2024-11-11
286.賭博依存症⑯ アクセス規制
依存症への効果的な対策の一つは、依存症の兆候を示す顧客による賭博行為へのアクセスを遮断することにある。
アクセスできなければ賭博もへったくれもないからだ。
陸上固定施設であるカジノ等の場合、好ましくない顧客、入場が認められない顧客等を排除する方法は、排除すべき主体の個人情報(氏名等、あれば顔写真)を取得し、これをブラックリスト化し、施設への入場時点で本人確認手順をとるか生体認証等により不適切者を照合、特定し、排除するというものだ。
排除者リストをできる限り充実させ、かつ入場時点で本人確認をしっかりやればこの考えは機能する。
複数施設間や広域で情報を共有すれば更に効果的になる。
オンラインやモバイルを主たる手法として提供されるiGamingとかスポーツブックの場合には、かなり事情が異なる。
ウエッブサイトは基本的には誰もがどこからでも、自由にアクセスできる仕組みだ。
事業者が開設するオンライン・プラットフォームにアクセスし、ここで賭けるのだが、通常のネット取引と同様に、賭ける金を準備させ、賭けに勝った場合、どう勝ち金を配分するかを仕組みとして決めておかないと何もできない。
ネット賭博の場合には、まず一定の個人情報を事業者に提供し、本人確認手続きを経て、個人の預託勘定を作ることから始まる。
この勘定に例えばクレジットカード引き落としや銀行からの電子送金で、一定金額を預託すると初めてこの勘定が有効化される。
この預託金の枠内で賭けるのだが、勝った場合には勝ち金はこの勘定にクレジットしてもらえる。
この勝ち金を現金化するためには、この勘定から銀行に送金させたり、クレジットカードにクレジットさせたりするという手順を踏む。
預託金額の枠内で継続的に何回も取引できるようにし、勝ち金も一端預託させ、再度賭け金に使えるように勘定に滞留させるわけだ。
本人確認手続きの厳格度は国・地域によっても異なるが、顔写真をスマフォでとり、かつ何らかの写真付き公的書類の写しを添付したりすることが通例である。
マイナンバーカードのような公的電子本人確認手続きを踏めばこれは完璧な本人確認になる。
オンラインの場合のアクセス制限は、この個人情報を本人の同意を得て、不適切主体排除に用いることになる。
豪の一部州等では勘定開設後72時間以内に顧客が公的本人確認書類を送る仕組みを採用していたが、古い考え方でこれでは甘い手順になってしまう。
一定時間の間、本人確認前に賭け行為をさせてしまうことになるからだ。
現代社会ではスマフォを通じ、本人確認を電子認証できる技術は存在するため、預託勘定開設と同時に本人確認が即刻なされなければ意味が無い。
尚、顧客が預託勘定を設立し、そのまま放置しておくと、第三者にこの顧客勘定を盗まれたり、未成年がこの勘定を悪用したりするリスクも無いわけではない。
これを避けるため、当初の顧客勘定設定時に顔写真を登録し、サイトへアクセスする度に生体認証(顔認証)手順をとることで、他人によるなりすましを避けることができる。
モバイルであっても技術的には瞬時に可能な手順となり、顧客にとっての負担を少なくできるが、現状かかる手順をとっている事業者はまだ少ない。
尚、上記本人確認手続きを徹底すれば、当初の本人確認手順で、何らかの公的書類により年齢を確認でき、これにより未成年者がモバイル等の手段を用いてオンラインの賭博行為に参加することも確実に排除することができる。
陸上設置施設の場合には施設に入る時に、本人確認を徹底する国・地域があると共に、これをしない国・地域もある。
入場時に本人確認さえ徹底すれば、未成年や好ましくない主体による賭博参加等は陸上設置施設でもオンラインでもありえない可能性になる。
カジノ等と同様にネット・モバイルによるオンライン賭博の場合にも顧客本人による申告(自己排除)、あるいは家族等による申告(家族排除)等により、賭博行為への参加を自主的に排除する仕組みを設けることが諸外国では実践されている。
申請はネットで、3ケ月から一生の間で選択でき、対象者名義の預託勘定をブロックし、同じ氏名で新たな預託勘定も開設できないようにする。
排除された場合、サイトにアクセスできなくなる。
もっともサイバー空間では他の事業者のサイトが存在し、別のサイトのプラットフォームで新規勘定を開設することは誰でも、すぐ実行できるため、顧客がその他のサイトに逃げれば全く意味がなくなってしまう。
かかる問題を避けるため、豪州等では2023年からNational Self Exclusion Registerとして、国の機関が集中的にかつシステム的に排除対象者に関する情報を管理し、全ての免許事業者の排除リスト情報を共有することが実践されるようになってきている。
この場合、一つのサイト経由自己排除を申告すれば、登録されている同じ国の全ての事業者のサイトでもアクセスできなくなる。
これでも必ずしも完璧でないのは、サイバー空間には免許を受けていない外国の違法事業者がプラットフォームを保持し、排除対象者がこのサイトを利用する可能性がある。
違法サイトでは本人確認もいいかげんであることが多く、簡易性・利便性という観点から顧客をひきつけてしまうリスクが高い。
欧州諸国ではこれを避けるため、法の執行を確実に実践し、違法事業者のサイトを徹底的に締め出す試みがなされつつある。
ISP事業者(Internet Service Provider)に対し、違法海外スポーツブック事業者のサイトを見つけ次第排除する義務を課すとともに、規制機関の権限を強化し、金融機関等に対し賭博関連支払い停止命令を出せるように法改正した国々も多い。
上記はオンラインをベースにした賭博行為からの依存症患者等を含む不適切者排除、アクセス規制は、海外違法サイトの摘発や関連事業者の排除という手順を同時的に踏まなければ、実行性が弱くなることを示唆している。
(美原 融)