2026-08-10
375.イベント予測契約:連邦商品先物取引委員会(CFTC)新ルール
連邦商品先物取引委員会(CFTC)は6月22日に新ルール案を意見公募に付したが、7月27日がその締め切り日でもあった。
その内容がFederal Registerで纏められ、公開されているのだが、何と極めて細かい文字で61ページもあるという大量の文書となっている。
明示的な反対意見を示したのは殆ど全ての州政府、州政府司法長官、州賭博規制機関、全ての部族政府と関連部族団体、カジノ事業者とカジノ関連事業者の団体等だ。
CFTC新ルール案に賛成する意見や中立的な意見もあるが、これは少数派でしかない。
数ある意見書の中で注目を浴びたのは元上院議員Chris Dodd氏のものだ。
勿論彼は金融危機の後始末としてのデリバテイブ取引規制となる2010年Dodd Frank法(金融規制改革法)の共同起草者でもある。
立法時点での連邦立法府の意図は何であったのかが、様々な係争や法的議論の焦点になっている以上、当時の立法起草者の意見はそれなりの重みをもつことになる。
よって彼の意見書は何と意見公募の最終日にCFTCに電子メールで送付された。
恐らく他の意見に影響を与えたくないという配慮に違いないが、最終提出日に意見を出すこと自体は米国ではおかしな慣行ではない。
このDodd元上院議員の意見書は彼の事務所からネットで全文が公表されているが、かなり衝撃的な内容だ。
①CFTCは新ルールを制定し、金融派生商品取引という枠組みの中で、賭博行為を助長する行動をとろうとしている。
②これは消費者を危険に晒し、投機を助長することに繋がり、Dodd-Frank法が志向する公共政策に反すると共に、同法の趣旨に合わない新ルールを制定することに他ならない。
③新ルールは歴史的に州政府の警察権限であった領域を連邦政府が侵害し、連邦部族ゲーミング規制法(IGRA法)に規定された部族の主権(Sovereignity)を損ねることになる。
Dodd-Frank法立法制定時の議会では、連邦原住民ゲーミング規制法(IGRA法)や連邦プロアマスポーツ保護法(PASPA法)を変える意図はそもそもなかった。
④CFTC特別規則40.11でGamingという言葉を用い、これを公益に反するとして禁止対象としたのは、スポーツ賭博やその他の賭け事をもイベント予測契約の枠組みでなされる可能性があることを危惧したからに他ならない。
要はDodd-Frank法成立当時の連邦議会の議員の意図としては、Gamingとは賭博行為と同等な意味合いで用いられており、イベント予測契約の枠組みの中でスポーツ賭博をその中に組み込み認める判断を当時はしていなかったということになる。
これももっともな話で、当時もし、イベント予測市場の枠組みの中で全ての州でのスポーツ賭博を認めるということが立法の前提になると明確にしたならば、全ての50州の反発を食らったに違いない。
当時、技術革新に基づき、イベント予測市場の枠組みで新たな金融商品として、現実に、全米を対象にスポーツイベントが賭博の対象になりうることを認める等誰も想定していなかったからだ。
Dodd元上院議員は新ルール案の撤回を意見したのだが、CFTCがかかる意見をとりいれることはまずありえないだろうというのが市場における一致した見解になる。
それなりのロジックを組み立てて、論戦に参加した以上、単純な形でこれを自ら否定することなどまずありえないからだ。
この他、全米44州の司法長官もこの新ルール案は州政府、国民に対する法的に許諾された賭博行為への効果を無視し、社会的費用をも無視しているとし、採択されるべきではないとした。
全米ゲーミング州立法府協議会(NCLGS)、ニュージャージー州ゲーミング協議会(CANJ)、全米ゲーミング機械製造業者協会(AGEM)等の関連団体も新たにこの新ルール採択を撤回することを要請しており、これら請願は枚挙にいとまがない。
但し、あらゆる反対の声にCFTCが耳をかすとも思えないのが現実だ。
法廷闘争の現場ではもっと混乱した状況が生まれつつある。
ニューヨーク州では州司法省によるKalshiに対する業務停止排除命令(C&D)が訴訟の対象となり、Kalshiは連邦NY南地区裁判所に提訴したが、同裁判所は7月初旬にKalshiの緊急仮差し止め(TRO)要請を棄却。
Kalshiは直ちに連邦第二控訴裁判所(CA2)に控訴した。
7月27日に連邦地裁はKalshiの仮差し止め要請(PI)を棄却、その二日後の7月29日にCA2はKalshiの仮行政救済要請(Temporary Administrative Relief)を棄却した。
勿論これは最終判決ではないのだが、一時的差し止めが棄却されたことで、州政府は(裁判を継続しつつ)民事上の法の執行ができることを意味する。
州司法長官は直ちに法執行の申請を7月31日にNY郡高等裁判所に提出し、業務を停止させる緊急差し止め命令(TRO)と利益没収・罰金・利用者への損害賠償として何と360億㌦の支払いを要請するという泥沼の訴訟になりつつある。
これに対しては同日CFTCが差戻を要請し、控訴、Kalshiも連邦地裁への移管要請を実施し、どうやら延々と係争が続く可能性が高い。
一方ミネソタ州では全米で初めて州法によりイベント予測契約を禁止する法案が可決し、知事が著名し、5月18日に成立したが、CFTCは翌日連邦地裁に州政府を提訴、7月27日連邦地裁はCFTCによる仮差し止め要請(PI)を認め、何とCFTCが勝訴した。
ウイスカンスン州では4月にCFTCが州政府を連邦地裁に提訴したが、同地裁は7月29日にCFTCによる仮差し止め要請(PI)を棄却している。
よってこれは州政府の勝利。
いやはやこうなるとはちゃめちゃの感がし、混乱の極みという状況かもしれない。
7月30日には連邦第六控訴裁判所でオハイオ州、テネシー州の控訴案件の口頭弁論がなされたが、3人の裁判官の内2名はKalshiに対し、懐疑的な意見を提示し、州政府にとり有利な判決になるのではと噂されている。
一つの控訴審の判決は当然他の控訴審案件に影響を与えうるし、こうなると異なる控訴審で異なる判決がでてもおかしくはない。
本年末までに複数の巡回控訴裁判所の結審として異なる結論が出る場合、Circuit Splitが生じ、連邦最高裁によるレビューが始まるかもしれない。
但し、これは2027年になりそうだ。
それまでに何が起こるか、予測もつかないのが現実となる。
(美原 融)