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2021-12-27

138.IR:本邦企業の投資行動 ③Conflict of Interest

本邦企業は外国資本と連携協力し、JVにより事業を担う場合、Majority の株式をとり、事業の主導権を取ることには経験的にあまり慣れていない。
過去、外資との連携とは常に、外国技術や製品の我が国への導入、あるいは外資の経験・ノウハウ・技術等をベースとしたビジネスモデルや外資主導出資案件への少額投資等が多く、本邦企業はMinorityの出資に留め、過半の出資は外資が担い、外資主導の下に、事業に参画し、事業からメリットを享受するという構図が殆どでもあった。
我が国企業が特段劣後していたわけではないのだが、経験の無い新しい事業を新しい国で実践する場合には、少額出資に留め、当該事業の経験・知見のある外資と連携・協力することが参入障壁を少なくし、事業リスクをも軽減するとみなされてきたからでもある。
最初から外資と対等に株式シェアをとりあい、事業を遂行することは日本企業にとってはかなり重荷になる。
言語、組織、文化、意思決定の在り方、慣行等の違いから、コミュニケーションを取りづらいという側面もあるからだろう(勿論、全ての企業がこうであるわけではなく、海外展開になれたメーカー、商社、金融関連企業等では本邦企業が外資と対等な関係でJVを構成している事例も多い)。

かかる外資との連携の場合で、複数の本邦企業がMinorityで関与する際には、往々にして何のために事業に参画するのかの考え方が外国企業と日本企業間とでは異なることがある。
日本のJVとはその構成員が当該事業から何らかの既存のビジネスメリットを得ることを前提としている。
例えば建設会社の興味は請負工事受注で競争の無い随意契約として、より良い条件で工事契約を締結することにある。
この場合、フロー(工事契約)で儲けを狙うわけであって、投資行為はあくまでもそれを実現する為のツールにすぎず、事業投資の狙いや配当等は二の次になってしまう。
維持管理会社や一部コンテンツやサービスを得意とする企業等も同様であろう。
特定の事業者が本業として担う事業を実践するために自らMajority Stakeをとって投資事業を担うことは解かりやすいが、これに付随する機能(設計、建設工事、施設維持管理、多様な外延的サービス機能等)から、ビジネスメリットを得るために少額で出資行為にも参加するという考え方を持つ日本企業は多い。
これは付き合い投資というよりも、何らかのビジネスを受注するための一つのツールとして位置付けていることになる。
この場合、事業リスクや事業の採算性、投資に伴うリターン・配当等に関しては、鈍感である企業が多い。
かつ、株主間で生じかねないコンフリクト(利害相反)についてもあまり気にしない。
少額出資であり、本来のビジネスとは異なる分野である以上、損しなければいい、そこそこ儲ければ問題ないというスタンスに近い。

特にIR事業の場合、コアとなるカジノ企業の運営に習熟していたり、自らがそれを本業としたりする日本企業はいないため、勢い、これを本業とする外資企業がMajorityをとり、この外資企業との合掌連携・一部出資行為が、提携・連携のベースになることになる。
尚、Majority Stakeを取る外資カジノ事業者が、SPCとの業務委託契約に基づき、SPCからカジノ部分のみを切り出し、そのビジネスメリットをSPCの外で享受する考えは、IR整備法では認められていない。
カジノ部分の収益のSPCからの遺漏は厳格に管理の対象となるため、Majorityを取る外資系事業者は配当を主としたSPCからの利益享受か何等かの制度的に許容可能となる親子間取引(例えばSPCに対する親会社劣後融資、職員派遣契約等による報酬等)によりビジネスメリットを取ることになる。

Minorityで出資し、この仕組みに参加する本邦企業にとり、SPCとの関係は微妙なものになる。
出資行為はSPCに対し、何等かのサービスを独占的に提供する仕組みを可能にするツールではあるが、Minorityで出資する会社にとり、随意契約で、言い値で、仕事を取れるわけではない。
日本企業同士の協力連携である場合には、お互いが信頼ベースから仕事を始めるため、軋轢が生じることはあまりない。
一方、外資がパートナーである場合には、考え方も仕事のやり方も大きく異なるため、様々な問題が生じうる。
一定のサービスの購入を競争にさらすことなく言い値で契約することになれば、競争的な市場対価を反映せず、初期投資費用が増えてしまうことを意味する。
Majority Stakeを取る外資にとっては、それだけリターンが減少するわけである。
一定の規律で投資費用を管理しなければ、事業としての規律や適切なリターンを得られなくなってしまうわけだ。
カジノは通常の産業と比し、利潤幅は大きいはずで、余裕があるため、硬いことは言わないのではないかという見解は妄想でしかない。
かつ一部の出資者のみ、特定の契約にこの甘さを認めれば、他の契約にも飛び火し、全体初期投資費用はどんどん上がってしまうことになりかねない。
この様にMinorityで出資し、何等かの役務提供等によりビジネスメリットをとろうとする日本企業とSPC並びにMajority Stakeをとる外資企業との間には、利害相反(Conflict of interest)の関係があることになる。
勿論もし、この役務提供会社が外資と対等のMajority Stakeを取り、大きな出資拠出を前提とし、その配当収益期待がサービス提供の対価報酬より大きい場合には、SPCの利益が優先されるはずで、利害相反は起こりにくい。
逆にMinority Stakeとなると、確実に利害相反は起こる。
この場合の解決策は、契約条件を合理的に納得のいく形で、(Minority出資者たるサービス提供企業をSPCの意思決定メカニズムから排除し)SPC+Majority StakeholderとMinority Stakeを取る日本側サービス提供企業との交渉で取引の条件を決めるしかない。
随意契約となるため、相見積もりはとらないだろうが、条件は交渉の対象となり、甘くはない。
結果、アームズレングスで競争的な価格レベルで落ち着くということになる。
IRは事業性の良い事業、その一部分に参加することでぼろ儲けができそうと考えるのは甘すぎる。
かつMinorityの立場にある場合は、Conflict of Interestを如何にうまく乗り越えられるかの知恵と技量も必要となる。

(美原 融)

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