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2022-01-17

140.IR:本邦企業の投資行動 ⑤SPCのガバナンス?

IRへの参画に意欲を示している日本企業の話を聞くと、意欲は解かるが、一体何をしようとしているのか解らなくなることがある。
彼らの弁はこうだ。
カジノの管理運営・経営は解からないし、直接カジノの経営には関与したくない。
但し、その他の開発も全体取り纏めも全てできる。
外資系企業と組むとしても、複数の日本企業がコンソーシアムを組成し、総体としてマジョリテイ―をとり、あくまでも日本企業群がリーダシップを発揮したいという。
勿論、ヒト、モノ、カネ、情報を結集すれば日本企業でも当然これは可能だろう。
日本企業グループで全体の過半数の株式シェア(50%以上)を取るということは、負債資本比率にもよるが、巨額の資本金拠出が必要になる。
これだけでは終わらず、スポンサーの財政的支援も要求されるため、出資企業にとり巨額の資金拠出、リスク・エキスポ―ジャーになることは間違いない。
出資金はThin Capitalとして極力小さくし、できる限り負債で調達すればIRはできると単純に考えている節も感じるのだが、これは無理だろう。
恐らくリスクのある事業を経験したことが無いことからくる発想に違いない。
実績の無い国で、初めての業である場合、金融機関にとってもリスクは大きく、スポンサーによる応分の出資参画とリスク負担が金融機関から求められるため相当の覚悟がないと出資はできにくい。
数十社以上の地元企業を結集し、少額の資金を寄せ集めても、ガバナンス力は無く、意思決定に参加できない少数株主の集団でしかなくなる。
群としての寄せ集めに力は生まれない。
この場合には、相対的に最大の出資者である海外カジノ事業者に内部的なガバナンスを取られるのが関の山だろう。
IRにおいてはこの目的のために設立されるSPCは設立時点から商法上の大企業でもあり、SPC自体がリスクの担い手、事業を積極的に推進する実態のある企業として構想されるはずで、SPCが小資本で名目的な導管体となることは絶対ありえない。
堅固なガバナンスと財政力を持つ主体が支えない限り、恐らくかかる事業はうまく機能しない。

事業の参加を考慮する企業の立場からこれを見てみよう。
例えば請負工事会社によるIR事業参画の目的は当然巨額の契約金額となる建設請負工事の受注であり、SPCとの請負工事契約を通じで収益を得ることにある。
施設の維持管理会社や警備会社、あるいはMICE関連や、宿泊、エンターテイメントコンテンツ等を提供する企業等にとってもやはりSPCとの何等かの役務提供契約により企業としてのビジネスチャンスを確保するということになる。
即ちSPCをコアの事業体として把握しながら、SPCを核にSPCとの契約により様々な企業が各々の役割・業務を担い、これら業務の中でビジネスメリットを取るという構図である。
これら企業が、SPCへ出資参画するという目的とは、この実現を容易くするためと共に、もし事業性のよい事業であるならば、出資参画をすることにより、事業配当のメリットをも追加的に囲い込むということであろうか。

では上記の場合、IRのカジノ部分は誰が、どう関与し、運営がなされるのか。
請負建設工事と同様に、カジノ業を専門とする外資やカジノ企業がSPCへの出資に参画し、上記の請負工事契約の様に、運営行為を委託の対象ないしは、何等かのサービス行為の提供としてとらえ、ビジネスメリットを取るという構図になるのであろうか。
諸外国にもかかる類似的なスキームは存在し、必ずしも突飛な考え方ではない。
一方IR整備法上の基本は、免許事業者となるSPCからカジノ行為を切り出し、SPCへ出資した親会社である外資ないしはカジノ運営企業にその運営を契約委託することを禁じている。
カジノ行為に関する限り、請負工事やその他の役務等とは状況がかなり異なることになる。
IRとは、単一事業者たる選定事業者(SPC)が施設を整備・所有・運営・経営を一体としてなすことが前提になり、かつ区域整備計画を実践する主体もカジノ免許を申請し、これを取得できる主体も選定事業者となるSPC以外にはない。

よって、選定事業者であるSPCが運営組織体となり、管理職も含めた職員を雇用し、教育し、SPC自らが運営行為を担うことになる。
どうこれを組織化し、運営するかは出資企業群が構想する内部規律とガバナンスの在り方次第になる。
大株主となるカジノ事業者が主要のポストを出向者で抑えることもありうるし、ヘッドハントにより内外から専門家を雇うこともありうる。
海外カジノ事業者がこの仕組みを利用し、例えばSPCからローヤリテイ―やマネージメント・フィー等の形で、税前でさやを抜くということは理論的にはありうる。
但し、商業的には正当な行為であっても、カジノ管理委員会がかかる行為を認可するか否かは別の問題になる(認めない可能性が高い)。
かつかかる形で大株主がさやをぬくことは、配当を期待する他の株主にとっては不利益になるため、内部的なガバナンスの問題も浮上する。
通常は内部規律としてかかる親子会社間の取引は他の少数株主の了解取得が前提になる。
これはSPCから請負工事を受注する請負工事会社がSPCの株主である場合でも類似的な問題を引き起こす。
SPCないしはその他の株主から見れば請負工事費は安ければ安いほど資本費用が減少し、リターンが増えることになり、好ましいわけで、請負工事会社とは利害相反の関係になってしまうからである。
この場合には、請負工事契約の条件を決める交渉において、株主としての請負工事会社の権限を制限し、情報隔離をした上で(Conflict Out)SPCと建設会社が交渉して価格や条件を決めることが通例である。
例え株主だからといって、言い値でSPCが発注できるほど世の中は甘くはない。

SPCのガバナンスをどう構築するかは、株主の構成、株主比率と主要株主の意思、制度的要件によっても大きく変わることを上記は示唆している。
かつ組織部門やスタッフのポストをどういう布陣でどのように構成するか次第でも大きく異なってくる。

(美原 融)

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