2022-03-21
149.IR:日本企業の投資行動 ⑭代表企業と協力企業
複雑な所掌で巨額の投融資を必要とするIRの様な開発案件の場合、デベロッパーとしてリーダーシップを取る企業が様々な企業の協力を得て、全体を取り纏めていくという手順を踏む。
一社の能力・経験でIRの全ての業務を単独で提供することは無理だからである。
特定の分野を専門とする企業と連携・協力し、業務やリスクを分担することがより合理的な選択肢になる。
問題はIRに期待されている機能の多様性と複雑さだ。
中核施設を構成する様々な機能毎に協力できる企業と連携するにしても、かなりの数になり、何を何処まで、どの段階でどう詰めるかは結構複雑な作業になってしまう。
通常全体の事業計画・施設計画(設計・建設)に関しては先行して概念が纏められ、設計に関しては、関連する協力企業も早い段階で協力関係が確定する。
大きな枠組みの中で法令の要件や公募上の要件を満たしつつ、ある程度の事業計画を頭に描き、施設の概要を考えなければ前へ進めないからだ。
全体を構想しつつ、詳細を固めていくプロセスはかなりの作業量になる。
公募に向けての準備段階にある場合、協力・連携しあう企業群を固める構想を練ることになるのだが、都道府県等の公募により投資事業者を選定するIR案件等の場合には、PFI事業と同様に、応札する参加者に一定の資格要件を要求する。
応札に参加する複数の企業は構成員と呼称され、中核となるデベロッパーが代表企業だ。
代表企業と構成員は事業を担うSPCへの出資者と想定され、都道府県等による資格審査の対象になる。
かつその安易な変更は認められず、構成員の追加・変更等は都道府県等の届け出・許可の対象とすることが通例である。
出資行為を担う主体には事業を支える義務が期待されているからだろう。
一方これとは別に協力企業という概念もあり、これは事業の一部に関する業務の委託又は請負等を担わせるために応札企業が選定し、提案書類に記載された者をいう。
因みに協力企業の追加・変更も同様に都道府県等による届け出・許可の対象になる。
公募の対象となる提案の枠組みでできる限り、協力企業を特定化し、詳細を詰めた方が提案の熟度は高くなる。
都道府県等はこれを期待したのであろう。
もっとも協力事業者は後刻追加することも可能となっているため、提案段階でどこまで内容を詰めるかは各提案事業者の判断になる。
これは求められる提案の質と評価の在り方、競合状態を各提案事業者がどう考えるかによっても変わってくる。
IRの提案公募(RFP)で現実に生じた事象は、設計・建設等の構成企業・協力企業は略確定しているが、様々な中核施設の運営や維持管理等をどのような協力企業と如何なる協働の体制を取るかに関しては詳細を決めず、事業者選定後に詳細を決めれば良いとしたデベロッパーが過半の様だ。
勿論これにはコロナ禍に伴う業務の停滞・遅延、準備手順等の背景があったと共に、公募要綱の意図と離れて、提案者は詳細な事業提案ではなく、大枠としての概念提案に近い提案しか提出しなかったという事情もある。
時間があり、競争環境があれば提案の内容をより深く詰めることになったのだろうが、ほぼ全ての事業者は詳細化し、確定した事業提案を出したとは想定できない。
事業者として選定後に、区域整備計画案を詰める段階で、協力企業候補との関係を固めればいいという方針がとられたことになる。
即ち何を何処まで応札段階で詰めるべきかが曖昧なままに、応札と事業者選定がなされ、詳細は後刻検討すればよいということになったのであろう。
もっとも提案した事業者も、候補として検討した様々な協力企業も、提案の中に企業の名前を協力企業として記載するか否かに関してはかなり逡巡し、その可否を冷静に検討した企業も多い。
都道府県等から見れば一端協力企業として名前を提案された場合、当然コミットがあると思われるし、表には現れないがExclusiveな関係と断定されてしまう。
当該協力事業も、名前を入れれば、その他の競合している事業者への売り込みはできず、選定されるかされないか不明な儘にExclusiveな関係を保持せざるを得なくなるからである。
当該企業が選定されない場合、競争相手に後刻売り込みをかけるというのは難しくなってしまう。
これがために、競争中立的な立場をとり、一般的な協力をしながらも、社名を協力企業として開示することを躊躇する企業もあった模様である。
応募企業が都道府県等に選ばれる競争と共に、その後国により認定を受けられるか否か解らないという二つの競争が存在したために、協力しうる参加企業も慎重になったという側面もあるのかもしれない。
協力企業にしてみれば、慌てずともビジネスチャンスはまだあると判断したのだろう。
尚、選定事業者と潜在的協力企業との間で如何なる関係を構築しようとしているのかは興味ある所だ。
これは単純な委託ないしは請負のみになるとは限らない。
単純委託の場合等はエージェントにすぎず、リスクは選定事業者に残る。
エージェントではなく実質的なプリンシパルとして(出資はしないが)当該業務の需要リスクや収益リスクをとり、選定事業者は単に施設のリースをするだけの関係もありうる。
この場合、関係は複雑化するが、選定事業者から見ればより合理的なリスクの移転になる協力関係になる。
競争的市場でサービスの提供者の代替が効く場合ならば、複雑な協力関係は不要になるが、中身の濃い、魅力あるサービスとなるかは分からない。
よって、選定事業者と協力企業が如何なる所掌とリスクをどう分担するかを見ないとダメで、表面的な委託関係や企業の大きさのみでは、その関係性を評価することができない。
もっとも本来多様なリスク分担や協業の在り方が議論され、多様な協力企業が多様な形でIRに参画することが望まれるのだが、現状を見てみると、どうやらこれらは区域整備計画認定後の議論になるのかもしれない。
(美原 融)