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2024-08-19

274.賭博依存症④ 水原元通訳の精神状況を考える

現役時代商社にいて様々な通訳業務をこなしてきた。
英語―日本語、フランス語―日本語、フランス語-英語等。
分野は契約交渉から、技術交渉、接待等何でもありだ。
通訳とは単なるビジネスのツールに過ぎないのだが、その人の経験、能力、立場等によっては通訳という業務のポジションは大きく変わってきてしまう。
これは長年やったものでないと解らないかもしれない。
通訳とは所詮脇役でしかすぎず、決して主体ではないのだ。
表にでるときは常に一歩退き、脇役に徹するのが常道で、TVやマスコミ等に晒されるときはTVに映らないように主役の横に控えているのが通訳の仕事でもある。
ところが実際のビジネスの現場では通訳をやってみると、これが解らなくなってしまう状況も起こりうる。
例えば筆者の経験なのだが数か月も技術的な契約交渉を毎日のように朝から晩まで通訳をしていると、技術的な内容から始まり、相手が何を考えているか、次はどういう対応にでてくるのか、どう対応すれば即反論できるのか、これは真面目な議論なのか、あるいはブラッフなのかというのが話の雰囲気やその状況で解ってしまうようになる。
こういう状況になると本来の通訳のあるべき姿を越えて、相手の発言を通訳せずに、その場で自分の判断で反論してしまうようなことも起こりうる。
要はふざけるな、これはこうだろうとその場で通訳もせずに相手に反論してしまうわけだ。
これが逆に相手にとっては瞬発的なリアクションになり、こいつは解っていると認識させ、これで相手の反論を封じ込めたことがある。
本来通訳すべき相手は一体何が起こっているのか目を丸くするのだが、相手が非を認め、主張を引き下げたことがわかると何も言わずに納得してくれたことがあった。
但し、これは通訳のやるべき仕事では決してない。
数十年に亘りあらゆるビジネス通訳をしてきたが、全く面白いものじゃない。
主体ではなく、常に脇役であることがその本来の目的でもあるからだ。

大谷選手と水原元通訳の過去のあらゆる映像を見ていて、上記の自分の経験を思い出したのは、これはいくらなんでも出しゃばりすぎの通訳だなと思ったことだ。
あらゆる会見、あらゆるイベントで常に隣の位置にすわり、主役(大谷選手)以上の露出度になっている。
日本語での通訳等相手には解らないため、相手にとっても一瞬通訳が大谷選手と同一視してみてしまうことにもなる。
こうなると言っていないことを拡大解釈して通訳したり、大谷選手の発言も正確に訳さずはしょってしまったりすることもある。
事実実際の会見を見ればこれは一目瞭然だ。
大谷の通訳ということで四六時中メデイアに露出していれば、自分が大谷と同等の人物のように思えてきてしまう。
だからこそ一歩も退かず、常に大谷の横にいて自分を意図的に露出させるわけだ。
こうなると回りもそういう関係を意識して水原元通訳とつきあうことになる。
訪米後日常生活のあらゆる面倒を含めて彼が全てをとりしきっていたのだろう。
また通訳に際しメモをとらないのは、真剣なビジネス通訳でも技術通訳でもなく、正確さを要求されない一般的な日常的会話が主体からなのだ。
メモをとらないと長い発言の通訳は正確にはできない。
それにしても選手専属の通訳とは贅沢な話なのだが、常に一緒にいて生活を助け、発言を助けるというのが仕事だろうから、内容的には高給の割には暇な仕事のはずだ。
よってストレスも貯まれば暇な時間もかなりあるということになるのかもしれない。
賭博は精神的なストレスの発散のはけ口になる。
これら暇な時間を活用し、賭博にはまっていったというのが現実なのかもしれない。

こういう通訳の仕事は人によっては24時間対応するため、大谷選手と自分を同一視してしまう精神状態が生まれかねない。
大谷選手の活躍に自分も貢献したという自負が生まれてきても当然だろう。
大谷選手の給与の一部は自分の貢献分もあると思っていたかもしれない。
賭博行為の借金が膨れ上がり、返済に四苦八苦してきた段階で、目の前に自分がアクセスできる他人の金がある場合、少し位一時的に借りて、後刻戻せばわかりゃしないという最初の出来心が全ての発端ではないのだろうか。
賭博をするためというよりも目の前の借金の返済をこれで処理し、また新たに胴元から与信をもらい賭けを続けたのではないか。
これは本人の了解もないままにかってに借金の肩代わりを大谷選手にさせたに等しい。
こうなるとこれを隠すためには更に大金を賭けて、勝ち、これで回すよりほかに方法がなくなってくる。
どこかで勝てるはずと過去の経験から思い込んでいたのかもしれない。
「賭博」をしたいから大谷の金を盗んだのではなく、この借金の泥沼から抜け出そうとして賭博の深みにはまり、更に大谷選手の金を使いこむ羽目になり、にっちもさっちもいかなくなってしまったのだろう。
これがばれたのは前年に胴元の違法ブッキーがマネーロンダリング疑惑で連邦政府の捜査対象となり、家宅捜索の結果として違法賭博データを取得、この中に大谷の銀行口座と想定される氏名からの送金があり、慎重な捜査を開始したところ、メデイアにかぎつけられ、自白せざるを得なくなったというものだ。
もしこれが無ければ、賭博行為は継続していたのかも知れない。
最初は試行錯誤の上、何とか大谷選手の金を盗んでしまうという慎重なスタンスであったことが検察官の宣誓供述書にみてとれるが、うまく事が回り、これがばれないと思い込んだ時、巨額の金をほぼ毎週のように返済にあてるため送金するという行為になってしまっている。
胴元による脅し、脅迫、そそのかし等により資金を送り続けたわけで、違法ブッキーにしてみればよいカモということだったのだろう。
何がトリガーでこのような事態になったのかは本人が口を閉ざしている以上、知る余地はない。
但し、複雑な精神の葛藤があったに違い無い。
賭博依存という言葉のみではこの事案を理解できないのではないだろうか。

(美原 融)

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