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2025-01-13

295.オフショアオンラインカジノ①

インターネットが市場で一般的に利用されるようになったのは1990年代からなのだが、既に1995年には賭博関連ソフトウエアや暗号化された通信プロトコール等が開発され、オンラインによる賭博の提供とこれに伴う安全な決済手法が確立されている。
1996年にはカリブ海の小国(アンテイグアバルブーダ)が低課税、低費用、簡素な規制により民間事業者にオンライン賭博免許を付与し始めた頃がオフショアオンラインカジノの嚆矢になる。
その後、蘭領キュラソー、パナマ、コスタリカ、英領マン島、英領ジブラルタル、カナダオンタリオ州カナワケ部族、フィリッピン等が制度を設けこの分野に参入している。
これらの国々の過半では国内市場は小さく、あくまでもその国外の海外(オフショア)を対象としオンラインで賭博を提供するという仕組みになる。
オンラインカジノそのものは欧州諸国を初め様々な国で(部分的な側面もあるが)制度として認知され始めてきている。
但し、先進国の過半はあくまでも、自国の領域内において自国民に対するオンライン賭博の提供を認めるという閉鎖的、制限的な考えに基づくものが殆どである。
一方英国、マルタ、豪州は先進国の中では例外的に自国の免許をもって、自国外の海外(オフショア)に向けてサービスを提供することを認めている(この様に国内ではなく、国外の市場を対象としてサービスを提供する事業形態を総称してオフショアオンラインカジノという)。

常識的にはオンライン賭博に関わる免許を民間事業者が取得する場合には、厳格な廉潔性審査を経ざるを得ず、免許料やGGR課税等を支払う義務もあり、その手順の複雑さ・厳格さと費用の高さは、この業に入る参入障壁となることが通例でもあった。
ところがカリブ海の小国や欧州諸国の自治権をもつ海外領土等は安価な費用と低い税率、緩い規制を武器にオンライン賭博事業者を産業として誘致する施策をとり、免許料と規制費用・安価な課税等を税として徴収することを始めた。
例え小国でも一国が提供する免許により法的合法性を付与させ、オンラインを通じて、自国以外のすべての国の顧客を対象とするネットビジネスができるようにしたわけである。
この場合の免許事業者とは名目的に当該国に存在するが、多くの場合、ペーパーカンパニーであって、実態は無く、当該国の弁護士事務所に名札が羅列されている企業の一つになる。
サーバーも当該国に必置する必要がない場合もあり、こうなると全く実態がわからない、税金を納めるだけの企業ともいえるかもしれない。
一部の国ではマスターライセンス制度を設け、免許を付与した民間事業者が自らの判断でサブライセンスを供与できる仕組みを導入した。
こうなると廉潔性審査も無く、誰が免許事業者なのかもわからず、実質的に規制等無い状態に等しくなる。
単純に金を支払えば誰でも免許を取得てきるという考えに近いわけで、新規事業への参入を狙うスタートアップと共に、反社会勢力の資金も惹きつけてしまうことになる。
この様にサイバー世界におけるオンライン賭博の実態はまともな国でまともな免許を取得し運営を担う事業者と曖昧な制度と甘い規制の下で正当なビジネスを担っているか懸念のある事業者が混在している。

複数国市場に跨るオンライン賭博は投資費用も人件費も節約でき、安価な費用で巨大な市場を多言語で24時間・365日に亘り、対象にすることができる。
この意味ではビジネスとしては合理的、理想的なのだが、対象となる市場でオンライン賭博が禁止となっている場合には、状況次第で当該国内において政治的・社会的問題を生じるリスクがある。
サイバー空間では、日本を含め一国の制度としてオンライン賭博を禁止している国も多く、これら国民をも顧客に対象にすることは いとも簡単にできる。
当該市場の顧客からすれば自国の言葉でオンラインで賭博サービスが提供されれば、どこから提供されているかには関心をもたず、他国で正式な免許を取得しているといわれれば、一見合法性のある事業者の様に思えてしまう。
賭け金・勝金の処理もサイトに個人勘定を設定させ、クレジットカードや電子マネーで一定金額を預託し、この勘定を通じて指定される代行業者経由決済すれば、いとも簡単に処理が可能で、通常のオンラインサイトからの物品やサービスの購入と変わらない。
一方、賭博行為が禁止されている国の場合には、賭け金や勝金の決済行為も本来できないはずで、これを担う送金代行業者がマネーロンダリング的な行為に関与したりすれば、明らかな犯罪となる。
また一国の国民の富が税も支払わず、規制も無い国の主体の収益として遺漏することは、政治的にも問題になりかねない。
かかる行為に関連し、賭博依存症等の社会問題が生じても、これら事業者にとっては我関せずということになってしまうのであろう。
そこそこの事業規模で穏便にグレーな市場で活動する分には大きな問題にはならないかもしれない。
但し、状況次第では、これら事象を起因とし、問題が沸騰点に達してしまい政治的社会的暴発が生じることがある。
米国における2011年のFBIによるネット賭博事業者経営者の逮捕・検挙、2021年中国政府・マカオSAR警察当局による主要ジャンケット事業者経営者の逮捕・検挙、2024年フィリッピンにおける司法省・警察当局によるオフショアゲーミング事業(POGO)の摘発・検挙と制度的廃止等である。

このようなオンラインによるサービス提供のビジネスモデルの特徴は供給サイドと需要サイドが地理的・物理的に分断され、かかる特殊な環境の中でサービスを提供したり、受けたりしていることにある。
通常ではありえないことがサイバー世界では可能になる。
かつ、供給サイドと需要サイドの間に国境がある場合、これら両方を単一国家が規制や管理の対象とすることはできないのだ。
この場合、どこかに矛盾が生じることになる。
この矛盾を裁定しようとして、ここに不正や組織悪が介在してしまうリスクが生まれることになる。

(美原 融)

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