2024-12-09
290.秋元元議員IR収賄事件関連米国事情
11月18日米国発の情報として米国司法省はIRに絡み秋元司元議員に賄賂を渡したとされる旧500.com(現在はBid Mining Ltd)CEO潘正明被告を起訴、これがブーメランとして日本の議員に再度跳ね返る等マスコミ、SNSがこぞって騒ぐ報道をしている。
詳細を調べもせず、司法省発表を表面的になぞっただけという杜撰な報道の典型だ。
総数200ページ以上の書類で日本には無い仕組みのために理解できず、憶測で記事を書いたのだろう。
実際の起訴状(Inditement, 正式な犯罪の告発、この段階では推定無罪)は本年の6月18日に提出されたものでかなり前の話だ。
11月18日に合意し、公表されたのは起訴猶予契約書(Deferred Prosecution Agreement、この場合のProsecutionとは有罪か否かを判断し、量刑を定める手続き)になる。
これは被告が罪を認め、検察当局と合意した条件を一定期間遵守すれば、当局は刑事訴追を見送るという日本にはない措置になる。
この被告の罪状は4つで二つが海外腐敗行為防止法(FCPA)違反に関わる謀議とその実践、残り二つが虚偽の帳簿記録とサーバンスオックスレー法に基づく証明書不実記載(実質的な賄賂を管理費用、アドバイザー起用費用と合法的な名目に偽装、第三者経由外国に送金)になる。
500.comはケイマン諸島の企業、主活動は香港で、被告自身も中国人だが、米国証券市場で上場し、債券を発行しているためFCPAや証券関連諸法の適用対象になるというわけである。
罰金は1000万㌦となったが当面現金がないということで契約後30日以内に600万㌦を支払い、残額は契約期間(3年)内に完済すること、コンプライアンス等の企業改革を実践し、追加調査への全面協力、当局並びにSECに対する定期報告等が義務として課されることになる。
違反行為や虚偽の報告があった場合には、起訴猶予は直ちに破棄されるが、3年間きちんと行動していれば刑事訴追は免れる。
勿論公判等はありえない。
公開された起訴事実を見ると、全てのメール、メッセージ、書類、情報等を提出したこと、日本の捜査当局とも連携し、情報を共有していること、日本語の証拠も全て英訳して保持していることは明らかで、秋元元議員とその政策秘書に対する詳細な便宜や金銭等の供与詳細を知ることができる(一部不明だが今後の捜査次第で日本にインパクトのある更なる情報がでる等のマスコミ説明はでたらめで、これ以上の事実はでてきようがない)。
米国で捜査の対象になったのは日本政府関係者2名(日本政府高官としているが文脈より日本でも逮捕された秋元元議員とその政策秘書であることは明らかだ)、日本在住の中国人コンサルタント兼通訳1名、その他日本人の個人コンサルタント2名の5名になる。
捜査対象となった期間は秋元元議員が内閣府の副大臣になる直前の2016年から2018年頃。
不適切なビジネス遂行上の便宜を得たいという狙いから、2017年8月沖縄での講演に際し、講演料として200万円、9月には総額2650万円を秋元議員、その政策秘書、並びにその他の国会議員等(氏名不公表捜査対象外)に対し現金供与を企図し、IR関連調査報告書作成依託業務として中国人コンサルの在シンガポール所有会社を経由し、日本人コンサルへ送金(実際の報告書は作成されず)、2017年12月にはコンサルを同道せしめ、秋元元議員・政策秘書をプライベ-トジェットでマカオに招待し、チップ供与、宿泊料負担、高額土産物供与、食事接待、性接待等3200万円相当額の負担、2018年2月には秋元元議員家族と政策秘書を北海道スキーツアーへの招待旅行(103万円相当額)等と共に当該コンサルタントにコンサルタント料5561万円+経費831万円(内一部は賄賂として使用)等が500.comから支払われた模様である。
日本で賄賂とされた金額を大幅に上回るのは、何をもって、どの範囲迄賄賂と認定するかは国によって判断基準が異なるからだ。
プライベートジェット等は高いが本来のビジネスのついでに席が開いているから乗せただけとか、コンサルタント料等もどこまでが合理的なフィーなのか等に関しては議論が分かれてしまう。
ここまで証拠をそろえられてしまえば、まず逃げることはできなくなる。
但し、企業犯罪や企業による詐欺等の場合には、状況次第では交渉により、今回の様に条件付で起訴猶予になる事例は米国では極めて多い。
長期に亘り、法廷闘争を続ける等意味がないからだ。
それにしてもこの事案が起こったのはIR推進法が国会で可決する頃から政府内部で実施法の詳細検討が固まる頃だ。
推進法の成立経緯や内容を正確に理解していれば、地域選定や事業者選定に関し、国会議員に何らかの金銭供与や便宜供与のアプローチをした所で、殆ど効果がないことを理解できそうなものだ。
恐らくこれは日本の状況に疎く、途上国並みにトップ政治家が決めるに違いないと思い込む外人投資家とそれにまとわりつくいかがわしいコンサルタントの発想なのだろう。
IR推進法・実施法の仕組みは国会議員が圧力をかけられる程単純ではない。
内閣府副大臣とはいえ、実務の世界での職務権限等ない。
被告と日本人コンサルのチャットの内容が起訴状に記載されているが、どうも国会議員への金銭供与は効果が薄いのではないかという被告の質問に対し、だからこそ袖の下が効きやすい、沖縄や北海道を攻めればいい等という笑えないコンサルタントとの対話が記載されている。
事実彼らのターゲットは全てこれら自治体絡みになる。
日本も舐められたものだというよりも、こういう人達を絶対関与させない仕組みが必要であることを再認識すべきだろう。
もっとも政治家に至っては、特段IRに関し、事業者から何らかの要請を受けたという意識はないのかもしれない。
意識はないが、金銭は受け取る、饗応接待は受ける、物品供与も断らないという旧体質の政治家が未だいることが日本の悲劇なのかもしれない。
尚IR事業者の幹部はプライベートジェットで移動することが多く、席が空いているから一緒に乗っていかないかと政治家を招待旅行として誘うことは現実には儘ある。
昔は野党の先生でもかかる誘いにのっていたのだが、勿論これは整備法ができる前の話ではある。
秋元被告とその政策秘書は2024年3月22日の高裁2審でも懲役4年の実刑判決となり、最高裁に上告中である。
但し、既に堀は埋められている。
政治家たるもの、安易な饗応には手をだすべきではないのだ。
(美原 融)