2024-11-18
287.賭博依存症⑰ 行動抑止・規制
制度や規則の枠組みとしてなされる賭博依存症を効果的に抑止する施策の一つは顧客の行動を抑止する施策を制度や規則で設けることにある。
例えばリスクが高いと想定される賭け事や賭けの手法を禁止し、顧客が参加できないようにしたり、顧客の行動に一定の枠組みを設け、それ以上の行動にいかないように抑止したりすることである。
但し、顧客の行動を抑止することは、事業者にとり売り上げ・収益が減るリスクをも含み、二律背反的な側面もある。
賛否両論がある施策になり、全ての国・地域において採用されている施策ではない。
これには下記の如きものがある。
尚これらは陸上施設カジノでもオンラインカジノやオンラインスポーツブックでも考え方としては同一になる。
- 顧客賭け金総額、顧客損失総額に上限を設定~Limit Setting~:
制度や仕組みの中に顧客の賭け金行動を直接規制する仕組み、あるいは抑止する仕組みを設けることも依存症対策には効果がある。
一定時間/期間(日・週・月)における累積賭け金額・損失額の上限を設定したりする規制だ。
制度的に強制とする選択肢もあれば、自己申告で設定することもある。
特に電子機械ゲーム等の場合には、始める前にその日の上限額を入力し、プリコミットしないと次の画面に進めない等の工夫をする。
(Opt/Opt-out Precommitment Scheme)。
上限に達すると以後一定時間は遊べなくなる。
任意でこれを設定するのが現状の主流だが、果たして任意申告の仕組みで効果はあるのかに関しては懸念も残る。
但し、実証的な調査研究も存在し、依存症になりがちな性向を持った顧客に関しては、申告を無視した顧客と比較し、申告した顧客は明らかに総支出を抑制する効果があるとのことである。 - 顧客賭け金単価規制~Betting Unit Limit~:
単純に顧客の賭け金単価を小さく設定し、顧客にとり賭けやすくし、できる限り射幸心を除くことにより、賭博依存症等が起こる蓋然性を減らすことに繋がる。
但しカジノではあまり用いられる手法ではない。
一方オンラインが前提となるスポーツブックでは手軽に楽しめるエンターテイメントとして、低い賭け金単価を設定することがある。
市場が大きければ、事業者としても薄利多売でビジネスにはなる。
勿論賭け方や様々な組み合わせを工夫すると賭け金額は高くなりうるが、カジノの様に一回の取引で巨額の資金が動く賭けではなくなる。 - 顧客預託金制限~Deposit Limit~:
オンラインが前提となるオンラインカジノやスポーツブックのみに適用される考えになるが、これら賭博行為では決済のために当初個人勘定を開設し、そこに資金を振り込み、この預託金の枠内で賭けることになる。
この場合、一定時間/期間(日・週・月)における預託金上限あるいは預託回数を予め制限する考えになる。
預託金を越えれば当然遊べなくなるが、一定期間がたてば、再度預託金を払い込める。
任意でこれを設定することが基本だが、強制的にこれを規則として定める考え(例:ドイツMandatory Deposit Limit)もある。 - 対顧客与信禁止・短期無利息融資禁止等~Credit Restriction/Limit~:
対面施設となるカジノでは個別顧客の与信状況を審査した上で、限定的に顧客に与信をする慣行がある。
一方顧客の顔が見えないオンライン賭博の場合には、安易に与信を顧客に与えることは胴元にとっても顧客にとってもリスクが大きい。
あらゆる国で、胴元による与信(クレジット付与)やスマフォを用い少額を短期間貸し出す仕組み(消費者金融のスマフォ版みたいなもので、所外国ではPayday LendersとかSACC-Small amount credit contract-等と呼ばれている)等はオンライン賭博・スポーツブックでは禁止する措置が取られている。
スポーツ試合を楽しみながら、スマフォで賭け続け、資金がなくなったらスマフォで即刻短期借入れをし、自己勘定に振り込み、賭けるということがおこりかねないからである。 - 顧客による決済手法制限・規制~Credit Card Usage Restriction~:
後払いとなるクレジットカードの利用を禁止したり、曖昧な決済手法となる決済代行事業者の利用を禁止(例:ノルウエー)したりすることで、安易に手持ち資金以上に資金を使い、依存状態になることを防ぐ目的がある。
この結果、決済手法として利用できるのはデビットカード、前払いカード、電子財布、銀行振り込み等で電子的に預託勘定に振り込み、この枠内で遊べるような決済手法に限定する。
米国でもオンラインスポーツブックの場合にはクレジットカードの利用を禁止する州も多い(アイオワ、マサチュセッツ、テネシー、ペンシルべニア等)。 - リスクの高い賭け手法を禁止あるいは規制し、顧客に提供しない:
対面施設となるカジノでは賭け手法を禁止・規制することは稀だが、オンラインをベースとしたスポーツブックではハイリスク・ハイリターンの賭け事自体を禁止したり、規制したりすることがある。
例えば試合中の賭け(In-Play)、試合の勝敗には関係のない選手やチームのパーフォーマンスを賭けの対象にするProps Bet、複数の賭けを組み合わせるハイリスク・ハイリターンのParlay等の賭けである。
いずれも試合の楽しさを倍増する効果があり、人気が高い。
それだけ賭博行為にのめりこみ易いことになり、ついつい賭け金と賭けの回数が増えてしまうという結果を誘発しやすい。
これを避けるため制度としてかかる賭け方を一切認めないという国や地域がある。
消費者の行動を抑制する施策は、賭け方の選択肢を狭めることに繋がり、依存症を抑止するという効果的側面は確かに存在する。
但し、過剰な抑止策をとると顧客の不人気と離反を招きかねない共に、事業者売り上げは減少しかねない。
どうこれを実践するかに関しては、依存症抑止施策とスポーツブックを施行する政策目的との絶妙なバランスが必要になってくる。
(美原 融)