2025-01-20
296.オフショアオンラインカジノ②
外国人専用カジノとは自国に施設はあるが、内国人は入れず、その国を訪問する外国人のみを参加させるカジノ施設のことで韓国にある事例が名高い。
発想は似ているのだが、オフショアオンラインカジノとは、自国にサーバーを設置させるが、その国の国民を顧客とせず、サイバー世界で他国にいる外国人の顧客のみを対象とするネット上のカジノ施設になる。
このいずれも自国民には一切タッチさせず、訪問する外国人を対面で遊ばせたり、外国にいる外国人をオンラインで遊ばせたりする仕組みでもある。
自国民が顧客でない以上、国内での摩擦も反対も生じにくいし、外貨を稼ぎ、外国にサービスを売っている輸出産業のようなものだ。
よって制度的な枠組みは本質的に厳格ではないことが多い。
国民が顧客として一切参加せず、国民に危害が及ぶ可能性が無い以上、制度を厳格にする必要もないといえる。
このオフショアオンラインカジノの代表的な事例とは、中南米やカリブ海の一部の軽課税国で散見される事象で、税やフィーを引く設定し、自国に会社とサーバーを設置させ、免許を付与することで企業を誘致するという一種の産業政策になる。
会社を設置するといっても、金さえあれば弁護士が全て処理してくれるペーパーカンパニーでしかない。
弁護士事務所に名目的な看板があるだけで、何処に企業があるのか、サーバー等本当にあるのかなど全く解らない場合も多い。
企業を誘致し、フィーや税を徴収する国からしてみれば合理的な仕組みなのだが、サイバー空間で多言語によりあらゆる国にカジノのサービスを提供することはカジノ賭博を禁止している国からとってみればとんでもない話になる。
国境を越えて外国事業者により自国民が餌食にされていることになり、事業者が海外にいる場合、犯罪を構成できず、摘発もできない。
自国民も賭博行為に参加すれば刑罰の対象になるとはいえ、効果的な摘発や法の執行方法があるわけでもない。
賭博行為が違法なら、海外賭博事業者への決済も違法になる。
もっとも電子ウオレットや決済代行業者、仮想通貨等様々なごまかしやすい決済手段は存在し、個人がこれを自由に使える環境にある場合、摘発される可能性も限りなく少ない。
この問題が肥大化し、国境を超える違法賭博が大きな国際間の問題になった国がある。
中華人民共和国だ。
中国ではあらゆる賭博行為は原則禁止である。
但しスポーツ振興や国民福祉増進のための税収確保を目的としたロッテリーのみは歴史的経緯により認められてきたという経緯がある(一国二制度のマカオSARは例外的存在だ)。
もっとも中国人は昔も今も庶民は賭博が好きで、合法であろうが違法であろうが、賭博に対する庶民の人気は高い。
かかる環境下でインターネットを通じ、東南アジアを拠点とし、中国の庶民に賭博行為を提供するサイトがサイバー世界に数多く乱立した。
勿論その主体は中国資本で、中国国内で賭博規制が厳格になり始めたため、組織的に制度の緩い東南アジアに拠点を移したものだ。
全て中国語で、広告・勧誘から始まり、案内や違法支払い誘導、顧客サービス等も全て中国人が中国語で外国からSNSで対応する。
中国でも庶民が自宅のコンピューターや携帯を通じ、ネットに自由にアクセスできる時代である。
決済はまともな銀行決済等できぬため、全て人的コネクションを使ったマネーロンダリング、電子マネーや仮想通貨を用い、地下銀行、暗号資産等を巧妙に絡ませたマネーロンダリング手法等を用い、巨額の資金が中国大陸から遺漏することになった。
当たり前の話だが、国境を越えて提供されるオンライン賭博は明確な違法行為として、2016年以降、中国政府は国内関係者の摘発・逮捕を強化すると共に、東南アジア各国(フィリッピン、カンボジア、ラオス等)に対し、外交ルートを通じ、中国市場をターゲットとする違法オンライン事業者の摘発と根絶を要請し始めた。
問題は中国系反社会勢力がこれら施設運営に関与し、違法賭博どころか、SNS詐欺、投資詐欺、身代金誘拐、麻薬、マネーロンダリング等あらゆる不法行為の温床になってきたことにある。
カンボジア政府は中国政府に同調、オンライン賭博を禁止すると共に、中国政府の支援の下、大規模オンライン事業者の摘発、逮捕、中国人強制送還の手段をとった。
一方フィリッピンDuterte政権は中国政府要請を拒否、この結果Duterte政権下で海外向けオンライン賭博事業者(POGO, Philippine Overseas Gaming Operatorと呼称する)がフィリッピンで免許を得ることで雨後の竹の子の様に増え、中国人とフィリッピン人との軋轢が社会問題にまで悪化するようになる(最盛期には300社以上ものPOGOが存在)。
この方針が転換されたのはMarcos Jr大統領になってからだ。
Marcos Jr大統領は2024年8月にPOGOを廃止、年末迄に事業を終了させ、関連業務に従事している外国人のビザ有効期間を停止すること等を公表、一挙に違法行為に関与していたPOGOの強制捜査、摘発へと舵を切ることになる。
もっともかなりの事業者は地下に隠れ、当局の目を逃れて未だにフィリッピン内で活動しているという。
カンボジアも類似的な状況だ。
更には、中国系犯罪組織はミャンマー、ラオス等の軍部や政権トップとのコネに基づき、場所を変え、サイバー空間での違法行為を提供していることも現実になる。
この様にサイバー空間を通じ外国にいる外国人をターゲットにするオフショアオンラインカジノは、対象となる市場の国民を抱える国々の反発を食らうことは必須のビジネスでもあり、合理的、合法的なビジネスとは言えない側面がある。
これは我が国において日本語で堂々とオンラインビジネスを提供している外国企業とて同様だ。
先進諸外国では法律を変え、サイトの強制閉鎖や違法賭博関連決済の禁止措置等を実施しつつある。
自国民を守るため、国毎に防御策を設け、違法オンライン事業者を締め出すという試みになるのだが、我が国では未だルーズな制度の中で違法事業者が跋扈しているのが現実の様だ。
(美原 融)