抑えれば完璧とはいえないまでも効果的な規制ができる余地がある。
例えばプロバイダー規制を実施し、複数のサーチエンジンやプロバイダーに賭博サイトを有害サイトとして排除させる義務を課せば、通常の顧客はまずアクセスできなくなってしまう。
強制ではないが業界団体による自主規制として有害サイトを摘発し、排除することは我が国でも児童ポルノサイト等に採用されている。
あるいは決済には必ず現金が必要で、この現金は金融機関の銀行口座にある以上、支払い行為の対象がネット賭博である場合、これを特定し、支払いをブロックする義務を金融機関に課せば、そもそも全体の仕組みが機能しなくなってしまう。
勿論かかる考えや手法は一定の効果があるとはいえ、成長しつつあるネット取引やネット市場を抑制しかねず、適切といえるのかという懸念は残る。

では諸外国では何をどうしているのか。
米国では実際の資金の動きに着目し、金融機関やクレジット・カード会社等を対象とし、賭博行為に係る送金等を特定化し、ブロックさせる義務を課す制度を設けた。
但し、これは完璧には機能していない。
かつネットポーカー等一部ゲーム種のみは制度的に認める州政府がでてきたため、何が違法で、何が合法なのか混乱していることが現実だ。
中国ではネット賭博に関与すること自体の全てが犯罪で、サイバー空間自体を厳格な規制と監視・摘発の対象とし、個人情報の保護も、自由なサイバー空間も存在しないという異常な強権国家になっている。
欧州諸国では事業者と顧客という主体を効果的に規制することに着目し、事業者に免許取得義務を課し、自国にサーバーを設置、ソフトを認証の対象にし、全ての顧客・取引記録等等をも監視監督する前提でネットでの商業的賭博行為提供を認めている。
一方我が国は制度的には禁止だが、禁止を担保する法的メカニズムは無く、実際には放置され、法の執行がなされているわけでもないという曖昧な状況になる。
制度が曖昧なままでは国民がネット賭博にアクセスしてしまうのは仕方がないだろう。
途上国にはかかる状況の国も多いが、先進国では、制度が曖昧な国は今では完全に少数派になっている。

諸外国では、ネット賭博を認めるか、認めないかはその国の個別の政策次第でもあり、認める、認めないの双方につき様々な規制の手法や考え方が実践されている。
サイバー世界の中でその国の国民を守るため、何を制度的な規制の対象とし、どう法の執行を担うべきなのかは本来議論を尽くしたうえでの政策的判断になる。
これができていない社会的環境や議論の未熟さこそが我が国の本来の問題なのかもしれない。

(美原 融)

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