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2025-02-17

300.オフショアオンラインカジノ⑥ UNODC/USIP報告

2024年に相次いで公表された国連麻薬・犯罪局(UNODC)報告(Casinos, cyber fraud and trafficking in persons for forced criminality in Southeast Asia )、米国平和研究所(USIP)上級研究グループ最終報告(Transnational Crime in Southeast Asia A Growing Threat to Global Peace and Security)は東南アジアを拠点に急速に拡大しつつある中国系犯罪組織の存在と拡大に警鐘を鳴らしている。
香港、マカオ、広東省等を主要な拠点としていた裏の世界の犯罪組織が中国政府による汚職・腐敗撲滅施策やマカオにおけるジャンケット規制の強化等に伴い、東南アジアにその拠点を移す状況が顕著になってきたからに他ならない。
この背景にはインターネット、オンライン関連技術の発展やコロナ禍に伴い、ネットを通じた遊興やギャンブルが(制度的に認知されているか否かに拘らず)、あらゆる国の民衆に浸透してきたことが大きな要因になっている。
スマフォやタブレットは中国のみならずあらゆるアジアの国々で民衆の間に浸透した。
安価な費用であらゆる情報やネットサイトにアクセスできるという環境はSNSのプラットフォームと共に爆発的にオンラインゲームやオンライン賭博が広まる事象をもたらしている。
こういう状況になるとオンラインの賭博の提供は世界中何処にいても可能になる。
規制が緩やかで、中国市場との時差も少なく、制度も曖昧な東南アジアの国々がこれら中国系犯罪組織にとり恰好の餌食となった。
必要なのは高速ネット回線と端末機器、システムを管理する技術者、中国本土の顧客を誘致するアフィリエート、顧客に対するあらゆるサポート、通訳等で結構な数のスタッフを必要とするが、これらとスタッフを収容する箱さえあれば、どこからでも仕事はできる。
ジャングルの中であろうが、社会と隔絶した閉鎖的な施設であっても十分だ。
かつ規制や制度的環境が不利になれば、その国の施設をたたんで、より規制の緩い国を探して移ればいいだけの話になる。
顧客が施設に訪問する集客施設ではないし、固定施設への投資も少なく、拠点を移すこと等いとも簡単にできる。
この中核となったのはフィリッピンやカンボジアに拠点をおいた中国系犯罪組織だ。
これらの国の摘発が厳しくなると、今度はラオス、ミャンマーへと拠点が飛び火し、東チモール、あるいはカリブ海の軽課税国にも触手を伸ばす等、複数国で同時平行的に活動を始めつつある。
複数国で資金を融通できるからで、摘発されるリスクを分散する考えだろう。
かつアジアの途上国では、現地エリートや軍部との間で贈収賄や利権売買等の癒着が横行しており、贈収賄で彼らの支援を得るとその国の裏の世界に根付いてしまう。
こうなると単純な形での法執行はできないし、管理・監督も徹底的に甘くなってしまう。

さらに犯罪組織を助長させたのはトレースが難しい違法資金決済や資金移動を可能にする手段と環境をインターネットが提供していることだ。
ネットによる決済手法は多様化し、ブロックチェーン技術を利用したり、仮想通貨が利用されたりしつつあり、本人確認の無い無記名主体もしくは偽装IDによる取引が横行しつつある。
これをサポートするのが地下銀行やネットワークを利用した分散化し、偽名を用いた資金移動の存在だ。
昔のように銀行送金のようなトレースが可能になる金融仲介事業者がここに介在する余地はないのだ。

この様なネット環境は違法決済取引が可能となる環境をもたらし、こうなると単純なオンライン賭博だけではなく様々な犯罪も可能になってくる。
インターネットを顧客を探すツールとして用いたり(例えば違法薬物をSNSやダークウエッブを用い不特定多数の顧客に販売する)、ネットを利用したオンライン賭博の提供、顧客をSNS等で誘い込み投資詐欺へと繋げたり(おれおれ詐欺のネット版みたいなもの)、SNSで末端のセルを募り、彼らを犯罪の手先に使ったり(日本の闇バイトはこれである)する。
あるいは身代金目当ての誘拐、有名ブランド偽造商品のネット販売等様々な詐欺行為等も含むのだが、これらは全てインターネットを補助手段として用いて行う犯罪になる。
この他サイバー技術に依存する犯罪も行われている。
例えばハッキング、ランサムウエアによる攻撃・脅迫・身代金奪取、スパンミング、フィッシング等によるログインパスや銀行情報の奪取、DDoS(Distributed Denial of Service、分散型サービス拒否攻撃、集中的に特定企業サイトにアクセスし、システムを麻痺させる行為)等だ。
いずれもその裏で巨額な資金を国境の壁を越えてやりとりするマネーロンダリング手法があらゆる側面で行われている。
これらの中には日本の犯罪組織が東南アジアを拠点とし、国内の日本人を対象にする犯罪行為も当然ある(現に検挙・逮捕に至った事案は儘存在する)。

問題の根は、対象は一ケ国だけではなく、グローバルな規模で行われ、世界中にそのインパクトが広がっていることにある。
これを効果的に取り締まる国際的なレベルでの枠組みは存在しない。
より効果的な国際間の犯罪協力が必要なのだろう。
フィリッピン、カンボジアでは中国の圧力もあり、中国系オフショアゲーミングオペレータの排除に動いたが、必ずしも徹底されたわけではない。
2025年1月ASEAN外相会議にて中国王毅外務大臣はタイ・ミャンマー国境周辺地区に存在するオンライン賭博・ネット詐欺組織に言及し、各国による適切かつ強力な措置とバイあるいはマルチの国境を跨る犯罪組織を巡る捜査協力を要請した。
この結果ASEAN内部で対応体制が取られる見込みで、今後更に各国間の協力体制構築と何らかの具体的施策がとられる可能性もある。
一方2月初旬タイ政府は、タイ・ミャンマー国境隣接地域への電力・インターネット・燃料供給を遮断するという行動をとった。
これは当該地域に存在するといわれる違法賭博を含む犯罪組織を締め出し、その根絶を期す施策の一つでもある。

(美原 融)

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