2025-02-10
299.オフショアオンラインカジノ⑤ ホワイトラベルアレンジメント
スクラッチからオンラインのカジノやスポーツブック等のサイトをサイバー世界に構築するビジネスを始めるには結構な手順が必要で、費用も時間もかかる。
ゲームソフトウエアの使用許諾、システム、サーバー、データーセンター、ネットワーク・プラットフォーム等のインフラ構築、支払いプラットフォームの構築等と共に国によっては面倒な事業免許取得手続き等も必要だ。
ところが細分化された技術の急速な発展とサイバー世界の進化は、これら技術・運営上の必要なインフラの全てをReady Madeのパッケージとして販売ないしはリースにより提供するビジネスモデルが成立する状況をもたらしている。
これをホワイトラベルアレンジメント(White Label Arrangement)という。
ホワイトラベルとは他者が開発した商品やサービスを自社ブランドとして販売するビジネス手法をいい、当初は真っ白なラベルの商品やサービスを自分のイメージに合うように変えて提供するという意味合いからでてきた用語だ。
OEMみたいな考え方になる。
勿論オンラインカジノの場合でもどこかに拠点を置き、一応の正当性を具備するために、その国の免許取得が必要になるのだが、この手続きすら不要となる手立てもある。
ホワイトラベルのプロバイダー自体が規制が相対的に緩い一定国の免許を保持しており、その免許の下で、かつ彼らの責任の下で運営する限り、面倒な個別免許等不要、合理的にこの手順を回避できるという国が存在するのだ(例えばマルタ、英領マン島、蘭領キュラソ、カリブ海のアンテイグア・バルブーダ、カナダオンタリオ州カナワケ部族等。
2024年7月迄はフィリッピンもこの分類に入った)。
あるいは簡易的なSub-Licenseでごまかすという手段もある。
具体の役割分担とは、ホワイトラベルプロバイダーがすぐ使えるウエッブサイトやカジノソフトウエアの開発と提供、プラットフォーム構築と技術支援、法的なインフラ(免許等)の維持や法務上の支援、財務インフラ(複数支払い手段を含む)の提供、運営段階での技術サービスやシステムメンテナンス等を担い、オンラインの事業者は日常的なオンラインカジノの運営、マーケッテイングと顧客確保、販促や対顧客ローヤリテイプログラム、一次的な顧客対応等を担う。
こうなるとオンラインカジノの運営はリモートで可能になる。
当初のセットアップ(立ち上げ)費用は左程高くはないが、運営段階では実質的な収益分担契約となるため、これは結構高くなる。
もっとも技術的な経験や運営ノウハウがなくとも金さえあればこの分野への参入は不可能ではないわけで、こうなるとオンライン賭博への市場参入は各段に容易くなる。
また新規参入企業にとっては全体としての費用と手間は縮減し、市場参入への時間もかなり短縮できる。
かかるホワイトラベルプロバイダーは専ら欧州を拠点に活動しているが、Webサイトにはオンラインカジノの始め方等を解りやすく記載しているが、住所の記載がなくメールアドレスのみで、何処にある会社かよくわからない。
おそらく少人数のITの専門家が分散化しながら協業しているのであろうが、若干怪しげな雰囲気もある。
かかるサービス提供は、この業に参入したいが技術も経験もない新興企業にとってはかなり魅力的な手段になる。
面倒臭い免許取得手続きや廉潔性審査等全てを回避でき、手っ取り早く業に参入できるからだ。
本来、免許を持っているホワイトラベルプロバイダーの下で自分のブランド、自分の会社の名でオンラインカジノやオンラインスポーツブックを提供する場合、ホワイトラベルプロバイダーがしっかりとしたDue Diligenceチェックにより当該企業の廉潔性を確認することがあるべき姿なのだが、現実的には厳格なチェック等なされていない。
この意味では参入障壁は限りなく低い。
参入障壁が緩いということは、まともな民間企業以上に、本来この業には参加できえない犯罪組織や適格性が問題視される反社会的組織が合法的に市場に参入してしまう結果をもたらしかねないことを示唆している。
英国でも2005年ギャンブル法に基づき、オンライン免許取得事業者が一定の規制の枠組みの下に自らの業務、機能を第三者に譲渡したり、リースしたりすることが認められており、免許事業者が全ての責任を担うことを前提に、当該第三者は免許取得手続き不要という枠組みを構築している(実質的なホワイトラベルアレンジメントになる)。
2023年時点では免許事業者44社の下に何と750社のホワイトラベルがいたというから驚きだ。
もっとも全てが英国で運営しているわけではなく、例えば既存免許事業者のサッカーチームとの関係を利用し、広告宣伝のみで自社ブランドと名前だけを世界中の視聴者に植え付けさせる等という利用の仕方もあるようだ。
当該事業者の市場は他国(例えばアジア)等にあり、これらの顧客が英国サッカーを見て、サイトを訪問し、賭けることを期待しているわけである。
但し、英国においても、かかるホワイトラベルアレンジメントは実質的に厳格な免許制度のループホールではないかという批判も多く、その在り方が問題視されてはいる。
一方マルタや中米・カリブ海の軽課税国等は、免許のハードルを低くし、自国ではなく、サイバー世界全体を商域とするオフショアオンライン賭博を前提とし、免許者を増やして免許料やフィー等を税収とする政策をとっている。
この動きを辞めさせる制度的枠組み等は世界に存在しない。
この環境がホワイトラベルアレンジメントとオフショアオンラインカジノの隆盛をもたらしているといえる。
オフショアを市場とするオンライン賭博の免許を付与することは、もし対象市場がかかるオンライン賭博を禁止しているとすれば、その国の社会的法的秩序を乱す存在でしかなく、様々な国際的軋轢を引き起こしかねない。
この意味では先進国ではオンライン賭博の許諾は自国市場のみに限定し、免許を付与し、厳格な規制監督すると共に、オフショアからの違法賭博提供を遮断することが主流になりつつある。
オフショア市場を対象とし、無制限に免許を付与することは例外的でしかないのだが、これが無くなるということは当面実現しそうもない。
(美原 融)