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2020-12-18

51.顧客勝ち分に関する所得課税③

はずれ馬券経費訴訟判決とは、競馬の払戻金に対する所得税額を算定する際、当たり馬券のみならず外れ馬券の購入費をも経費として算入できるか否かが争われた税務訴訟でこれを認めた2015年の最高裁判決である。
インターネットで大量に購入した馬券の払戻金を申告せず所得税を脱税したとして所得税法違反罪に問われた元会社員の上告審判決で、最高裁第3小法廷は男性の購入手法を営利目的の継続的行為として雑所得にあたるとし、外れ馬券の購入費を所得から控除できる必要経費と例外的に認定するという判断を示した。
申告すべき課税額を大幅に減額、1、2審判決を支持、検察側の上告を棄却した判決になる。

極めててややこしいのだが、問題の本質は、関連する賭博収益は税法上の一時所得(娯楽による臨時的・偶発的な収入)なのか、雑所得(仕事として取り組んでいる収入、損益通算が可能)なのかということに尽きる。
インターネットや予想ソフトを利用して継続的に大量購入し、勝ちも負けも大量にでる手法は一時所得の範疇に入らず、継続的な営利行為に近い。
最高裁判決は、「営利を目的とする継続的行為から生じた雑所得に当たるか否かは、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間、その他の状況等を総合考慮して判断するのが相当」とし、「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの事実関係の下では、払戻金は雑所得に当たる」とした。
その後2017年にも類似的な最高裁判決がなされている。
これらにみられる最高裁の判断基準とは、
(1) 競馬の払戻金は原則として一時所得、所得課税の対象となる。

(2) 但し、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間、その他の状況等を総合考慮し、営利を目的とする継続的行為から生じたものと認められる場合には、雑所得に当たり、損益通算が可能ということになる。
もっとも、どの程度の期間や回数、頻度、金額となれば雑所得になるのかは、ケースバイケースというのだから曖昧である。
ポイントは、裁判所が、一般的な競馬愛好家が楽しむ偶然性の高い娯楽である競馬の払戻金は雑所得ではなく、一時所得に分類されるという基本原則を崩していないという点にある。

では諸外国ではどうなのかとなると、課税所得の概念が大きく異なるため、単純には比較できないのだが、殆どの先進国においては、継続的、反復的にカジノ賭博行為を担い、賭博行為を業として担うプロ賭博師の場合には、損益通算することを前提に、その勝ち分所得に対しては個人所得税の対象にするという国が過半である。
その意味では、上記最高裁判決に近い考え方が諸外国でも実践されていることになる。
異なるのはそれ以外のリクリエ―ショナル・ギャンブラー(通常の賭博愛好家)が取得しうる賭博行為の勝ち分は、所得税の対象外としていることだ。
賭博行為とは、勝ちもあれば負けもあり、偶然の結果として勝ちがある以上、勝ちは不安定な収入、負けもあるだろうが、この負け分を所得税の損益通算の対象とすることは認めない代わりに、勝ち分は不安定な収入として、給与、賃料、地代等の安定的な収入とは異なるというスタンスをとっていることになる。
一般の人は非課税、プロとして業としてやる場合は所得課税の対象となり、プロたる事の判断基準も明確に法令により記載されていることも多く、わが国の様に曖昧ということはない。
日本のように給与所得者は源泉徴収されず、毎年各自が税務申告する国では、損益通算の対象になるか、ならないかは申告上極めて重要な要素になるため、上記はロジックとしては極めて解かりやすい。

我が国のように賭博収益は原則全て一時所得として申告課税の対象という前提をとると、ネットを使った新しいビジネスライクな賭けを恒常的にする個人が出てきた場合、程度にもよるがこれは雑所得といえるのか、一時所得なのかという議論は今後とも起こりそうだ。
国税庁は最高裁判決に基づき所轄税務署に本件取り扱いに関する通達をだしてはいるが、所詮ケースバイケース、必ずしも明確な判断基準を提示しているわけではない。
もっともより現実的には、全て一時所得、申告課税の対象としたところで、少額の勝ちで確定申告をする者等この日本にはいない。
基礎控除を考えると50万円以内なら非課税だ(国税庁はこの旨のチラシ迄作っている)。
そこそこの大勝ちをしても、現実には国税局や所轄税務署が察知することはできるはずもない。
そうなると、納税義務があるにも関わらず、確定申告をせず、まず納税等しない。
それでは税負担の公平性にもとるということから、勝ち分を取得した段階で源泉徴収、あるいは税務調書を取るという議論が主税局によりカジノ税制議論でなされた背景であろう。
頭ではわかるが、一定額以上の勝ち分という形で線引きをしない限り、実務としては膨大複雑な処理になり、不可能に近い。
では全てカジノ賭博勝ち分は(宝くじやサッカーくじのように)非課税とすべきとする意見もあったのだが、宝くじの場合は、払戻率を下げ、総売上から得る国の取り分を増やすことが非課税の前提となっており、カジノでこれを同等に考えるということは租収益納付率を50%に上げることを意味する。
これではみもふたもなく。
事業者にも顧客にも忌避されることになりかねない。

カジノにおける顧客勝ち分に対する課税は、他の公営賭博と平仄を合わせることが基本だろう。
但し、庶民の少額の勝ち分等課税の対象にすべきではない。
一定レベルの高額勝ち分に対しては、一時所得の対象とさせ、申告納税させるということだが、2020年税制大綱は支払い調書の提出は求めず、国税通則法に基づく情報照会手続き(令和2年1月1日施行)を活用し、自主的な適性申告の確保を図るとある。
これはカジノ事業者に対する照会になり、協力要請だが、個人情報の利用及び提供制限の対象外になる。
勿論照会できる情報は限られ、なんでもありではない。
では課税当局は何を、どうしようとしているのであろうか、実務的な詳細は不明で今後ともこの議論は続きそうである。

(美原 融)

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