2024-10-07
281.賭博依存症⑪ スマートテーブルとRFIDチップ
デジタル化するゲームの世界の特徴は、事の是非は横において、①全ての情報が電子化され、記録可能になること、②全ての取引・行為に関わる情報のトレーサビリテイが飛躍的に向上することにある。
これは従来秘匿できた個人情報や個別の取引(賭け行為)情報の詳細に至る迄電子記録として残ること、過去の全ての取引の詳細を復元できることを意味する。
陸上設置型カジノにおけるスロットマシーンは電子式機械ゲームとでもいうべきもので、今や一つのカジノ施設にある全ての機械は電子的に連結し、全ての機械を包括的にシステムとして管理することが可能になっている。
かつこれを例えば顧客カードとリンクさせることにより、誰がどういうゲームをしたか、勝ち負けの詳細、賭け金の詳細等を含めてデータとして一元的に把握し、管理できている。
一方、テーブルゲームは機械ではなく、人対人が対峙するゲームであるため、長らくスロットと同じような管理は難しいと考えられてきたのだが、今やスマート・テーブル(Smart Table)と呼ばれる技術の導入により、類似的な管理が可能になってきている。
この仕掛けと発想はこうだ。
全ての個別のチップの中にはRFIDが内蔵され、顧客がテーブルで遊ぶ際にチップをActivateさせ、顧客と紐付けさせる。
チップの形状は通常のチップと同じ故、RFID内臓の事実は顧客からはよくわからない。
このチップを用い、スマートテーブルとかインテリジェントテーブルと呼ばれるテーブルで例えばバカラを遊ぶとなると、チップを所定の場所に置き、賭けた時点で瞬時に誰が、どの場所から如何なる金額をどう賭けたかをテーブルに内蔵された極めて敏感なセンサーがこれを感知し、デイーラーのところにあるモニター画面にこれが反映される。
カードもシューから取り出す段階でカードを自動的に読み、ゲームの勝ち負けの判断、勝ち金の配分額等もシステムが自動的に計算、もしデイーラーが間違えたり、顧客がおかしな行動をとったりするとアラームが表示される。
要はこれにより不正や間違い、ミスを完璧に排除することができると共に、取引時間を短縮させ、デイーラーの能力評価や顧客の賭け金行動(Betting Pattern)をも完璧に捕捉し、トレースできる。
かつ従来ピットボスやフロアーパーソン等の管理職が担っていた顧客の評価(レーテイング、コンプ算定のためにどの位の時間、どの位賭けたのかという情報の把握と評価)もシステムがデータを駆使し、正確に把握できることになる。
また全ての情報はリモートで把握でき、かつ記録も残るため、後刻問題が生じたことが解っても、過去に遡りチェックすることも可能だ。
テーブルのデジタル化は、日本企業を含めた世界の製造家により、様々な斬新なシステムが提供されつつある。
チップもカードも無く、全て画面となるテーブルでシステムに設けられた個人勘定からテーブルに電子的に引き出したりするという先進的なものすらできている。
このRFIDチップとスマートテーブルにAI Capture(カメラ)を利用し、AIに顧客を判断させ、その行動をトレースさせるという面白い仕組みも実践されている。
RFIDチップとスマートテーブルの組み合わせは、見かけ上は既存のテーブルと似ている故、顧客の抵抗感も少なく、導入も容易いのだろう。
かつ個人に紐づけられたRFIDチップを使用する場合、別のテーブルでも、別のゲームでも同様に遊べ、かつ胴元側は顧客のすべてのゲーム活動を捕捉できるというメリットがある。
チップのRFID化はもともと高額チップ偽造を防止する目的でもあったのだが、テーブルと連動させることで様々なことができるようになった。
このスマートテーブルはマカオ、シンガポール、豪州等で試験的に採用されており、時間の問題で今後の主流になりうる技術であると判断されている。
上記で見たように陸上賭博施設に設置されている電子機械やテーブルにおいて、全ての顧客の賭け金行動を捕捉し、管理できるような状況にある場合、これを賭博依存症に対する効果的な対応ツールとして利用しようとする考えが成立するのは当然だ。
例えばオーストラリアでは一つの州のホテルやバー、クラブにある全ての電子式ゲーム機械(EGM)のPerformanceは施設毎に電子的に纏められ、中央管理システム(CMS, Central Management System)を所有し、管理するモニタリング会社にリンクが張られ、15分単位で全ての機械のPerformanceをCMSに伝送する。
この目的は不正の排除と共に正確な租収益GGRの計算と税額算定、税務署を代行し、四半期毎に納税請求書を送付することにある。
州内のすべての電子ゲーム機械を集中的に管理しているため、顧客に一種のRoyalty Cardあるいは類似的なカードを持たせ、機械のアクセス時には必ずこのカードを使用する仕組みをシステムに追加することにより、様々なことができる。
例えば自己ないしは家族からの申告による排除プログラムの対象者のすべての施設・機械からの排除、自己申告による賭け金上限任意コミットシステム(Voluntary Commitment System)とリンクさせ、申告以上の賭け事を停止させる、同様に任意あるいは強制で賭け金上限規制、損失上限規制等も可能になる。
システムをうまく活用し、個人の賭け金行動を合理的に管理、モニターできるようになるわけだ。
あるいは過剰な賭博行為にのめりこんでいる顧客をシステムが捕捉し、職員が介入し、自制を促す行動もとれるようになる。
オーストラリアではまだ電子ゲーム機械のみにとどまっているが、スマートテーブルというコンセプトが広まれば、確実にテーブルゲームにおいても同様の賭博依存症抑止策を取れることは間違いない。
デジタル化は個人の賭け金行動を電子的に把握することを可能とし、AIがこれを常時モニターし、警告を出すことも不可能ではないわけだ。
潜在的な問題はやはりデジタル化とプライバシー(個人情報の遺漏防止)とはトレードオフの関係にあることにある。
ゲームの匿名性が損なわれることを嫌がる顧客は多い。
但し、デメリットを上回るメリットが顧客と事業者双方にあれば、デジタル化は更に推進する。
これにより、賭博依存症を危惧する声に対する効果的な施策が生まれうることも間違いない。
(美原 融)