2024-12-23
292.賭博依存症㉑ オンライン賭博消費者保護フレームワーク
如何なる国・地域であっても賭博関連所管省庁が賭博種毎に複数存在したり、一国内の州や地域毎に個別の制度が存在したりすることが多い。
賭博種、地域毎にバラバラの制度や規制の仕組みになるが、これは関連賭博施設がカジノや競馬場の如く、特定の陸上固定施設内で営まれる場合、地域単位での制度や規制でも規制や監督は十分機能し、対応できるからに他ならない。
ところがオンライン環境の下で賭博行為が提供される場合、これでは機能しなくなる。
オンラインには国境も州境も無く、サイバー空間を通じて提供され、誰もが自由にアクセスできるため、例えこれを禁止の対象にしても、何処から誰が提供しているのか解り難く、既存の制度や規制の枠組みでは効果的な法の執行はできないからだ。
同様に賭博がもたらしうる否定的な行為、例えば未成年によるオンライン賭博へのアクセスや賭博依存症のリスクが増えること等をできる限り抑止し、規制することは、本来横断的に対処すべき共通の課題となるのだが、必ずしも効果的な対応がなされているわけではないことが通例になる。
かかる現実を鑑み、近年国としての包括的なオンライン賭博への対策を取る国がでてきつつある。
典型的な事例がオーストラリアだろう。
オーストラリアでは2015年の連邦政府委託調査である「違法オフショア賭博検証報告」に基づき、連邦政府指針が公表され、消費者保護のためにオンライン賭博に関する10の包括的施策を段階的に実践することとし、2018年11月に連邦政府と各州政府との間で国としての一定の統一的な政策を推し進める合意が成立した。
これを「オンライン賭博に関する連邦消費者保護フレームワーク~National Consumer Protection Framework for Online Wagering(NCPF)~」と呼称している。
一種の政策宣言(Policy Statement)になり、この考えに基づき複数年度に亘り、段階的に連邦政府・州政府が協働し、統一的施策を実践するというものだ。
2018年2月には①オンライン賭博におけるクレジットラインを付与することを禁止し、②短期貸付行為も禁止する措置がとられた。
2019年には③顧客本人確認の厳格化、④顧客誘引施策の制限、⑤顧客の意思による顧客勘定閉鎖手続きの簡素化、⑥事前賭け金上限コミットメントシステムのOpt-in/Opt-outスキームの導入、2022年7月には⑦顧客に対する活動履歴報告の義務化、2023年3月には⑧対顧客メッセージの一貫性導入、⑨職員教育訓練の実践、2023年8月には⑨連邦政府としての統一的国家自己排除登録システム(BetStop)の運営開始が実践され始めた。
複数年度に亘ったのは連邦政府内の複数省庁や各州政府との様々な政策的調整が必要となり、段階的に少しずつ統一的な枠組みとするという手法しか採用できなかったからでもある。
このアプローチはオンライン賭博がもたらす危害を撲滅するための包括的な国家戦略を開発し、これを実践するための連邦政府の施策であり、連邦情報省(Dept of Communication傘)下の国の機関となる豪州情報・メデイア機構(ACMA, Austrian Communication &Media Authority)が責任を担い、様々な政府機関、州政府、賭博関連施行者、金融機関、コミュニテイーグループ等と協力、業務を分担しながらプログラムを実践するという興味深い手法が選択された。
この内特筆すべきは、連邦自己排除者登録でACMAが管理運営するシステムだ。
各州の関連オンライン事業者は対象となる自己排除・家族排除申請者をACMAの顧客データベースに登録する義務があり、これにより免許を得た国の如何なる施設、あるいはオンラインサイトにおいても国全体の統一的な排除システムの対象となり、確実かつ効果的な排除が可能になる。
個別の施設やオンラインサイトが自己排除や家族排除のシステムを設けても、別の施設や別のサイトに顧客が逃げたら排除の効果等ないのだが、国全体の統一システムでこれを行えば効果的になる。
国の機関が統一的にこれを行うのは顧客情報の遺漏等を避けるためでもある。
尚2017年のInteractive Gambling Actの改正により、ACMAはISP(インターネットサービスプロバイダー)に対し、違法オンライン賭博サイトをブロックする要請ができることになっている。
2017年以降これは実施され、計263の違法サービス事業者は豪州市場から撤退、2019年11月以降2023年迄ACMAは計863の違法サイトをブロックしており、その後も違法サイトブロックを強力に進めている。
国内の免許事業者のみを管理しても海外の違法サイトが存在する限り、法の執行が弱くなるからだ。
オンラインによる賭博提供が免許の対象となり、一般化している欧州各国でも類似的な消費者保護の包括的施策が試みられるようになりつつある。
若年層による安易なオンライン賭博へのアクセスを供給サイドで遮断すると共に、賭博依存症を増やしかねないオンラインの賭博行為に一定の規制制限をかけると共に、サイバー世界に存在する違法オンラインサイトを遮断したり、オンラインでの賭博消費にクレジットカード決済を禁止したり、違法オンライン事業者への支払をブロックしたりする試みも始まっている。
様々な手法を組み合わせて供給・需要サイドの両方の規制を実践することが効果的な仕組みとなるのだろう。
オーストラリアでは2024年11月に16歳未満の子供のSNS利用を禁止する法律が成立したが、有害コンテンツを子供たちから遮断するという世界初の施策でもあり、上記に通じる考え方でもある。
(美原 融)