2024-07-29
271.賭博依存症① 賭博依存症は犯罪の免罪符ではない
会社の金を使いこんだり、人の金を盗んだりする窃盗の類の犯罪は過去も現在も常に存在する。
警察に逮捕され、罪状を認め、調書を作成する段階になると、盗んだ金の使途?を説明せざるを得なくなる。
ところが、殆どの事例で現実に何に現金を使ったのかを正確に被疑者が覚えていることも少なく、これをトレースすること等は更に難しい。
そこで、安易な消費の形態として、遊興に使ったとか、全額パチンコに使ったとか、公営賭博の賭けに使った等として調書に纏めることが多い。
盗んだ本人が盗んだ金を何にどう使ってしまったのか正確に覚えていない事例も多いだろうし、既に現金が残っておらず全てを消費してしまったことが明らかならば、取り調べる立場としても使途を詳細に調査したところで時間の無駄になる。
調書を取る方も取られる方も何とか間便な記述でこれをごまかしたいという衝動が生じても当たり前に思える。
結果、「全額パチンコや賭博、その他遊興に消費しました」という調書ができあがる。
「賭博に消費」となると、社会的にはしょうがないなということになるが、裁判においても、特段証拠も求められず、問題視されるわけでもない。
いくら使ったかは正確に記憶していないが、全て賭博や遊興に使ってしまい何も残っていないという説明になる。
金銭感覚の無い消費、意味のない金銭消費、使途を明らかにしない金銭消費としては、賭博やパチンコというのは金銭を用いた時間消費でもあるため、極めて説明しやすい理屈であることも間違いない。
ところがこれがそのまま新聞等にも掲載されることになるゆえ、何と窃盗犯等の過半は賭博常習者になってしまう。
ここから、彼らは実は賭博依存症患者?であって、賭博依存症という病気が犯罪をトリガーしたに違いないという理屈すらでてきてしまう。
でも彼らは真の賭博依存症患者なのであろうか。
勿論一部は事実であろうが、賭博やパチンコにのめりこんだとうのは表面的な理屈でどう考えても賭博依存症患者には見えない犯罪者も多い。
賭博依存症等を考える市民グループの資料では、かかる犯罪者は全て賭博依存症患者という統計部類に入ってしまう模様だ。
ところがこの考えが行き過ぎると、犯罪に至ったのは賭博依存症が本当の理由に違いないとし、犯罪者は悪くはない、悪いのは賭博依存症という病気であると、主客逆転した理論すらでてきてしまうのが日本の実態だ。
こうなると賭博依存症は犯罪を糊塗する免罪符になりかねない。
本体断罪すべきは窃盗等の犯罪であって、賭博依存症ではない。
賭博依存症だからという理由で犯罪行為の責任を逃れることはできない。
会社の金を使いこんだり他人や家族の金を盗んで使ってしまったりする行為の背景に様々な事情はありうるだろうし、賭博依存症をトリガーとして犯罪に至るのは現実にどの位存在するのかという実証的な統計は存在しない。
一つの要素であるのかもしれないが、少なくとも全てではあるまい。
サラ金等による重債務者の救済が世の中の議論となっていた時代の自治体による実態統計調査があるが、サラ金等の重債務で破産に至った個人の主たる理由は、当初はおそらく賭博依存症に違いないと考えられていたのだが、統計を取ってみると意外にも賭博ではなく、複雑な個人の事情等が絡み合ったことが主要な理由でしかなかったという結果でもあった。
検討の過程でバイアスが入ってしまった好事例でもある。
具体の犯罪の調書やこれをもとにした新聞報道は必ずしも正確とは言えない側面があることは事実だ。
もっとも、マスコミもこれを意図的に過剰に扱い、問題を自ら大きくしているという側面もある。
社会的不安を単純に煽ることはマスコミ的には記事になるのだ。
先般のMBL大谷選手の元通訳水原氏の事案でも、我が国のマスコミは、水原元通訳は重度の賭博依存症、450万㌦もの大金を損として抱えた以上、数年に亘りとてつもないスポーツ賭博へののめり込みがあったに違いないという前提で議論を組み立て、賭博は悪、スポーツ賭博等極めて危険、賭博行為自体が病理としての依存症を生むという議論へと展開させた。
あたかも彼は必ずしも悪くはなく、賭博依存症の被害者ではないかという何と水原氏に同情的な書きぶりになっていた記事もあったくらいだ。
本来悪人ともいえぬ善人が賭博のために地獄に引きずられていったという構図なのだろう。
賭博依存症という精神疾患のリスクを主張し、このリスクの周知徹底を図り、これを防いだり、危害の縮小化を志向したりすることは重要だ。
但し、依存症のみで水原元通訳の行動全てを説明してしまうことには無理がある。
元手無しで、一定額の与信をもらえれば、ある程度この枠内で遊べる。
負けもあれば勝ちもあるだろうし、損が貯まるとこれを挽回するために与信額を増やしてもらい、更に大きな金額の賭けをすることになる。
気がつくと借金が返済できない程の金額となってしまい、この段階で初めて大谷選手の口座にアクセスし、借金返済に充てる違法行為に手を染めたということだろう。
当面ばれそうにもないと思うと更に大胆になる。
かってな使い込みを埋め合わせるために更に与信増額をしてもらい、大金を賭けることを続けたわけだ。
水原元通訳は最初から大谷選手の金を使い、賭博で遊んでいたというほどの悪人ではないはずだ。
どこかの時点で借金返済を迫られ、アクセスできる資金が目の前にあったため手をつけてしまったということではないかと想定する。
スポーツブックとは事業者のサイトで自分の勘定を設けまず、一定額をそこに払い込み、この枠内で、少しずつ賭けて楽しむことが通例の健全な賭け行為だ。
自分が支払う余裕がある範囲でしか遊べないわけで、自ら制約がある。
甘言にのせられ、借金で無制限に賭け続けられる違法な仕組みに最初からのってしまったことが水原元通訳の問題でもあったといえる。
尚水原元通訳の罪状は連邦法上の銀行詐欺であって、違法賭博行為への関与ではない。
大谷選手は民事で水原元通訳を訴えることはしそうもないので、所詮これは私人二人の問題となり、窃盗・詐欺の詳細な実態や背景が今後開示される可能性は低い。
(美原 融)