2025-11-03
336.ゲームと賭博⑤:Free to Play(F2P)Loot Box①
ルートボックス(Loot Box)とは「戦利品を入れておく箱」といった意味なのだが、コンピューターゲームの世界では主にゲームで取得する宝箱や戦利品(キャラクターや武具等のアイテム)を納めた箱のことを意味する。
より狭義の定義になると中身が偶然により決められる仮想アイテムを得るために開封する仮想の箱または入れ物のことでもある。
顧客はゲームに勝つとこの箱を開けるための鍵を取得できる。
但し、中に何が入っているかはランダムに設定されるため、顧客はこれを予め知ることはできない。
この箱の中身はプレイヤーが使うキャラクターや、キャラクターの着せ替え衣装や装身具、感情を表すエモート、さらにはゲームに強くなれる武器や防具などの装備まで多岐に亘る。
これらの鍵はゲームによってはゲームの報償として得られる(金銭としての価値はない)ゲーム内通貨でも買える。
あるいは別途クレジットカード等により金銭で購入することもできる。
ゲームは無料でもこの時点で課金システムになるわけだ。
ゲーム内のマネーやアイテムをゲームの外で現実の金銭で取引することになり、これをRMT(Real Money Trade)と呼称する。
この仕組みの基本は日本ではガチャと呼ばれている。
ネットを使うソーシャルゲームでランダムに仮想アイテムを入手する仕組みの一つになる。
ガチャが日本でも人気を博したのはレアなアイテムを取得すると特別な報酬をもらえたり、確実にゲームに優位に立てたりするゲームであることだ。
強くなれば更にゲームをアップグレードさせて、更に強くなれるレアなアイテムを取得できるという仕組みもある。
日本では特にコンプリート・ガチャと呼ばれたゲームが爆発的な人気を呼び、若年層の依存や過剰消費が社会問題にまで発展してしまった。
これは特定のキャラやアイテムをセットとしてそろえること(これを「コンプリートする」という)により、更にレアなキャラやアイテムを取得できるという仕組みで、より過剰な消費を誘引する仕掛けになってしまう。
強くなりたいというのはゲームの世界では誰もが欲する大きな誘引だ。
簡単に揃えそうに思えるが確率的にはそう単純ではない仕組みが前提になる。
何回もトライして集めようとする衝動が生じ、結果的にはまってしまい、多額の資金を費消してしまう、あるいは依存症の症状を呈してしまうということになる。
我が国ではガチャの人気が高まるにつれ、様々な懸念や問題点が指摘されるようになってしまった。
レアなキャラやアイテムを同じサイトで現金で購入できたり、別サイト(二次市場)で売買の対象になったりする場合、これは刑法で禁止されている賭博行為にあたるのではないかとか、キャラやアイテムは例えゲームへの参加が無料でも顧客を誘引し、競争させるための手段であり、一種の景品であって、景品表示法に抵触するのではないかという議論が生じてきたのは当然といえば当然といえる。
社会的な議論の高まりにより、2012年4月には大手企業からなる業界団体であるプラットフォーム運営協議会は自主規制をすることとなり、青少年利用者の利用の制限、利用限度金額の設定、ゲーム内のアイテムやキャラの売買等を仮想通貨やクレジットカード決済で行うことの禁止等を取り決め。
コンプリートガチャガイドラインを策定した。
一方、消費者保護のための主務官庁である消費者庁は2012年5月にコンプリート・ガチャは景品表示法違反の疑いありとして同年7月から運用基準を制定し、規制することを表明。
消費者庁は結果的に景品表示法告示第5項にある「二以上の組み合わせを提示する方法を用い懸賞とする景品類の提供」に相当するとし、景品表示法の規制対象にあたるという判断を示した。
消費者を誤解させ、射幸心を煽る等して、消費者の自主的合理的な選択を阻害するという理屈なのであろう。
但し、この判断基準は必ずしも明確とは言えない側面もある。
ガチャそのものの遊び方がどんどん進化しており、様々な態様がでてきたからだ。
こうなると個別のゲーム毎に適法か否かをチェックせざるを得なくなってくる。
コンプリート・ガチャは違法とされたが、ガチャそのものは規制の対象ではない。
禁止もされておらず、今でもゲームの世界には様々な形式、態様、遊び方のガチャが存在する。
尚国家公安委員会は当時コンプガチャに刑罰法令に該当するような実態は確認されないという解釈を示した(平成24年5月8日国家公安委員長記者会見)。
要は賭博行為には相当しないと考えたことになる。
制度や規制ではなく、業界の自主規制に委ねることで解決できればそれでよいとする伝統的な行政府の考えがその裏にあるのだろう。
但し、これは当時の考え方だ。
この問題は賭博行為とは何かという根源的な問題にもつながるのだが、議論は進んでいない。
我が国の通例の法解釈や判例では賭博とは、2 人以上の者が、偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為とされている。
「偶然性」、「財産上の利益」、「相互得喪性」が犯罪の要件ということだ。
一方ガチャは財物の得喪を争うという相互行動の関係にはないという観点から賭博ではないとする議論がある。
他方ゲーム上の仮想のアイテムは財物や財産上の利益といえるのか、コンプガチャは利益の得喪を争っていることになるのかを疑問視する議論もある。
またオンラインのデータは情報に過ぎず、財物性が無いこと、レアなアイテムは金銭的価値があるとは判断されないのではないかとする議論もある。
確かにこれら議論がでてきた当時(2012年)はゲーム上の仮想アイテムに財物性や金銭的価値を見出すことは難しいという状況にあったのかもしれない。
但し、技術の発展は、仮想アイテムに固有性、資産性、金銭的価値をもたらすものに変化している。
相互得喪性という考えも昔の相対する賭博行為をイメージした考えで、今や様々な手法で間接的に類似行為ができる。
もはや同じ解釈が通用する時代ではないのだが、十分な議論が尽くされているようにも思えない。
ネットの世界を律する十分な法律はまだないのだから、表面的に法解釈を形式的にとらえるよりも、より実態論に即して仕組みや規制を考えるべきではないかと思える。
(美原 融)