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2025-05-19

312.金融デリバテイブと賭博①:Sport Event Futures Contract

米国の商品取引にはイベント予測市場(Event Based Prediction Marke)という商品市場が存在する。
将来のイベントの帰結を予測する金融派生商品でもあり、殆どがYes(起こる) or No(起こらない)の二者択一方式になる。
例えば当たれば1$を獲得できる契約の場合、市場の趨勢でYesの契約価格が$0.54で、Noの場合が$ 0.35であったりする。
売買価格の設定は市場参加者の予測と人気を反映し、常に変化する。
このポジション契約を顧客間で売買し、状況次第で譲渡、退出できる市場が予測市場で、イベントの終了時点でゼロか払い戻しを受けるかが決まる。
事業者はこの段階で一部コミッションを取る。
対象はなんでもありだ。
大別すると①Event Contract(将来のイベントの結果を予測する。
例えばビッドコインの相場、様々なイベントの結果、選挙で誰が選ばれるか等) ②Sport Event Contract(将来におけるスポーツ試合の勝ち負けやスコアの予想、例えばMLBワールドシリーズでどのチームが勝つか等)に分かれる。
これを専門的に取り扱う業者をPrediction Market Operator(予測市場運営事業者)というのだが、KalshiEX LLCやRobinhood、Crypto.com, Nadex等というプラットフォーム企業が存在し、彼らは様々なイベント予測を金融派生商品として全米50州で販売している。
将来のスポーツ試合の勝ち負けの予想となると、これでは賭博行為(スポーツブック)と同じではないかという懸念が生じかねない。
事実、これは賭博と見做す識者もおり、米国内部でも意見は分かれる。
建前としては金融商品としてリスクヘッジをする金融派生商品の一部になる。
例えば、これを利用するのは州政府による免許を保持しているスポーツブック事業者だ。
彼らは他のビジネスと比較して特有のリスクを抱えており、試合の結果に依存した不確実性や、賭けが集中することによる財務的な不均衡がリスクとして生じることがある。
帳簿(収入と支出の記録)に生じる不均衡からのリスクを管理するために、特定の金融契約を利用し、かかる財務リスクをヘッジするわけだ。
この将来のリスクに対して特別に対応できる契約を金融派生商品として提供することは、スポーツブックが財務的な安全性を確保し、より健全な運営を行うための重要なツールとなる。
この様に金融先物市場や金融デリバテイブ商品には、投資なのか賭博なのかの境界線が曖昧になってしまう側面がある。
尤も個人がこれを購入する場合、単純なスポーツブックと同じと考えてしまうのが普通だ。

かかる予測市場(Prediction Market)あるいは金融商品は将来の事象がどう起こるかの予想であって、米国では連邦商品取引法(CEA)に基づき、連邦の機関となる商品先物取引委員会(CFTC, Commodity Futures Trading Commission)の管轄下になる指定契約市場(Designated Contract Market, DCM )として認可されている。
この委員会は主に先物市場や商品取引の認可・監視と規制を行う役割を担う連邦機関だが、投資家の保護、市場の透明性、および公正な取引を確保するために設立されている。
要は例え将来のスポーツイベントの予想であっても、金融派生取引とみなされれば、その取引市場は連邦政府機関の規制下になる。

法的にこれをどう判断するかに関しては、様々な意見が存在する。
大手事業者KalshiXL LCCは2020年から経済指標等のイベント契約を取引することを始めたが、2023年6月に選挙の結果として連邦議会が共和党ないしは民主党の支配下になるか否か(Congressional Event Contract)を商品として、CFTCに申請した。
CFTCはこれを商品取引法規則40.11条違反、法的に認知できる商品とは言えず、選挙の結果を対象とすることは誤情報キャンペーンに利用されるリスクがあり、公共の信頼を損ねかねないとして9月にこれを却下した。
Kalshi社はこれを不服として、2023年10月にCFTCを連邦地裁に訴え(KalshiEX LLC v CFTC Civil Action N233257)たが、一年後の2024年10月にKalshiEX LCCは要約判決(Summary Judgement)を得て勝訴している。
直ちに控訴されたのだが、判決は係争が最終的に終わる迄CFTCによる法の執行を凍結するもので、この結果KalshiEX LLCは直ちに11月の大統領選に向け同商品を販売し、巨額の利益を上げている。
2025年1月には同業者Crypto.Com/Nadexは同様にスポーツ試合に関する予想を金融商品として売り始めたのだがCFCTは1月25日にこれらの販売を一端停止させ、90日間の検証期間を設定し、4月30日にラウンドテーブルを招聘し、イベント契約の妥当性につき議論をすることを表明した。
KalshiEX LCCも同時期からRobinhoodと組みNFL,NHL,MBA, NCAA等のスポーツ試合結果予想の契約を市場に提供し始めた。
もっともCFTCはKalshiに対しては、異論せず、黙認している有様だ。

トランプ政権となり、イベント契約に懐疑的であったCFTCの前委員長は1月20日に辞任、現在の会長代行は「強制ではなく包括的柔軟な手法でイベント契約の健全な発展を促すべき」とし、スタンスを変えている。
新たに政治任用で起用される委員長Brian Quintenzは2017年から2021年迄CFTCの委員で、2020年12月Nadex/Crypto.comがNFLの試合結果の契約を申請した際、これを違法と判断しようとした委員会の中で唯一反対し、後日これを弁護する公開文書を開示したことで有名になった御仁である(このイベント契約はNadex/Crypto.comがCFTC判断の直前に取り下げた為、表になっていない)。
その後彼はKalshi社の役員( ! )となり、今回委員長に返り咲く(!)という次第だ。
おまけに大統領の息子トランプJrは何と上記Kalshi社の特別アドバイザーに就任している!かつKalshiの筆頭法務役員はDOGE(連邦政府効率化省)のSEC法務担当として引き抜かれる有様だ。
このためか2月以降、CFTCはスポーツイベント契約に対しては、発言を控え、黙認している。
4月30日に予定されていたラウンドテーブルも理由もないまま直前にキャンセルされ、市場では失望感が漂った。
5月5日にはCFTCは連邦巡回控訴裁判所に当事者合意に基づく控訴取り下げを申請し、認められる始末。
この結果選挙結果のイベント解約は自動的に認められることに。
トランプ政権中枢にKalshiシンパが多い場合、連邦機関であるCFTCは確実にKalshiを庇う方向へ傾きそうだ。

(美原 融)

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