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2024-09-23

279.賭博依存症⑨ デジタル化時代の依存症対策(1)

物理的な施設で厳格な規制の対象となる賭博行為が行われるカジノの場合、問題がある顧客(依存症患者、自己排除申告者、暴力団等反社勢力等)の入場は当該顧客の顔写真を含む個人情報があれば確実に入口で入場を阻止することができる。
未成年者も本人確認手続きがある以上入場することはありえない。
物理的に賭博行為へのアクセスを遮断できれば、過度なのめりこみ性向を持つ顧客の参加を抑止し、依存症等の防止に繋がることは間違い無い。
一方、公営競技等は、入場規制等は存在せず、場内では自動券売機で投票券を購入するのだが、誰でも自由に買える。
勿論係員が常に場内を見回っているため、未成年らしい場合、係員からチェックを受けることになるが詳細な本人確認手順は義務ではない。
遊技に至っては、業界自主規範はあるのだが、何らの規制も無く、実質的には誰もが自由にアクセスできる施設となっている。
この様に我が国の賭博、賭博類似行為は、規制のレベルが全くバラバラで、潜在的依存症患者の特定やカウンセリング、医療機関への誘導等は名目的にはやっている様に説明されているが、実態面ではあまり機能していない。
効果的な仕組みを導入するにはあまりにも整合性が無く、かつ制度も規制の在り方もバラバラだからだ。
一方、カジノの場合には法的義務があるため、確実に履行される期待があるが、これとて実現できるのはまだ先のことでしかない。
賭博依存症を呈する主体は賭博ないしは賭博類似行為をたしなむ顧客の内、一定率存在することは間違いない。
潜在的リスクのある顧客も少なくないだろう。
但し既存の枠組みの中でこれら主体を特定し、適切な対応やサービスを供与できる十分な仕組みは残念乍ら我が国には存在しない。
一方、デジタル技術やオンライン、スマフォ端末等の賭博分野への導入はこの状況を更に複雑化することになってしまった。
オンラインの環境下では、事業者が年齢確認や不適切者の排除等により自らアクセスを管理したり、何らかの規制により規律を要求したりしない限り、誰もが無制限にいつでも、何処からでも賭博行為へアクセスできるからだ。

オンライン・モバイル環境では、カジノでなされている規制以上に、未成年の参加禁止や賭博依存症対応施策をより慎重に制度上の設計をし、実践することが必要になる。
物理的な対面賭博施設とは異なり、オンラインを前提とする賭博行為の場合には、オンラインの特性を理解し、これを管理のツールとすることが賭博依存症対策としても効果的だ。
この特徴とは、顧客による前払いが遊興の前提となるため、顧客の本人確認の上、顧客に個人勘定を作らせ、顧客がこの個人勘定に一定金額を預託し、この枠の中から支出し、遊び、勝ち金もこの勘定になされることが共通的な枠組みとなることにある。
この決済のために、決済に関する個人情報や本人確認を求められることになり、全ての取引は個人にリンクし、ひも付きになる。
更に、全ての取引は電子的に記録することが可能になり、かつ過去の賭け金行動も基本的にトレースが可能であることという特徴もある。
これらは下記を意味する。

  • ①→賭博に参加する顧客の個人情報はデータとして管理できるとともに、賭博行為にこの個人情報をデジタル的にロックインすることができる。
  • ②→全ての顧客の賭博行為の過去、現在、将来の正確な行動履歴、賭け金行動履歴をデジタルデータとして一元的に把握できる。
  • ③→これら特性を違法行為防止や依存症症状の抑止等適切な管理や監視に活用することができる。
  • ④→ビッグデータを(複数施設間、国全体で)一元的に把握し、これをAIにより分析し、その結果を関係者間で共有し、活用できる。

これら特徴をうまく活用できれば、効果的な本人確認や未成年排除ができると共に、例えば特定化された潜在的な依存症患者をも効果的に特定し、排除できる。
かつ不適切者の情報を複数の事業者に跨り統一的に管理することも技術的にはいとも簡単にできる。
個人を特定せず、賭け行為の頻度や時間、回数、賭け金額、損失・獲得額等を捕捉し、AIやシステムが分析することにより、尋常ではない危ない領域に入りつつある顧客を事前に特定し、適切な注意・勧告をすることもできる。
顧客に対し、一定期間毎に顧客の賭け金行動のサマリー等を電子データで送付することで、顧客に自らの行動を反省し、抑止に繋げることもできる。
勿論事業者がかかる行動をとりうることにつき、予め勘定開設時に顧客の同意を取得しておく必要はある。
この様に、オンラインという新たな技術手段が賭博行為に用いられているという事実は、賭博依存症への対応にも新たなかつ効果的な技術手段を用いることができることを示唆している(オランダでは、排除対象主体を国のレジスターへ登録する義務があり、これを社会保障番号と紐づけ、規制機関が全ての情報を事業者と共有している。
かつ国民番号制度を用い、参加者の厳格な年齢確認を実施し、全ての取引データを国のデータ管理センターに登録させ、これを国の規制機関がモニターできる仕組みを設けている)。

もっとも問題もある。
合法的なデジタル賭博分野はおそらく完璧な廉潔性を維持したり、顧客の過度の依存行為を効果的に抑止したりできるだろうが、一方サイバー世界に存在する違法オンラインカジノはかかる規制や規律の及ばない世界にいることだ。
この結果、まともな世界とおかしな世界に市場が分断されてしまう可能性がある。
よって、デジタル技術をモニタリングに活用したり、依存症潜在者を特定したり、違法行為を摘発することに活用する場合は、違法オンライン賭博を根絶する政策を同時平行的にしない限り、効果も薄くなってしまう。
もっとも、オンライン賭博は認められておらず、かといって厳格な法の執行がなされていない環境の場合には、市場全体で何もしていないことと同じになる。
この場合、その悪影響は更に深刻になってしまうリスクもある。

(美原 融)

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