2020-12-04
47.賭博勝ち分に対する所得課税 ①
競馬で万馬券が当たった場合、当然現金で額面通り支払われる。
通常の人は、当然これは僥倖、天から降ってきたお小遣いということで、税金の対象になるはずがないと思うし、例え課税の対象になっても無視して、支払わないということになるのだろう。
もしこれが1000万円以上の高額の勝ちだとすると、昔は、現金持ち運びは危ないからと競馬場の警備係が家まで送ってくれたものだ。
税法上は、かかる個人にとっての収益は一時所得とされ、給与や金利所得、配当所得等と合算し、確定申告の上、課税の対象になる。
法律の建前はこうなっているのだが、例えいくらもうけようとも、儲け事は儲け事、既に沢山あたらぬ馬券も買ったのだから、だんまりして税金等払わなくてもいい、しらばっくれてしまえばわかりゃしないと思ってしまうのが普通の日本人の心情の様だ。
少額の勝ちの場合には、源泉徴収があるわけでもないし、本人確認もへったくれもない。
かつ賭け事のあたりが第三者にばれるわけでもない。
粛々と当たり券を現金化し、懐に入れるだけの話でしかないということになる。
競馬の大勝ちが何回でたか、総額いくらになったかは、当然公表されるから把握できるのだが、これに対し、確定申告をして、きちんと納税している人があまりにも少ないという事実が存在する。
これでは、国税庁が面白くないと思うのは当然であろう。
事は会計検査院の報告や、国会における審議の対象になってしまい、競馬等の公営競技に係る大勝ちに対し、何等かの手段を構築し、納税を促すことが政府としての大きな課題になってしまったというのが現状である。
国民にとり全く解かり難いのは、宝くじは億単位のあたりがあるのだが、例えこの億単位のあたりをせしめても制度上は全く税金がかからない。
当初の(公的主体が売り上げから差っ引く)控除率が50%と極めて高く、既にこの枠組みで所得税は支払われているとみなしているという制度的解釈になる。
宝くじの一枚の単価は100円、この半分を当初から税金として納めても、まんがいつ当たれば巨額の収益になる。
僥倖で巨額の収益を懐に入れるという意味では全く同じなのだが、課税されないわけである。
課税の対象にする、しないの判断基準は必ずしも明確ではなく、市民視線からすると、殆ど同じ事象なのに一部は課税、一部は非課税という解かり難いことになる。
最近は競馬での大勝ち(1000万円以上)の場合には、本人確認を要求され、税務調書を取られることになった。
当然のことながら、居住している場所の所轄税務署に送付するためであり、大当たりした人は一時所得として、確定申告の上、納税せざるを得なくなる、あるいは確定申告をしなければ、後刻追徴課税ということになりかねない(今のところ、税務調書をとられるのは競馬だけだが、他の賭博種に広げるか否かは今後の課題となっている)。
上述のように、現行税法上は、賭博の勝ち金は、原則一時所得、個人の責任で確定申告の上、納税ということになる。
勿論少額の勝ちで、確定申告をする御仁等いるわけがないのだが、制度は制度ということになる。
この基本は、新しく設けられるカジノ賭博においても、原則踏襲されることになると想定されるのだが、賭博の在り方も異なり、顧客の勝ち分を捕捉しにくい遊びであることより、どうあるべきかに関しては極めて曖昧でもあり、これが利害関係者にとり、様々な問題を引き起こしつつある。
では諸外国では、賭博の勝ち分に関し個人所得税は課されるのであろうか?いわゆる通常のリクリエ―ショナル・ギャンブリング(Recreational Gambling)、即ち遊びとしての賭博行為とは単純に僥倖に金銭を賭ける遊びでもあり、勝ちもあれば負けもある。
また、毎日するわけでもない遊びでしかない。
賭博行為の勝ちは僥倖がもたらす不安定な収入であるとして、安定的、定期的な収入である給与、金利・配当、不動産所得等とは異なり、例外的措置として個人所得税の対象にしないことを基本とする国が殆どである。
欧州諸国の過半(英国、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、スエーデン、オーストリー)並びに欧州の法制度や慣行を継承したオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、シンガポールも同様である。
勿論この基本的なスタンスを取りながら、政治的理由により、例外的に一部を課税対象にしたり税とは言えない納付金を課したりする国も存在する(フランスおよびスペイン)。
上記過半の国とは異なる考え方を取る国が米国と日本になりそうだ。
これら両国は、賭博行為から顧客が得る勝ち分は全て個人による所得の一部と見なし、課税対象とすることを基本としている。
勿論、日本と米国では、詳細の課税に関する考え方は大きくことなり、同一ではありえない。
米国では例外や非課税項目も多く、居住者と非居住者の課税上の差異等もあり、かなり複雑な仕組みとなっている。
米国ではカードゲームでも一定のかなり高い勝ち金の場合には所得課税対象(もっとも実際に聞いてみると殆どありえないのだが)になるし、ジャックポット等のスロットの大勝ちは源泉徴収の対象になる。
一方、非居住者(外国人)の場合には、これも例外措置としてカードゲームの課税は免除されている。
これは実務的に複雑になり、対応できないからと想定されている。
では日本の場合はどうなるのであろうか。
新たな業を作るに等しい制度構築の場合、課税関係をどう処理するかという実務的な問題が生じることが多いことが日本の実態である。
IR整備法の中で規定すればよかったではないかという意見があるが、一般法たる租税関連諸法をIR整備法の枠組みで変えること等できない。
、如何なる行為が如何なる形で課税の対象になるのか、あるいはならないかは、今のところ必ずしも明確ではなく、議論がなされている最中である。
(美原 融)