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2025-01-27

297.オフショアオンラインカジノ③

「中国のスパイがフィリッピンの市長になりすまし、オンラインカジノ事業に関与」というニュースが7月に世界中に流れた。
これだけでは一体何が起こっているのか全く理解できないが、「スパイ」、「なりすまし」、「オンラインカジノ」等の用語が羅列されるだけで怪しい雰囲気もたっぷりだ。
事の発端は3月に警察当局が北部ルソン島のTarlex州Bamban市にあるオフショアオンライン賭博事業者(POGO Philippine Offshore Gaming Operator)を強制労働、SNS詐欺、身代金誘拐、マネーロンダリング等の疑いで摘発・強制捜査したことにある。
この結果868人の強制的に働かされていた中国人労働者を開放、管理者逮捕、資産の没収等が行われたのだが、対象土地の一部がBamban市長であるAlice Guo(35歳女性)所有の企業であることが判明。
同市長の複数の個人口座にPOGOから多額の資金が送金されていた事実や土地取得や運営要件を満たしていないのに事業者に営業を許可したりして、不当な便宜供与をしたのではないかという疑惑が広まり、一大スキャンダルに発展したものだ。
その後、フィリッピン上院の委員会の査問を受けたり、捜査当局や移民局の捜査により、どうも彼女はフィリッピン人ではなく、中国籍で、フィリッピン人の戸籍を何らかの手法で取得、フィリッピン人になりすましているのではないかということが入国時点での彼女の指紋との照合でバレてしまった。
収賄・マネーロンダリングその他の容疑等で市長職は解任、逮捕状がだされたのだが、当人は秘密裏に出国、Interpolや東南アジア各国に身柄拘束要請がなされ、9月4日に逃亡先インドネシアで拘束、6日にフィリッピンに強制送還された。
もっとも身柄は拘束されながらも、議会の合同委員会に呼び出され公開での査問等がTVで中継され、劇場的スキャンダルは拡大するばかりとなった。

こんなことがありえるのかというのが一般の受け止め方だが、正体不明の市長ということで、これは中国政府が犯罪組織の中に潜り込ませたスパイではないのかという話が現地の新聞や報道にもでる始末だ。
5歳の時に両親と共に、フィリッピンに移住したらしいのだが、義務教育機関に在籍記録はない(本人は自分はフィリッピン人、学校にいかず自宅で勉強したと強弁している)。
外国人の場合当然行政官にはなれないし、そもそも選挙に際しての出生・履歴詐称は明らかに犯罪だ。
国籍を騙し、フィリッピン人になりすまし、選挙で市長にまで当選したというのだからあきれ驚くばかりである。
勿論全ての活動資金を出したのは中国資本POGOで、自らの運営利権を確実にさせるために金をもって市長に当選させ、これを取り込んだというシナリオなのであろう。
土地を自らの名義で取得し、POGOにリースし、あらゆる便宜を図っていたわけである。
犯罪組織に加担していたといわれても弁明できない立場にあることは間違いない。
尚、この市長は自家用機や高級外車を所有したりし、羽振りの良さには定評があった。

中央、地方を問わず、政治家が利権としての賭博免許(数字くじ、カジノ、ロッテリー、駅場等)に絡み、資金を懐に入れ政治資金とする構図は独立以来のフィリッピン政界での長年続いた悪習でもあり、今に始まったことではない。
潤沢な資金を生み出す賭博行為は政府の税収としても、政治家の活動資金としての賄賂収益としても、極めて都合のよい原資でもあった。
国民の血税ではなく、国民を遊ばせた売り上げの一部をカスミとるようなものだからで、国民の目をごまかせるからだ。
但し、中国共産党が犯罪組織を通じてスパイを送り込み、行政府の長にまで上り詰める手立てを愚弄したのではないかというのはちょっと感情的で考えすぎかもしれない。
POGO(オフショアオンライン賭博)はDuterte政権前から存在したが、POGOとして法律上の位置づけを与え、免許制とし、これを強力に推進したのは確かにDuterte大統領だ。
もっとも中国習主席はDuterte大統領に対し、POGOの取り締まりと廃止・撲滅を要請したくらいで、POGOは中国を主たる市場として国境を超える賭博行為を担うふとどきな違法事業者・犯罪組織でしかないという認識でしかないと思われる。
彼らを経由して、中国政府がスパイ行為を働く等はまずありえない可能性でしかない。
POGOの中核となった中国系の犯罪組織は、資金も潤沢、あらゆる技術を駆使した手法で市場を凌駕するのだが、Guo元市長は単純に政治的な表の顔として利用されただけなのだろう。

政府の規制機関であるPAGCORは同国の税収の三番目(所得税、関税に次ぐ)の巨大な納税貢献者なのだが、昔は大統領府の直属の機関として収益の配分等には大統領府が介在し、これが選挙資金や政治活動の財源になっていたという経緯がある。
最近になり、予算措置の透明化が図られ、昔の様な実態はなくなった模様だが、政権の周辺等にはこの利権にたかろうとする勢力が生まれてしまうのは昔も今も同じかもしれない。
もっとも上記POGO事案に絡み、Duterte政権時の政府広報官がPOGOに便宜を図るべく支援・介在したのではないかということがスキャンダル化し、議会の合同委員会で査問の対象となりきな臭い動きが生じた(9月中旬時点)。
一方地方政府の実態は昔と何ら変わらない模様だ。
地域毎に閥が生まれ政争にあけくれ、このために政治利権が違法な資金源と結びつくという構図である。
ここに犯罪組織が関与してしまう隙を与えてしまうのであろう。
大統領は9月5日大統領令74号に著名し、POGOは制度的に全面廃止、既存事業者も免許を剥奪し、退出を迫られることになった。
但し、一部は地下に潜ったり、他の東南アジア・大洋州諸国へ退避した模様で、この混乱は当面継続しそうである。

(美原 融)

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