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2024-12-16

291.賭博依存症⑳ ネット時代の賭博依存症対応施策

インターネットと携帯電話は今や現代人の必携の情報手段になってしまっている。
電車やバスの中で8割の顧客が携帯を眺めているという異様な光景は今や日常的ですらある。
四六時中携帯を見ており、携帯が無いと落ち着かないという精神状態は最早依存症ではないのかという意見すらあるが、利便性の高い情報ツールを常に携帯し、利用するということ自体は特段おかしなこととも思われない。
もっとも若い世代の中には携帯電話を利用したSNSやチャットに過度にはまってしまったり、無料ゲームや有料アプリゲーム等に過度にはまってしまったりして、好ましくない依存症的な症状を呈する若者や未成年が増大しつつあることも事実の様だ。
何と未成年による携帯によるSNSや好ましくないゲーム等のサイトへのアクセスを規制・禁止しようとする国や地域もでてきつつある。

所謂オンラインで提供される遊び、ゲームの世界では、単純な技巧のゲームである場合、特段これを律する規制も制度も何もない。
ソフトは無料でダウンロードできるものから、有料のものもある。
クラウド経由無料で楽しめるサイトから、遊ぶ内容次第で課金されるサイト迄様々なゲームサイトがサイバー空間にはあふれている。
携帯電話により四六時中、何処にいても簡単に無料でアクセスできるサイトが目の前にある環境下では、ついつい終日はまりこんでしまう症状になる者がいてもおかしくはない。
単純な無料ゲームに留まる場合にはまだよいのだが、一定レベル迄上達すると以後は課金システムとなったり、ゲームに強くなるためのグッズが横で有料にて販売していたりすると、この有料レベルのゲームにのめりこむ可能性は高くなる。
当初は無料でも高いレベルになり勝ち進むと、仮想アイテムを取得できるサイトもある。
これをサイト内で現金に交換できる場合もあれば、サイト外で換金市場が成立していることもある。
こうなるとパチンコの三店交換みたいなもので、限りなく賭博に近い行為になってしまう。
かかる賭博類似行為は何が違法で違法でないのかの境目も不明瞭、また何が賭博で何が賭博でないのかの判断基準も不明瞭という状況にある。
一方オンラインで提供される賭博行為は、我が国では違法だが、サイバー空間には無数に違法サイトが存在し、特段に制約もなく、国民が賭博行為にアクセスできてしまう環境が成立している。
伝統的な賭博行為あるいはパチンコ等の類似的行為とは、特定の場所に物理的な施設があり、この施設に赴き、対面で遊ぶことが基本でもあった。
制度や規制の在り方もこの前提でできており、限られた場所で限定的に賭博行為ないしは賭博類似行為が営まれることで、規制が及ぶ範囲と対象を限定し、効果的な管理監督ができると考えたわけである。

ところが、ネット環境の発展とスマフォの登場はこれを根本的に変えざるを得ない状況をもたらしつつある。
賭博行為が安易な形でモバイル携帯によりなされることは、物理的に限定的な施設内での提供と異なり、利便性とアクセス性を飛躍的に向上させ、時間的制約もなく、自らの意思により自由に、何時でも、どこからでも、また何度でも賭博行為にアクセスできることを意味する。
これは今までの制度や規制では管理できない側面をもたらしている。
サイバー世界における利用者の行動を規制できる制度的枠組みは我が国には存在しない。
利用者の行動を抑止する効果的な枠組みも存在しない。
常時アクセスが可能となるため利用への自制が効かず、賭博依存症患者が増えるリスクが高まる。
また未成年による安易なアクセスを可能にさせてしまうリスクも高まり、これに伴う依存症の増加が社会問題化しつつある。
確かに何の施策も対策もしなければ、これらリスクが実現してしまう可能性は高い。

我が国の賭博法制や遊技法制は個別の法令によって律せられており、個別の制度的枠組みの中で個別の施行者が対応の責任を担う仕組みを前提としている。
要は制度的にはバラバラで分野共通的な課題にはそもそも対応できにくい。
IR整備法と並行して成立したギャンブル等依存症対策基本法は、公営競技、遊技等を網羅的に対象としているのだが、理念をうたう基本法でしかない。
国は基本計画を策定し、総合対策を担う義務を負うが、地域の事情に応じて具体の対応施策を考える主体は自治体(都道府県等)になり、対策推進計画の策定も努力義務、関連する施行事業者も協力義務に過ぎない。
即ち、地域社会や自治体に相応のニーズや動機が無ければ、枠組みとしては何も動かない。
事実IR誘致に成功した大阪府市は依存症対応の枠組み構築に熱心だが、その他の自治体の動きは全く鈍い。
勿論、財源の問題もある。
賭博や賭博類似行為の施行者から一定の資金負担を義務化し、これを財源として配布する等の包括的な財源と資金配分のメカニズムが無い限り、自治体としても動きづらいのだ。
依存症対策は社会的政治的重要性があり、予算がつけば優先度の高い施策となるのだが、そうではない場合、仕組みは作っても、実態は動かないということも我が国ではおかしな事象ではない。

デジタル化した社会における効果的な賭博規制や依存症対応施策はデジタルなツールを用いたり、デジタル固有の特性を考慮したりする施策でなければ、全く効果が無くなる。
依存症対策は更に賭博のみならず、賭博以外のゲーム等をも包含する形での施策でなければ意味がない。
賭博と賭博外のゲームの領域が解らなくなり、アクセスの自由度は世代を問わず、リスクへのエキスポージャーを高める効果をもたらしているからだ。
この意味ではデジタル化した社会では、より積極的かつ包含的に依存症問題への対応を図る新たな制度的枠組みが必要とされているのかもしれない。
勿論これと共に違法賭博サイトへのアクセスを遮断できる何らかの制度的枠組みも必要となる。
違法サイトを厳格に遮断しなければ、如何なる依存症対策も意味がなくなるからだ。

(美原 融)

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