2025-01-06
294.違法オンライン賭博② 摘発・検挙の趨勢
オンライン賭博は違法と政府は懸命に国民に対し、近づかないように、やらないようにという国民の行動を抑止する広報をしきりにしているのだが、これは違法行為であっても単純に摘発できないし、そもそも立件自体が難しいという事情があるからだ。
捜査・摘発するよりも、そもそもこれは違法行為・犯罪、見つかれば逮捕も・・と匂わせた方が抑止効果は高くなり、違法行為も減るという算段なのだろう。
胴元は海外におり、サイバー世界でオンライン賭博を提供しているため、摘発等できるわけがない。
参加する国民はどのような手口で金銭を賭けているのか特定できず、証拠も集められないため確かに摘発のハードルは高い。
違法行為はごまんとあるのだろうが、誰からも協力は得られない。
こうなると捜査自体できにくいし、例え捜査・逮捕し、自供をとった所で、証拠も無く公判が維持できないと検察が判断すれば不起訴になる可能性も高い。
警察当局も常時国民の行動を監視しているわけではなく、何らかの端緒情報があり、これをもとに捜査をしていく過程で、賭博行為に関わる証拠を掴み、逮捕・立件に至るという事案が殆どのようである。
参加する顧客は常習賭博罪容疑で検挙するのだが、書類送検という軽い量刑でしかないのが過半だ。
これでは立件価値はないと判断され、警察当局の優先度も低くならざるを得ない。
検挙件数が少ないのも無理はない。
ところが2023年以降、段階的にオンライン賭博関連の検挙件数は増えており、新聞記事で取り上げられる事案も増えつつある。
これは警察当局が不特定多数の賭博参加顧客だけではなく、これら顧客や海外オンライン事業者の行為を直接的、間接的に教唆・幇助したり、支援したりする法人・個人をも積極的に摘発するという方針に転換したことによる。
2023年以降オンライン賭博の運営や賭け金の入出金に関わる主体の通報が匿名通報制度に追加されると共に、インターネットを監視し、疑わしい活動や違法コンテンツを特定する民間団体・NPO等が警察当局に協力するサイバーパトロール等も一部機能し始めているという事情もある。
犯罪に係わる情報提供ソースが増えているわけだ。
かつ面白いことにネット社会の様々なツールやオンラインの性格が捜査を容易くするツールや証拠を把握しやすい状況を生み出しているという側面がある。
例えばオンラインでの賭博行為を動画投稿サイトであるYou Tubeで録画し、自慢げにこれを配信するYou Tuberが表れたが、犯罪行為の証拠を自分でネットにばらまいていることになる。
直ちに本人が特定され、常習賭博容疑で検挙・逮捕されている(2023年千葉県警、2024年茨木県警)。
アフィリエートとはオンライン賭博の広告や勧誘をオンライン事業者との契約に基づきSNS等を利用して行う主体だが、やはりYou Tubeを通じこれを一般に広く行ったために本人が特定され、常習賭博幇助容疑で逮捕された(2024年埼玉県警)。
海外にサーバーを置き、一見海外からのオンライン提供という体裁をとり、本邦事業者はカストマーサービスや決済支援実態のみと公言していた事業者は実際の管理運営はこの企業が日本で賭博行為を提供していると見做され、常習賭博罪、常習賭博幇助罪で摘発・逮捕されている(2016年京都府警、2023年警視庁・愛知・福岡県警)。
別の事業者では賭博開帳図利幇助罪が適用された(2024年京都府警)。
決済代行事業者も海外オンライン事業者と契約し、明らかにその入出金行為を幇助し、決済の重要部を担っていると判断されれば、賭博開帳図利罪幇助罪となり、検挙される事例もでてきている(2024年京都府警・沖縄県警等6府県警)。
収納代行事業者がコンビニATMと決済プロバイダーの間に入り、賭け金の収納代行をした事案では、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で逮捕された。
違法な犯罪収益をマネーロンダリングし、海外オンラインサイト事業者に仮想通貨等で纏めて送金したという嫌疑になる(2024年大阪府警)。
電子マネーや仮想通貨での取引がオンライン賭博に使用されるようになると更にややこしい事情が生まれつつある。
本人確認無しで、勘定を取得し、購入できる電子マネーが存在する(ペイペイマネーライト)。
未成年でも当然購入できるのだが、この電子マネーをオンラインカジノで使える仮想通貨、ライトコインに何と20%のコミッションを取り交換する事業者が表れてきた。
未成年にカジノで遊べる仮想通貨を電子マネーと交換していることになり、とんでもない事業者になる。
彼らはプリマ運営会社等に実態のない架空の電子決済取引を装い、自らが競り落として現金化したりしてマネーロンダリングに絡んでいたこともあり、電子計算機使用詐欺罪、賭博幇助罪、組織犯罪処罰法違反等で検挙・逮捕されている(2024年兵庫・群馬県警)。
一端、かかる悪徳事業者が逮捕されると、押収された電子データより、賭博参加者を証拠と共に特定できることになる。
2023年以降、賭博参加者たる一般顧客が単純賭博罪容疑で検挙・逮捕される事案が結構でてきたのは、電子データ履歴から本人特定されたからに他ならない。
その他最近最も興味深いのは、決済が仮想通貨でなされる事例が増えてきたことにある。
ブロックチェーンを活用する仮想通貨はその購入履歴が電子的に記録されることが特徴になる。
ところが最近捜査当局は仮想通貨の取引をトレースできるソフトを導入し、仮想通貨を用い、海外オンライン賭博に参加する顧客を特定し、単純賭博容疑で摘発、逮捕する事例が生じてきた(警視庁)。
一挙に全国で100人以上を特定できたというのはこのツールのおかげである(面白いことに顧客は全国にちらばっているため、都道府県警察毎に数人ずつあちこちで逮捕し始めた。
証拠が明白である以上、時間をかけても逮捕するということだろう)。
利用したオンラインサイトは結構誰もが知っている大手(違法)海外オンライン賭博サイトだ。
こうなると顧客のオンライン賭博への参加リスクはかなり高くなることは間違いない。
チャットやブログ等SNSも仮想通貨の利用も本人は意識していなくとも、後刻電子データ履歴からトレースされ、違法行為として摘発・逮捕されかねないからである。
但し、摘発は残念乍ら氷山の一角でしかないままである。
(美原 融)