2025-02-03
298.オフショアオンラインカジノ④ Sun City Group
Alvin ChauはマカオSun City Groupの創設者・会長で一時は中国本土の富裕層のマカオへの来訪を促すジャンケットの帝王とも呼ばれ、マカオのコンセッション事業者の施設の一部を借り切り、Sun City VIPルームと呼称した部屋を229も運営、巨額のGGRを実現し、一世を風靡したものだ。
一方中国人富裕層に金を貸し付けマカオで遊ばせ、後刻中国に戻った後に負債を回収する行為等は中国国内では、露見すれば当然犯罪になる。
2015年には韓国のジャンケットと中国人エージェントが逮捕・検挙され、2016年にはオーストラリアの大カジノ事業者Crownのオーストラリア人と中国人スタッフがやはり中国内で富裕層を誘客したことで逮捕・検挙されるという事件が起こっている。
在マカオのSun Cityを含むジャンケットに対してもおそらくこの頃から内偵捜査をしていたと思われるが、ことマカオSARのジャンケットに関しては極めて慎重なステップを踏み、実際に中国捜査当局が動き始めたのは2019年以降といわれている。
状況次第では大きな影響がありうるため、慎重に事を運んだのだろう。
動き始めたのは2021年7月で、広東省WenZou市警察がAlvin Chau以下20名に逮捕状を請求、二日後にマカオ警察により全員が逮捕・拘留された。
2023年7月に289の罪状でマカオ初審裁判所で禁固18年の実刑判決となり、2024年7月にマカオ最高裁で控訴が棄却され、判決が確定した。
マカオのジャンケットとは賭博行為が禁止されている中国本土の富裕層を対象に彼らをマカオに誘致し、旅行等のアレンジをすることが本来の業でもあった。
ところが中国本土からの出国者には外貨持ち出し制限があるため、大きな資金は持ち出せないという矛盾がある。
そこで仲介者のジャンケットが中国富裕層にマカオで資金を貸し付け、顧客が勝った場合にはその場で返金させるが、負けた場合には後刻中国で債務を清算させるというビジネスモデルが成立することになった。
勿論これは中国国内では違法行為になる。
歴史的にはポルトガル領マカオであった時代に閉鎖的な中国から富裕層を個人的に誘い連れてくるエージェントにフィーを渡したことから生まれた仕組みが、マカオの中国返還後にも遺制として残り、これが段階的に巨大化し、かつ犯罪組織とも連携協力するようになったのであろう。
一見単純に見えそうだが、グレーとなる違法行為を含むため仕組みは結構複雑になる。
実際のSun Cityが行ったオペレーションとは中国本土内に238人の株主・社員を持ち、彼らに高額のコミッション・配当を支払い、一種のネットワークを構築し、富裕層をあの手この手で誘客し、彼らにマカオでチップを貸し出し、後刻帰国後本土で清算するというものだ。
これに絡んで様々な違法手段により、巧妙に資金のやりとりや為替交換をしたことになる。
例えば犯罪組織と協力した貸付金の暴力的取り立て、地下銀行や仮想通貨を利用した違法為替交換と送金、賭け金を生み出す資産交換や資産処理、中国本土にいる顧客に対するオフショアオンライン賭博への勧誘と決済資金処理、名義借りによる違法送金等になる。
その後Sun Cityは中国各地に別子会社を設け、組織的な闇決済にのりだしたのだが、その下には数千人以上の中国人協力者がいたといわれている。
起訴容疑となった主な犯罪は①サイドベッテイング(side betting)と②プロクシーベッテイング(proxy betting)だ。
サイドベッテイングとはジャンケットと顧客が共謀し、表の賭け金の数倍の価値の資金を賭ける仕組みをいい、政府(税金)とコンセッション事業者から収益を横取りする詐欺行為になる。
プロクシーベッテイングとは中国にいる顧客がオンライン、スマフォ等を利用して遠隔地(利用されたのはフィリッピン)のカジノに参加させることを言い、状況次第では代理人(プロクシー)が顧客になりかわり、賭ける行為である。
これも決済はジャンケットが代行することになり、違法賭博、マネーロンダリング、違法為替決済等の犯罪になってしまう。
この目的のためにArvin Chauは2016年には複数のオンラインプラットフォームをフィリッピンに設立しているが、中国政府による汚職撲滅、富裕層によるマカオでのカジノ遊興等への締め付けが段階的に厳しくなることを予想し、東南アジアに拠点を段階的にシフトし、オンラインを利用し、中国と東南アジアとをリンクさせるオフショアゲーミングに繋げたといわれている。
中国と隣接するマカオとは異なり、遠隔地となると決済処理も複雑にならざるをえなくなる。
貿易取引を偽装した為替移転、組織犯罪勢力と連携協力し、地下銀行や仮想通貨を活用した決済がなされた模様だが、これも明確なマネーロンダリングになる。
違法賭博の対象となった取引総額はHK$8237億㌦($1050億米㌦) といわれ、2015年から2019年の間にSun Cityのアレンジでオンライン賭博により中国人に賭けさせた金額は3000億元($420億米㌦)以上になるとのことである。
尚、Arvin Chauはオーストラリアでも類似的なVIPルームを大手カジノ事業者の施設内に保持していたが、マネーロンダリング疑惑、中国系犯罪組織(14K Triad)との関係が露呈し、2019年に入国禁止となり、その後豪州からも撤退している。
またArvin Chau逮捕後、マカオの旧ジャンケットビジネスは実質的に崩壊し、2023年のマカオSAR法改正により、厳格な規制措置が定められ、単なるエージェントにすぎなくなり、マカオではジャンケットは急速に縮小化することになった。
勿論東南アジアには未だ中国系の犯罪組織が運営するオフショアオンラインカジノは現存し、これが無くなったわけではない。
オンラインを利用したオフショアカジノは、それを提供する(違法)事業者にとっても、また顧客にとっても(それが違法であるか否かを問わず)極めて都合の良いツールなのだろう。
証拠は残りにくいし、摘発も難しくなるからだ。
もっとも中国等では為替交換、為替送金等に絡んだ地下銀行の摘発等からこれに関連した企業等の情報が洩れ、摘発・逮捕に至ることが多い。
資金決済だけはリアルワールドで金が動くから足がつきやすいのだ。
(美原 融)